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オンリー☆ローリー!〈2〉 Vol.7
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オンリー☆ローリー!〈2〉 Vol.7

2014-02-17 18:00
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    「さて、それじゃあ神楽に会わせてもらおうかな。支部長に就任して以来だけど、元気なのかい?」
    「おう、こんな立派な赤ん坊を産むくらいだからな」
     一本杉が泣きわめく赤子に目を向ける。
    「この子のお母さんが、日本支部のトップなんですか?」
    「……そうよ。神楽さんに深見くんを紹介するつもり?」
    「そのために来たって言ったじゃないか。しかしまあ、あの怜悧な刃みたいだった神楽が、今や一児の母親か」
    「いんや、ちょうど第二子を授かったとよ。ちーとも遊びを知らなかった女剣士が、子作りの喜びに目覚めたってのはめでたいこった」
    「げ、下品な言い方をしないでください!」
    「よければ嬢ちゃんにも教えてやるぜ?」
    「……絶対いつかぶった切ってやる」
    「その意気その意気」
     かっかっかと哄笑しながら、一本杉は休憩室を出る。メルティがニコニコしながら彼に続いていく。
     自分もついていかなければならないのだろう。零次はやれやれと思いながら休憩室を出ようとしたが……彼女を放っては行けなかった。
    「あのさ、崇城さんも来ない?」
    「どうして。あなたたちが何をしようと、興味ないわ」
    「まあ、そうだろうけどさ……」
     メルティの出現で、崇城は相当に不機嫌になっていた。
     依然として泣き止まない赤ん坊との組み合わせは、率直に言っていい絵とはいえない。好きな女の子を、いつまでもそんな状況に置かせたくなかった。
    「その、そんなに面白くなさそうな顔で赤ん坊の世話をしても、よくないんじゃないかなって」
    「そ、それは……」
     途端にためらいの表情を見せる。
     どうやらこの支部長の子供は、崇城にとっても大切な存在らしい。そうでなければ世話など引き受けまい。
     そして生まれたばかりの赤子を預けるということは、支部長もまた崇城を信頼しているということだ。となれば、修行に没頭しようとしている崇城のことをそれとなく諫めようとするかもしれない。
    「その神楽さんって人に、今後のことをあらためて相談してみようよ。別に損になる話じゃないだろう?」
    「……わかったわよ」
     しぶしぶ、という顔をあからさまにしていたが、自分の言うことを聞き入れてくれたというだけで、零次は心が温かくなった。
     再びエレベーターに乗り、最上階に進む。
     ほどなく支部長室のプレートが見えてくる。崇城がメルティに激しい視線を向ける。
    「神楽さんは妊娠がわかったばかりで、今とても大事な時期なのよ。くだらない挑発なんかしたら、許さないからね」
    「そんな女の風上にも置けないことをするわけないじゃないか」
    「何が女よ。化け物のくせに」
    「うわあ、傷ついた! 零次、慰めてよう」
    「はいはい、これでいいですか」
     適当に頭を撫でてやる。メルティは猫みたいに頬を緩ませて、崇城は冷たい視線を投げかけてくる。
    「ずいぶん仲がおよろしいことで?」
    「えへへ。そうだろそうだろ。零次はいいんちょには渡さないもんね」
    「ええどうぞ! ふたりともお似合いだわ!」
     ガーンと頭の中でショック音が響く。
     動機はどうあれ、メルティは零次によくしてくれる。だから零次も邪険にはできないのだが、今後は距離の取り方も考えなければならないかもしれない……。
    「入るぞー」
     一本杉が一声かけて、返事を聞かずに扉を開ける。
     ヤクザ映画に出てくるような組長の部屋。凡人の零次はそんな感想を抱いた。
     部屋の奥には見るからに立派な水墨画の掛け軸が飾られ、両隅にはこれも高級そうな大壺が配置されている。きっと北欧あたりの有名ブランドだろう重厚な木製デスクも、得も言われぬ緊張感を与えてくる。
     しかしそこに座るのは、ヤクザとはほど遠い美女だった。
     ウェーブのかかったセミロングの黒髪。崇城よりもさらに意志の強そうな眼差し。身にまとうのは彼女の人柄を表すような慎み深い薄紫色の和服。その内側から、香るような美しさを放っている。
     崇城が穏やかに歳を重ねたら、こんな風になるのだろうか。そう思った。
     彼女は無言で立ち上がり、崇城に……いや、崇城が抱える赤ん坊に近づいていく。
    「ちょうど仕事に一区切りがついたところだ。世話をありがとう」
    「い、いえ。私も楽しかったです」
     そう言っておとなしくなった赤ん坊を母親に返す崇城は、出会ってから今までで一番表情を柔らかくしているように思えた。
     憧れの目だ、と零次は直感した。崇城は仲間の中で、この人をもっとも信頼しているのだと。
    「日本支部長、雪街神楽警視正だ。見てのとおり、いい女だろ。子供を産んでますます乳と尻がでかくなりやがった。この着物じゃいまいちわからんが、朱美嬢ちゃん以上なんだぜ」
     とことんセクハラをしなければ気が済まないらしい。しかし雪街は何事もなかったかのように受け流して、零次とメルティに目を向ける。
    「久しぶりだな、《不朽の魔女》(エターナル)」
    「しばらく見ないうちに、いろいろ丸くなったね。これが母親になるっていうことか。数多くを経験してきた私でも、こればっかりは未知の領域だよ」
    「そして君が、深見零次か」
    「……はい」
     メルティは丸くなったと言うが、苛烈な魔法戦士であることに変わりはない。最初こそ成熟した大人の美貌に見惚れそうになったが、貫くような視線に零次は思わず唾を飲み込んだ。
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