■考えるべきコストは何か
ブロマガプロフェッショナル
本当に実践的な有料ブロマガで購読者数を伸ばす方法(夜間飛行 井之上達矢)
第7回 書くのをやめる前に考えてほしいこと(その2)
■考えるべきコストは何か
■考えるべきコストは何か
有料メルマガ・ブロマガの原稿を書くにあたって、どのようなコストが考えられるでしょうか。ざっと思いつくだけでも、取材のための交通費やインタビュー相手への謝礼、ノマド作業のためのコーヒー代、書籍やDVDあるいはライバルの有料メルマガを読むための資料代などが頭に浮かびます。
しかし、私が見る限り、これらは取るに足らないことが多いです(もちろん例外はあります)。ほとんどの有料メルマガ・ブロマガの著者が「最大のコスト」として捉え、その適正な量を計れずに悩んでいるのは、「執筆のための時間(取材のための時間も含む)」です。
このコンテンツを作るのに、はたしてどれだけの「時間」をかけていいものなのか。
考えるべきことは、これに尽きます。
■コストなんて考えている場合ではない
ここで非常に重要な「前提」を共有しておきたいと思います。そもそも「文章コンテンツを有料で売る」という事業は、ハイパーレッドオーシャン事業だということです。活字の発明と、その後の記録媒体の絶え間ない進化によって、この世の中には、無数の「興味深い読み物」が非常に安価な状態で存在します。
アマゾンで(もちろんリアル書店でも結構です)、新潮文庫やジャンプコミックスのラインナップを眺めてみてください。
人類史に名を残すような天才たちが自らの命を削って作ったコンテンツが、みなさんの有料メルマガ・ブロマガの価格よりも安く手に入ることを確認できるはずです。
そこに青空文庫やツイッター、ブログなどの無料の文字コンテンツを加えれば、LINEやゲームなどを挙げて「空き時間の奪い合い」を論点にするまでもなく、有料メルマガが厳しい戦いを強いられていることはあきらかです。
はっきり言って、「適正な執筆時間」なんて考えている場合ではありません。
『HUNTER×HUNTER』のゴンさんが殺る気満々で目の前にいるのに、「身の安全」を担保しながら勝負しようとしているようなものです。
毎日15時間を執筆のために使っても足りなくて、ご飯を食べている時も、トイレに行っている時も、寝ている時も、「書くため」に時間を使っても、土俵に立てるかどうかはわからないというのが、「文章コンテンツを有料で売る」という事業の現実的な状況です。
■ぶっちゃけた話
一方、現実的には、どのくらいの時間を、有料メルマガ・ブロマガの執筆に割くことができるのかを考えてみましょう。
月に2回、月額500円で配信しているメルマガがあったとします。
購読者数が50人の場合、500円×50人×60%(※)=15000円
購読者数が100人の場合、500円×100人×60%=30000円
購読者数が300人の場合、500円×300人×60%=90000円
購読者数が500人の場合、500円×500人×60%=150000円
(※注:実際に配信者に入る%はプラットフォームによってまちまちですが、ここでは60%としました)
月に2回なので、1回分の収入は、それぞれ7500円、15000円、45000円、75000円になります。
この収入を、自分の「目標とする時給」で割れば、取材をしたり、資料を読んだり観たり、アイデアを練ったり、実際に原稿を執筆するために割くことのできる時間の合計が出てきます。
時給1000円で良しとしましょう。するとメルマガのために割くことのできる時間は、それぞれ7.5時間、15時間、45時間、75時間となります。
おお、随分と余裕があるじゃないかと思う人もいるかもしれません。
しかし、時給1000円というのは、20日×8時間働いて月収16万円(年収192万円)という水準です。あくまで「趣味」と割り切るのであれば、問題ありません。しかし、「仕事」と考えるのであれば、話は変わります。
仮にサラリーマンの平均年収400万円に届くためには、どうなるか。12カ月で割って月収約34万円が必要です。ざっくり言って、時給2000円くらいのインパクトで稼がなくてはいけません。では時給2000円の条件だと、メルマガのために割くことのできる時間はどうなるか。それぞれ、3.75時間、7.5時間、22.5時間、37.5時間となります。
これはかなり短い時間と言わざるをえません。
例えば、7.5時間では、1本の映画評を掲載するのも簡単ではありません。映画館へ足を運び、新作映画を見るだけでも、3時間くらいはかかるでしょう。いざ、パソコンを開いて書き始めたはいいけれども、うまくアイデアが広がらず「そういえば、昔見たけどうろ覚えのあのアニメとくらべてみよう」などと思いつき、比較するために別のコンテンツにあたることになれば、さらに3時間は必要です。アイデアが固まって一気に執筆に入ったとしても、数千字の原稿をまともな日本語の羅列として埋めるのに、数時間はかかるはずです。
しかし、現実的に、有料メルマガの「よくある購読者数」(私の運営している夜間飛行は、著者を絞り込んでいるので、業界平均よりも高めだと思うので、正確な数字は知りませんが、多めに見積もったとしても150人ほどではないかと感じています)を考えつつ、時給換算で2000円を割ることはできないとすれば、メルマガ・ブロマガを書くために割くことのできる時間は、ざっくりと言って「1日」が限界だと思います。
■コミュニケーションを売るしかない
時間的コストは「1日」しか使うことができない。しかし、戦う相手は殺る気満々のゴンさん。
絶望的な状況です。
しかし、手が無いわけではありません。こうした場合の王道は「軸をズラす」というものだと思いますが、現在のメルマガ業界を見るかぎり、もっとも効果的だと私が考えているのは、「売るもの」をズラすというものです。つまり、「コンテンツ」ではなくて、「コミュニケーション」を売るのです。
何を「今さら」な話をしていると思われるかもしれません。「双方向こそネットの特性とか、Q&Aが必要とか、もう聞き飽きたよ……」という声が聞こえてきそうです。しかし、私の考える「コミュニケーション」を売るとは、もう少し幅を持たせたアイデアです。
例えば、あなたはゲームが下手だとします。もし、その下手さ加減に「味」があれば、それは十分に「売れる」ものになるでしょう。特に「双方向」にする必要などありません。ただ「味のある下手なプレイ」を垂れ流していれば、それを「面白い」と思う人は出てくるはずです。「ただ単に上手いプレイは、機械が動かしているのと同じでつまらないよね。人間らしい間抜けなプレイが見たい」という気持ちに応えているわけです。私はこれを「コミュニケーションとして売っている状態」と捉えて良いのではないかと思っています。
おい待てよ、そんなことを言ったら、これまでの「コンテンツ」も、すべて「コミュニケーション」だよ。夏目漱石だって、当時の日本人の気持ちをうまーく作品に埋め込んで、「ねえ、みんなの考えているのはこんなことだよね」とコミュニケートしたから文豪の地位を築けたんだよ。
そう指摘する方もいるもしれません。はい。おっしゃる通りです。しかし、まさに「コンテンツ」を「コミュニケーション」と捉え直すことに、大きな意味があるのは、上記のツッコミにも現れています。そうです。夏目漱石は「当時の日本人」とコミュニケーションをしていたわけです。もちろん漱石クラスの文豪の力は恐ろしいもので、平気で100年先の人間の心に突き刺さるようなコミュニケーションを投げかけてきているわけですが、それでも「芯が外れている」のは間違いありません。
メルマガ・ブロマガは、この「隙」をもっともっと徹底的につくべきだと考えています。
■コスト・コミュニケーションを意識する
「コミュニケーション」には無限の可能性があります。
「スゴい」と思われるのもコミュニケーションですが、「ウザい」と思われるのも立派なコミュニケーションです。「下手と思わせて上手い」も、「上手いと思わせて下手」も、「つまらないと思わせて面白い」も、「面白いと思わせてつまらない」も、すべて成立しうるコミュニケーションです。ただ単純に「上手い」「面白い」の絶対値で競う場合と比べて、工夫のしどころが圧倒的に増えます。基本的には、みなさんは、それぞれ自分にあったコミュニケーションの方法を探っていけば良いと思います。
その中で、一つだけ、私から見て非常に重要なコミュニケーションの切り口だけれども、あまり言語化されていないものを紹介したいと思います
私はそれを「コスト・コミュニケーション」と名づけています。
砕いて説明するなら、「いやあ、このメルマガ作るのに、こんなに時間も労力もかけてがんばったんだよね。だから買ってください。よろしくお願いします!」というものです。
一読して吐き気がした方もいるのはわかります。「たくさん時間をかけたら良い物ができる」とか考えているから、日本の労働環境はいつまでも良くならないんだよ!と怒りを覚えた方もいるのもわかります。
ただ、一方で、私はもっと真剣に考えなくてはいけないと思っています。なぜいつまで経っても上記のような議論が続くのか。なぜ美容室その他でマッサージをしてくれる人はすさまじく高い確率で、「凝ってますねえ、お疲れですね」と言うのか。
それは、やはり現実的に「頑張った」「長時間かけた」「気合が入ってる」「疲れるまでやったんだ」的なものに価値を見出す人が多いということを意味しています(正直に告白すれば、私もその一人です)。
私は、この状況を正しく理解して、メルマガ・ブロマガ配信の際に利用すべきだと考えています。
少なくともメルマガ事業で成功するという視点に立った場合、非常に重要な物事の本質をピンポイントで捉えた方がいたとして、「とにかく価値がある内容なんだから、簡潔に一文で表して配信をすればいい」という方法には、私は賛成できません。私からすると「もったいないなあ。コミュニケーション面でもっと工夫すれば、よりたくさんの人に伝わるのになあ」と思ってしまいます。
「頑張ったから評価して!」的な考え方に、もっとも縁遠いような堀江貴文さんも、実はブロマガにおいては徹底した「コスト・コミュニケーション」を行っています。
まず、「字数が多い」ということを通じて、「気合が入っている」ことを読者に伝えています。Q&Aコーナーにしても、一つ一つは「一言」で片付けているかもしれませんが、その数が数十本にもなれば、「大変だな、これ」というのが読者に伝わります。そして、編集Sさんが超絶ブラックに働いている様子がメルマガの端々から感じられるわけですが、これをもって、読者に「コスト意識を超えた情熱」を感じさせることに成功しています。
堀江さんのブロマガは、「本質だけを見つめようとするソリッドなアイデア」が、十分な「コスト・コミュニケーション」の上に乗っかることで、たくさんの読者を獲得しているのです。
まとめましょう。
・良質なコンテンツがなかなか色褪せずに、強力なライバルとして残り続ける「コンテンツ事業」は、基本的にハイパーレッドオーシャンな事業になっている。
・しかし、「コンテンツ事業」を「コミュニケーション事業」と捉えると、また別な景色が見えてくる。
・非常に有力なコミュニケーションの切り口として、「いやあ、このメルマガを作るのに、これだけのコストがかかっているんだよね。頑張ったからよろしく!」という「コスト・コミュニケーション」がある。
ご参考になれば幸いです。
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