ビュロ菊だより 第XX号 「料理店の寝椅子──彼女たちとの普通の会話」1-4 アニメ監督の山本沙代さんと

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 新連載といいながら長々と一人目のゲストとの対話が続いております「料理店の寝椅子」。菊地成孔が、女性の表現者と食事とお酒ともに繰りひろげる「普通の会話」というコンセプトのもと、今回も『LUPIN the Third 峰不二子という女』のアニメ監督・山本沙代さんをゲストに迎えた最終回! 今回は菊地氏お得意の精神分析がついに炸裂します! 「ゼクシイ・ファシズム」なる至言も飛び出し盛り上がった宴もついに終わりを迎え……続きは本文をお楽しみください! (編集=吉住唯/全4回)

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├○ 対談メモ

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├○ 於)新宿三丁目「トラットリア・ブリッコラ」(イタリア料理)

├○ 開始時刻) 20130423日午後08

├○ 終了時刻) 20130424日午前02

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■内臓が衰えている爺に代わって孫が飢餓ベースの復讐を
 

山本 祖父は、小学校を出てすぐ満州に行って。満州でボタン屋を営んでいたんです。で、そのまま兵隊になって、その後シベリアに抑留されて。

菊地 なははは、大トラウマじゃないですか(笑)。ワタシの父親も満州鉄道の警備隊員ですよ。

山本 祖父母の家に行くと、まさにその話をめちゃめちゃ聞かされるわけです。抑留されて、このままだと僕は死んでしまうからとシベリアから満州まで脱走して帰ってきた、とか。シベリア抑留記『凍りの掌』の作者おざわゆきさんとお話した時に、脱走した多くの兵士は逃亡中に亡くなってしまったと聞いて……。だから相当恐ろしい目に遭って帰ってきたんだろうな、と。だけど、おじいちゃんの発言には、子供ながらに疑問に思うことが多くて。例えば、一緒に中華料理を食べにいくと「デラックスなものを食べなさい」と言うんです。「デラックスって何?」みたいな(笑)。満足に食べれなかったトラウマがあったのかもしれませんね。

菊地 飢餓ベース、という感じですね。ワタシの親父も生きてるうちの半分ぐらいは戦時中の話でしたけど、でも、満鉄の警備隊は潤ってたから、戦時中には飢餓経験が無いんですよね。そんなおじい様の教育によってこそ、山本さんの飲み食いの喜びが培われたんじゃないですか?

山本 確実にありますね。サーティーワン・アイスクリームと中華料理、あとはお寿司屋さん。

菊地 何か3強みたいな(笑)。そこに妹さんはいなかったんですか。

山本 ほとんどいなかったんじゃないかな……。というか、私が家にいたくない理由の一つに、妹がいるということがあった(笑)。築地にある祖父の家のお墓参りに行くとお寿司が食べられる、という刷り込みがあって。お寿司屋さんで無尽蔵に頼むと、普通いやがられるじゃないですか。だけど、おじいちゃんは──

菊地 喰うほど喜ぶんですよね(笑)。しかも、内臓が衰えている自分に代わって孫が飢餓ベースの復讐をしてくれるとなったら、そりゃあ好きなだけ食えって話ですよ(笑)。しかし、妹さんが苦手で、二親等がイヤで、組織がイヤで、抑留がイヤで、満漢全席とゲームの喜びというシャブが打たれちゃって(笑)。