話題のスマホゲームのクリエイターとスクウェア・エニックス安藤武博氏が対談する連載『召喚★アプリ神(ゴッド)』。週刊アスキー本誌で掲載しきれなかったインタビュー内容を3回に分けて掲載します。

 第5回目のゲストはこの人、アカツキ『サウザンドメモリーズ』の共同創業者 代表取締役CEO、塩田元規さんです。

 なお、第6回のゲストはコロプラ『白猫プロジェクト』の浅井大樹さんと角田亮二さん。このインタビューを読んで気になっていただけた方は、10月28日発売の週刊アスキーをチェックしてみてくださいね。

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■ 突っ走りながら、壁にぶつかりながら生まれた千メモ

安藤武博(以下、安藤):今回召喚するのは、クリエイターでありアカツキを創業された起業家であり、また先日飲み屋ではっちゃけて足を痛められたやんちゃなアプリ神・塩田さんです。足は治りましたか?

塩田元規(以下、塩田):ありがとうございます。まだテーピングしている状態です(笑)。

安藤:塩田さん率いるアカツキという会社と『サウザンドメモリーズ(以下、千メモ)』というゲームからは、すごく元気で若々しい印象を受けます。実際塩田さんは若い! 今おいくつですか?

塩田:31歳になりました。会社をつくったのは4年前なので、その時は27歳です。

安藤:千メモが出たのが去年の11月。運営の対応スピードの異常な早さがすごく印象的だったんです。たぶんアカツキのみなさんはかなりハードに働かれていたと思うんですが、塩田さんご自身も以前、家にいるのは数時間であとはずっと会社にいるとおっしゃっていましたよね。

塩田:当時は、まず千メモをリリースすることを優先し、ユーザーさんのご意見をもとに直していくことに注力しました。

安藤:会社を興されてからの4年間はいかがでしたか?

塩田:僕個人は、起業したときから毎日突っ走っています。明日どうなるかわからない世界じゃないですか。来月のお金のことを考えながら回さなければならないので、創業して1、2年は土日もふくめてほとんど休んだことがなかったと思います。そのぐらい走りながら千メモをつくったわけですが、実はネイティブの開発を甘く見ていたところがありまして、3ヵ月で開発できると思っていました(笑)。

安藤:それはさすがに無理だ(笑)。

塩田:なんで他の会社はそんなに時間がかかるんだろうと思っていましたし、3ヵ月でリリースまでいけることを前提に投資していたので、開発が伸びてどんどんキャッシュが出ていって、本気で焦りました(笑)。

安藤:結局どれくらいでつくったんですか?

塩田:8ヵ月くらいです。9月には出せるかなと思っていたのが11月になったので、結構テンパりました。「出さなければさすがにヤバイ……」と急いだせいか、バランス調整がやや甘くなってしまいました。最初はかなり甘くて、発動していないスキルが結構あることが発覚したり、その後はもう徹夜続きでとりあえず早く直そうと。

安藤:アカツキさんはもともとSAP(ソーシャルゲームを提供する会社)的な立ち位置でブラウザゲームをつくられていた印象でしたが、千メモで見事にネイティブに転換しゲーム屋としての片鱗を見せましたよね。ヒット作の外側だけ変えて出すいわゆる「ガワ変え」が得意なSAPと、面白い遊びから掘り下げる、プロダクトアウトが得意なゲーム屋との間に大きな溝がある中で、アカツキさんは先駆けで千メモというヒット作を生み出されたと思うんです。千メモは良い出来映えで、ゲーム的に勝算や狙いがあったと思うんですがいかがですか?

塩田:インゲームのところ、つまりバトルでキャラをつなげるところが気持ちよくて、ゲームとして膨らませられると思ったのでそこから突っ走りました。とはいえ開発では地雷を踏みまくった気がしますが(笑)。

安藤:たとえばどんなところですか?

塩田:今まで5~6人のスタッフで1本つくっていましたが、クライアントエンジニアが入ってきたりすると14~5人になるじゃないですか。いわゆるエンジニアとクライアントチームが分かれるというのがチームとしては初めてで、ディスカッションしたり情報を共有することも難しくなる。今まで書いたことがなかった仕様書を書いたり、開発スタイルが全部変わりましたね。

安藤:問題にぶち当たった時に、学びながら並行してつくり上げていった感じですね。

塩田:そうです、爆速で失敗して爆速で立ち直る(笑)。このプロジェクトに本当に賭けていたので僕もガッツリ開発に入りまして、意思決定も1秒で、全社の決定としてできるというスピードと柔軟性があったのもよかったですね。

安藤:本当に気合で乗り切ったんですね。昔、自分で手がけたゲームでもそういうことがしょっちゅうありましたよ。よく完成したなぁと振り返ってみると、1日36時間働いていた、みたいな(笑)。

塩田:ありますよね、そういうの(笑)。長く働けばいいわけではなく、効率よく働きたいですね。

安藤:でもそれってゲームに対する愛や熱だと思いますし、千メモにもそれがありますよね。

塩田:ありがとうございます。ピンチでスマイル、ピンチをチャンスにというのが僕らの会社の文化になっているので、トラブルが起こっても「キタコレ!」みたいな感じです。あとはスタッフ全員がゴールに向かう意識を持っているのがいいのかもしれませんね。

安藤:スタッフのみなさんは、ネイティブアプリの開発が初めて方が多いんですか?

塩田:多かったですね。

安藤:そこがすごいですよね。新興のSAPが彗星のように登場した、ソーシャルゲームバブルのころは本当に3ヵ月でゲームがつくれた。そのせいか、いい方は悪いですが「ゲームなんてチョロい」と思ったウェブサービス出身の方もいたように思います。実際プロジェクトをご一緒してみると、ちょっと壁にぶち当たったときに、すぐ逃げてしまうスタッフがいたりと、ビックリしていたんです。
 ゲームづくりにおいて、長く粘り強く作れるかどうかこそが、すごく大事だと僕は思っているんです。嫌なことやピンチは必ずおこりますし、その時に乗り越えられるかどうかが大事なんですけど、アカツキさんの場合もピンチを完全に乗り越えたから上手くいったんだと思います。

塩田:僕らはブラウザーゲームの時代からそうだったんですよ。最初の赤ちゃんの育成ゲームは、僕と役員とエンジニアの3人でつくっていたんです。役員もコードを書いていたんですが、草野球でピッチャーをやって骨折してしまいまして。それでも片手でプログラムをしていましたね。さすがに「何で野球なんかやるんだよ!」とマジ切れしましたけど、それでも乗り越えていってました(笑)。

サウザンドメモリーズ ↑ほとんどのゲームはいつでもオープニングムービーを見られるようになっているが、千メモのオープニングムービーはゲーム開始時の一度きりしか再生されないという潔さ。幾多のディスカッションを重ね、「そこに工数を割くのならほかのことをやるべき」という結論に達し、今の形になったという。

■ 塩田氏と千メモの共通した魅力は“ギャップ”と“二律背反”

安藤:先ほど撮影した部屋の黒板に”やんちゃ”と書いてありましたけど、やんちゃは塩田さんとアカツキさんのイメージに合っていると思うし、最初はそれがすごくミステリアスだったんですよ。前にトークイベントをやったときにゲストで来ていただいたことがあって、かなりリラックスされていましたよね。僕もそうなんですけど、カッチリしたオフィスで短パンに裸足であぐらをかいてお話をされていた(笑)。でも話の内容はしっかり的を得ているんです。チャラいというイメージだけが残った人もいますが、話の内容はすごくいいことを言っていたという人もいる。見た目のイメージが先行してしまうとチャラいとかやんちゃとか思いがちですけど、でもチャラかったら千メモのようなゲームは絶対につくれない。

塩田:人としてインターフェースに問題があるのかもしれないですね(笑)。

安藤:チャラいのはイメージだけで、しっかりと地に足をつけて全員で粘り強くやる姿勢が塩田さんやアカツキさんにあるんですよね。先ほど会社の哲学を詰め込んだ冊子をいただきましたけど、やっぱり中身はちゃんとしている。見た目の印象と全然違う、そのギャップが魅力なんです。

塩田:それって、ほめられているんでしょうか(笑)。

安藤:もちろんです。そのギャップが千メモにも入っていて、入り口をパズドラのようにして、その上をガワ替えしただけのパズルRPGなのかなと最初は思っていたんですけど、縦3横3に並んでいるキャラをつなげていく遊びには、実はかなり深いものがある。つなぐ順番でスキルの発動の仕方が違ったり、「アーマーブレイクしてやろうか」みたいにしっかり戦略を考えて遊ぶこともできる。塩田さんと同じで、チャラいと思っていたら実は骨太だったわけです。

塩田:ありがとうございます。

安藤:僕は千メモのBGMがすごく好きなんですけど、そこにもギャップがありますよね。最初にトトが出てきてアニメやラノベっぽい軽い感じで始まるので、なんでこんなに重厚な音楽になっているんだろうって思うんですけど、遊んでいくと重い展開になってくる。だからこういう曲調になっているんだとわかるし、物語の最後もいい。面白くて、でもやがて悲しい感じになっていく。そういうギャップが絶妙のブレンドなんですけど、そのあたりは狙ってやっているんですか?

塩田:そうですね。今回シナリオを書いているのはラノベ系のプロの作家さんで、どちらかというとアニメ系、アイドル系が得意なんですよ。でも僕やもうひとりのプロデューサーは昔のスクウェアの作品が好きで、悲劇の要素を取り入れることをオーダーしました。僕はまずチームがよかったと思っていて、いろんな角度の意見をディスカッションで入れながら進めました。

安藤:いろんな感性が入って今の形になっているんですね。

塩田:それを狙っていたかというと、たぶん狙っていて、デバイスがスマホなのでライトなユーザーも手にとってくれる。ライトに見えてゲームを進めると実は深い、それを両立させること、一見反して見えるものを両立させるというのが、僕らの会社の文化なんです。自由と規律が両方ある、やんちゃだけどちゃんとする、みたいな。

安藤:なるほど。それが僕が言っているギャップというか、二律背反のようなものなんですね。結果としてきちんとまとまっているところが面白いし、狙ってやっているところもすごくいいと思います。

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