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宇宙を身近に変える小型衛星ベンチャー アクセルスペース
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宇宙を身近に変える小型衛星ベンチャー アクセルスペース

2014-10-17 21:00
    ■人工衛星の“常識”を変える企業のビジョンとは?
    “人工衛星”と聞いて思い浮かぶイメージはどんなものだろうか。これまではNASAやJAXAといった国家機関が主導し、衛星メーカーが数年をかけて開発、費用も数百億円規模とかかるというのが“常識”だった。アクセルスペースは、数億円掛かってしまうという常識を劇的に変えようとしている大学発ベンチャー企業だ。超小型衛星を1年程度で開発し、数億円で飛ばしてしまう。衛星を飛ばせるようになると、世界はどう変わるのか、彼らが目指す未来のビジョンを聞いた。

     週刊アスキー11/25増刊号 No1000(10月14日発売) 掲載の創刊1000号記念連続対談企画“インサイド・スタートアップ”、第1回は小型衛星ベンチャーのアクセルスペースをアクセルスペース中村友哉代表取締役に、週刊アスキー伊藤有編集長代理が話を聞いた。

    インサイド・スタートアップ第1回アクセルスペース

    ↑今年度中に打ち上げ予定の“ほどよし1号機”。農業分野や水産業、災害監視などでのビジネス実証を目的とする小型衛星。1辺が約50センチで、質量は60キロ。分解能6.7メートルの画像を取得できる光学センサーを搭載する。

    ■小さな衛星をつくりたいと思ったとき、そのための選択肢は起業しかなかった

    伊藤 公式サイトを初めて拝見したとき、実は妙な違和感を感じたんです。色々な説明の一人称が必ず“我々”で、しかも小型衛星開発の世界を代表しているような口調だったからです。なぜこんなに自信があるだろうと。後日、『キューブサット物語~超小型手作り衛星、宇宙へ』(エクスナレッジ)を読んで腑に落ちました。世界で初めて学生の小型衛星打ち上げを成功させた東京大学と東京工業大学の混成企業だったんですね。

    中村 ええ、そうですね。

    伊藤 ルーツは空き缶衛星の“CanSat(カンサット)”プロジェクトなのですよね。そのあと、10センチ立方、重さ1キロの衛星を宇宙に飛ばす“CubeSat(キューブサット)”と、もう少し複雑な小型衛星を経て、2008年にアクセルスペースを設立、と。

    中村 はい、そのとおりです。

    伊藤 小型衛星をつくることを、どうしてビジネスとしてやってみようと思ったんですか?

    中村 学生時代に3回、小型の衛星をつくる経験をしたんですね。最初はオモチャのようなものを飛ばして喜んでいたんですが、だんだん複雑なものをつくるうちに、「小さい衛星でもいろんなことができるじゃないか」と思うようになったんです。たとえば重さ10キロに満たない衛星でも、30メートルを切る分解能の画像取得ができたわけです。これは、その性能だけでいうと1970年代のNASAの衛星と同じなんですよ。

    伊藤 なるほど。それはすごい。

    中村 そうなると、もう少し頑張れば社会に貢献できるようなものができるんじゃないかと思って、実際につくりたいと考え始めたんです。ただ、いざ実現しようと思っても方法がないんですよ。日本のみならず世界的に見てもそういう会社はなかったし、大学に残っても難しい。かといって、メーカーやJAXA(宇宙航空研究開発機構)に就職しても、小型の衛星を開発させてもらえるとは思えない。

    伊藤 それなら、起業してしまえ、と?(笑)。

    中村 そうです。そのときちょうど、科学技術振興機構(JST)の大学発ベンチャー創出事業があって、支援を受けて起業準備を始めたのが2007年です。

    インサイド・スタートアップ第1回アクセルスペース

    ↑開発はオフィス内に設置されたクリーンルームで進められた。部品には民生品も使用している。

    伊藤 通常の衛星というのは、何百億円もお金を掛けてつくるわけですよね。それをアクセルスペースは数億円程度でやるわけですが、買い手の見込みがあっての起業だったんですか?

    中村 いえ、準備の段階では、まず衛星をつくることが目的でしたね。数百億円だと民間企業は手を出せないけれど、百分の一になるなら、どこかは欲しがるだろうという希望的観測で始めた状態でした。まあ、結局、やってみないとわからないじゃないですか。

    伊藤 たしかに(笑)。世界でも例がないわけですからね。結果的に、最初に買ってくれたのがウェザーニューズだったと。これは、どういう経緯で?

    中村 準備の時期に、いろいろな会社に売り込みに行ったんです。でも、興味は持ってもらえるんですが、小型の衛星を使って何ができるかについては、お互いにノーアイデアなんですよ。

    伊藤 なるほど。みんな、興味はあるけどニーズがわからない。

    中村 そんなことを延々と繰り返していたところ、ウェザーニューズさんの側から見つけてくれたんです。興味があるから話を聞かせてくれと言われ、そこから半年くらいかけてディスカッションを続けて、これなら行けそうだ、となりました。

    伊藤 ウェザーニューズのおかげで、事が回り出した、と。

    中村 お客さんがいないなら起業を諦めようと思ったこともありましたね。少なくとも1年、2年は回せる当てができたから、起業しようとなりました。

    伊藤 ウェザーニューズは衛星を使って、何をしようとしていたんですか?

    中村 元々、ウェザーニューズさんは船会社に対して、最適な航路の情報を教えるサービスを提供していました。当時、北極海航路が話題になっていたんですね。温暖化で北極海の氷が溶けているから、船が通れるんじゃないかという話です。

    伊藤 なるほど。北極海を航行する船が安全に運航するための情報を衛星で手に入れるわけですね。それは、既存の衛星ではできないんですか?

    中村 既存の衛星を使うと、画像1枚で100万円掛かってしまって、1回の運航で何千万円というコストが必要です。船会社が払えるのはせいぜい数十万円だから、これでは商売にならない。けれど、自前の衛星を飛ばしてしまってそれを使えば、ペイするんじゃないかと。

    インサイド・スタートアップ第1回アクセルスペース

    ↑WNISAT-1から送られてくる実際の画像分解能は500メートルと低いものの、目的である北極海域の海氷の観測には十分な性能だ。

    伊藤 ウェザーニューズが求める要件は、小型衛星でも満たせるんですか?

    中村 北極海航路の場合は、氷を見たいんですね。氷にもいろんなサイズがあって、たとえば1メートル程度の氷なら問題にはならない。だから、航行不能になったり大事故につながったりする、大きなサイズの氷を見分けられればいいわけです。

    伊藤 つまり、粗い画像で十分。

    中村 そうです。それで、その氷の分布がわかる画像を初期データにして、風や海流を考慮して氷の動きをシミュレーションし、その結果を船会社に伝えるわけです。だから、なるべく低コストで頻繁に画像が手に入るのがベストなんですね。

    伊藤 シミュレーションの精度が上がりますからね。

    中村 そうです。我々は衛星には詳しいんですが、それで何をするかについてはわかっていなかった。だから、売り込みに行っても話がかみ合わない。ウェザーニューズさんはニーズがはっきりしていて、初めて会話がかみ合った感じでしたね。

    ■軌道上に衛星のネットワークをつくるのが我々が掲げているゴールのひとつなんです

    伊藤 それで、昨年11月の“WNISAT1”の打ち上げにつながったと。今年度中に打ち上げ予定の“ほどよし1号機”はビジネス実証が目的だそうですが、どういった用途を想定しているんですか?

    中村 いろいろありますが、たとえば農業です。農家の方が衛星画像を使って何かしようと思ったときに、1ヵ月、2週間に1回見るのでは頻度が足りないんですね。作物の成長スピードを見て肥料をあげたり、収穫の時期を決めたりといった目的には、毎日見ないといけない。

    伊藤 毎日となると、既存の衛星では難しいですね。コストの面でも厳しい。

    中村 我々が掲げているゴールのひとつが、たくさんの衛星を打ち上げて、軌道上に衛星のネットワークをつくるということなんです。これが実現すると、世界中のさまざまな場所を毎日撮ることが可能になって、いろんな人が気軽に衛星画像を使えるようになります。

    伊藤 おお、それ、すごいですね。

    中村 その第一歩がほどよし1号機なんですね。「このサイズでもこれくらいの画像が手に入るんですよ」というのを理解してもらって、将来的にたくさん打ち上げるためのデモンストレーションという位置付けです。

    伊藤 現状の分解能はどれくらいなんですか?

    中村 ほどよし1号機は6.7メートルです。最終的には、2.5メートルまで上げていきたいと考えています。

    伊藤 米国の軍事衛星なんかだと、どれくらい?

    中村 30センチとかですよね。それだと大きな望遠鏡が必要になって、その土俵で勝負しても我々は勝てない。だからたくさん打ち上げて、“頻繁に撮れる=時間分解能”という別の軸で勝負するわけです。

    伊藤 なるほど。コストが100分の1なら、100個打ち上げてしまおうって考えですか。

    中村 それができれば、ほぼリアルタイムに近い地上観測が可能になります。そうすると、新しい用途が出てくるはずです。

    伊藤 これまでは使えなかった画像を使って、新しいことをしようとする人が出てくる。

    インサイド・スタートアップ第1回アクセルスペース

    ↑現在、試作モデルを開発中の小型衛星“GRUS(グルース)”。複数を組み合わせてリアルタイム地球観測網を構成するもので、分解能は2.5メートル。2016年の打ち上げを目指している。

    ■衛星からの画像の利用についてはオープンイノベーション的な考え方が大事

    中村 さらに我々としては、ナマ画像は無料で出してしまって、誰でも勝手に使えるようにしようと考えています。

    伊藤 ほおー。その場合、収益はどこで確保するのですか?

    中村 画像だけを見て何かするのは、非常に難しいんですね。だから、我々が意味ある情報を抽出するサービスを提供し、そこに付加価値をもたせようと。

    伊藤 なるほど、分析した情報を売るんですね。

    中村 ナマ画像のほうは、どんどんビジネスでも使ってもらって、我々はプラットフォーム利用料のような形で課金することも可能ですね。そういうオープンイノベーション的な使い方が大事かなと考えています。

    伊藤 UNIX文化的考え方。

    中村 さらに、地上のあらゆるセンサーから得られるビッグデータと、衛星からの情報を関連付けていきたいな、と。いわば“宇宙にあるセンサー”として、当たり前のもののように使ってもらいたいんです。

    伊藤 みんなが使えば、コストも下がりますね。“オープンな衛星”という感じで、たとえばアプリ開発でちょっと使ってみたいときに使えるとか。

    中村 そういうイメージです。

    伊藤 おもしろいですね。ところで、学生ベンチャーから始まったアクセルスペースのような企業は、既存の衛星メーカーと比べて、ノウハウの面でどう違うんでしょうか?

    中村 カルチャーというか、発想がまったく違いますね。大きな衛星をつくるメーカーさんは、「衛星はこうつくるものだ」というスタンダードがあり、小さい衛星をつくろうとするので、コスト的に見合わないんです。それに対して我々は、むしろ缶サイズからどんどん大きくしてきた。スタート地点が違うんですね。何しろ、最初が手のひらに載るサイズですからね(笑)。

    伊藤 そもそも小型化の必要がないですよね(笑)。

    中村 大学の研究室で試行錯誤して、自分たちでスタンダードをつくってきたというのが、我々のアイデンティティーです。

    伊藤 それを聞くと、大きな衛星と小さな衛星はまったく別物なんだという気がしてきますね。

    中村 そうだと思います。

    伊藤 最後に、今後の展開を教えてください。

    中村 昨年、最初の打ち上げが終わり、会社としてやっとスタート地点に立てたかなと。今年、来年と打ち上げ予定がありますし、今後は資金調達をして、最低でも1年に1回は打ち上げていきたいですね。

    伊藤 とんでもないスピードですね。期待しています!

    インサイド・スタートアップ第1回アクセルスペース

    アクセルスペース代表取締役
    中村友哉

    1979年、三重県生まれ。東京大学大学院工学系研究科航空宇宙工学専攻博士課程修了。大学院卒業後、同専攻での特任研究員を経て2008年にアクセルスペースを設立。

    ■関連サイト
    アクセルスペース

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