【学園魔法ラノベ】オンリー☆ローリー!
ひとまず有意義な会話ができたところで、いつものように夕飯の準備をしなければならない。零次はエプロンを着用し、キッチンに立つ。
「もう要件は済んだわよね? 帰らせてもらうわ」
「どうせだから夕飯食べていってよ。まだ話したいことはあるし、のんびり食事をしながらさ」
「……まさかそういうことも考えてたわけ?」
「否定はしないよ」
いくつか考えていた作戦のひとつだ。食卓を囲めば交流を深められる……一般人であろうと魔法使いであろうと変わりがあるわけはない。学校で一緒に弁当を食べるのとは効果が一回りは違うだろう。
それに、崇城がまず拒否しないだろうとも予測がついている。
「本当に強引ね、あなたって」
「楽して食事にありつけるんだし、悪い話じゃないでしょ?」
むぐ、と崇城は言葉に詰まる。
料理というものは食べるのは簡単だが、用意するのは大変だ。零次も慣れているとはいえ、負担を感じないわけではない。
待っていれば料理が並べられる。これがどれほどありがたいことか。自炊している崇城も、常日頃そう思っているはず――。
「ふん、どれほどの腕か見せてもらおうじゃないの」
「よし。じゃあ適当にくつろいでて」
メインディッシュは酢豚に決めた。豚こま肉に塩麹と胡椒を揉み込んで、冷蔵庫で寝かせる。その間に炊飯器をセットして、野菜たっぷりの味噌汁を作っておく。さらにもやしだのキュウリだのを使ったシンプルなサラダ。あとは直前に魚を焼いて、豆腐でも付け加えればバランスのいいメニューになる。
調理の最中、じっと座って黙ったままの崇城を何度も盗み見た。しかし彫像のように微動だにしない。やることがない、という思考がダダ漏れである。
「テレビとか見てていいよ?」
「私、テレビはニュースくらいしか見ないの。前に言わなかったかしら」
「そういやそうか。あとスポーツは興味ないし本もまったく読まない……だったっけ」
「そんな暇があったら修行するわ。なのにこんなところで……。生活のリズムが狂ってしょうがないわよ」
「気になったんだけどさ、崇城さんは将来、どうなりたいの? そんなにも頑張って修行するのは、組織の中で偉くなりたいからとか?」
「地位には興味ないわ。最前線で魔法犯罪者と戦い続けたい。それだけ」
「でも崇城さんが憧れてる雪街さんは、管理職だよね。成果を上げたら上げたで、いつかはそうなっちゃうんじゃ」
「あ、憧れてるって……どうしてわかったのよ」
「見ればすぐにわかったけれど」
しばらくの沈黙のあと、崇城は言葉を繋ぐ。
「……私は神楽さんのようになりたいって思ってた。あの人は若手で一番の実力者と言われて、同時に人気の講師でね。子供の頃は指導を受けていたのよ。私の魔法剣だって、本来は神楽さんの技なの。私のは見よう見まねのコピーにすぎない」
「へえ。でも日本支部長に就任してからは……」
「あなたの言ったとおり、完全な管理職よ。もう前線に立って戦うことはなくなった。それで久しぶりに再会したと思ったら結婚して子供までできていて。鬼講師と呼ばれるほど厳しくて、生涯一戦士だと言っていたあの人が。メルティが神楽さんを丸くなったと言ったけど、本当にそうよ」
「んー、それが大人になるってことなんじゃないのかな」
「適当に結論じみたことを言わないで!」
調理の手を止めて、零次は崇城を振り向く。
「雪街さんも、自分がそうなるとはわかっていなかったと思うよ。だから余計に、修行とか戦いばかりに生きようとする崇城さんを気遣っているんじゃないかな。自分の希望どおりに人生が進むことって、そうそうないんだよ、きっと」
「そんなこと言われても、どうすればいいのよ! 今さらそんな……」
「どうすればいいかは、ゆっくり考えようよ。時間はあるんだから」
「ひ、他人事だと思って……!」
憤る崇城。しかし文句をぶつけられる相手さえも、彼女には今までいなかったのではないか。ならばこの自分にも存在価値はある。遠慮なくストレス発散のターゲットにしてくれてかまわない。零次はそう思った。
仕込みが完了して小休止。お茶とお菓子を用意すると、崇城はとりあえず手をつけてくれた。それだけで零次は嬉しかった。
暇なので夕刊を広げる。世の中、ニュースでしか知らない事件であふれている。そしてニュースにすらならない事件が、それ以上に隠れている……。
「魔法犯罪って、一般社会にバレたりすることないの?」
「バレる前に処理するわ。もし誰かに知られても記憶を操作したり。それが失敗したことがないのは、魔法の存在を見たことも聞いたこともなかったあなたなら、わかるでしょ。そもそも犯罪を犯そうとする側だって、目をつけられないようにこっそりやるんだし」
「でもさ、世界を混乱に陥れてやるぜーみたいな愉快犯とかは、出てこないのかな? IMPOでもカバーしきれないほど大規模な事件を起こしたり」
「……そういう発想はしたことないわ。考えるだけ無駄よ」
「万が一ってこともあるんじゃ? ほら、常に最悪の事態は想定しておくものだろ。雪街さんはどう思ってるのかな」
「さあ」
それで話題は途切れてしまったので、零次はデザート用のゼリー作りに取りかかった。これも女の子だからデザートは好きなはずだ、という作戦である。
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