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正月から約半年が過ぎ、源氏25歳の夏。彼は、気の合う仲間と引きこもりライフを謳歌していました。源氏はたくさんの詩歌を作っては自画自賛、頭の中将は子連れで参加し、アットホームな集まりを楽しみます。

読者サービス?いろんな意味でスゴイ、源氏の比喩

梅雨の頃、バラがきれいに咲いています。蒸し暑い時期なので、源氏がシースルーの衣を着てくつろいでいる様子は「きれいなお肌が透けてなんとも美しい」。いきなりセクシー!源氏物語の読者は、リアル後宮の女性たちでしたから、こういうサービスカットも入れておくとウケたのかも。

頭の中将は「源氏の君は、今朝咲いたバラにも負けないね」と褒め称え、同席した年寄りの学者たちは歌の歌詞を引用して「逢わずにいられない、小百合の花の」と唱和します。これにはさすがの源氏も照れて苦笑です。

バラだのユリだの、美しい花の例えは女性ではなく、源氏のため!源氏の性別を超えた美しさの表現は何度も出てきますが、桜がとても多いのに対して、バラが出て来るシーンは珍しいです。

バラは中国から入ってきた植物で、ここでは漢詩を披露していたのに引っ掛けて言っています。平安時代なのでいろいろ誇張した表現は多いのですが、それにしてもこの、歯の浮くようなキザなセリフを、男が男に言っているというのがダブルでスゴイです。いろんな意味で。

最悪の展開!彼女の部屋でイチャついてたらお父さんが…

同じ頃、朧月夜が瘧(おこり・マラリア)にかかって、実家で休んでいました。「私、今実家に帰ってるの。体調も良くなってきたからちょっと来ない?」というわけで、源氏は毎晩夜這いに行きます。源氏は右大臣の親族に嫌味を言われたのがひっかかって、ちょっと疎遠になっていたのですが、ここで一気に盛り上がります。

ムチムチ美女だった朧月夜は、病気でやつれてちょっとスッキリ。女ざかりの色気が匂うようです。同じ屋根の下には、源氏を目の敵にしている右大臣(もう太政大臣なのですが、引き続き右大臣で表記)と、太后もいます。バレるかもと思うとゾクゾクする!この2人はこんなことばっかりですね。

当然ながら毎晩男が来るのがバレないはずもなく、気がつく者もいましたが、面倒なのでみんなスルー対応を通しています。

激しい雷雨の日でした。源氏は夜のうちに帰るつもりでしたが、雷を怖がって、朧月夜の部屋に女房たちが避難。寝台のあたりにも女房たちがぎっちり詰めていて、源氏をこっそり脱出させるすべがありません。

雷が遠のいた頃、唐突に部屋の御簾がさっと上げられて、中に入りながら「本当にひどい雷だったね。怖かったろう、大丈夫かね」。早口で落ち着きのないしゃべり方は右大臣です。どうも雨の音に紛れて、足音がわからなかったらしい。

朧月夜は大慌てで衣を引っ掛けて出ていきました。こっそり部屋で彼とやってたら親が来ちゃった、という最悪の展開です。

「おや?顔が赤いね。まだ熱があるのかな。もっとしっかり祈祷を…」。娘の様子が変なのを怪しんで見渡すと、彼女の衣のすそに男物の帯がくっついています。更に、男の字で何やら愛の言葉が書いてある紙もちらほら…。

右大臣は驚いて「その帯は何だね。この字は誰が書いたんだ。ちょっとパパに見せなさい」。朧月夜はもうしどろもどろ。右大臣はズカズカと踏み込んで紙を広い、寝台の中をのぞきました。プライバシーの侵害ですよ!

そこには源氏が優雅に横たわっていました。右大臣と目があって初めて、申し訳程度に顔を隠す素振りをするのがまた、非常にふてぶてしい。右大臣は怒りと驚きでカンカンですが、源氏をドヤしつけることもできず、書き散らしの紙を手に去っていきました。

「まったくけしからん男!」怒りの源氏追放作戦

右大臣は短気で、何事も胸におさめておく、というのができない性格。さらに加齢も手伝って偏屈なオジサンです。彼は証拠の紙を見せ、すべてを太后に報告しました。

「六の君(朧月夜)の部屋に源氏がいたよ。あの子をキズモノにしておいて、結婚話を持ちかけた時は乗ってこなかったくせに!そのせいであの子は正式に女御にできず、不本意な宮仕えをさせる羽目になったのに、あんまりじゃないか。それに、朝顔の斎院とも手紙をやり取りしているらしいし。男はみんなそういうもんだが、まったくけしからん男よ!

朧月夜が出世コースを外れたのは、他ならぬ彼女の好奇心もあったのですが、そんなことは知らないパパは、娘をキズモノにされ将来を潰された怨みを語ります。それにしても男はみんなスケベだ、というのをさりげなくここで肯定するお父さん、ちょっと面白い。

話を聞いた太后は鬼のような顔で、怨みの言葉をぶつけます。そもそも、彼女の怨みは右大臣の100倍ぐらい深いのです。
「小さい頃から、帝は何かと源氏と比べられては侮られてきた。左大臣の娘(葵の上)も、ぜひ妃にと頼んでいたのに…。それにあの子がキズモノにされた時、お父様まで源氏と結婚させようなんておっしゃって!全く、みんな源氏源氏源氏とあの男のことばかり!

それでもあの子は私の妹だから、尚侍として後宮入りしても他の妃に負けないようにと、協力してきたのですよ。なのに、まだ源氏と関係して私に恥をかかせるとは!!」

女として源氏の母・桐壺更衣に寵愛を奪われたこと、母として可愛い我が子をバカにされ続けてきたこと、権力者として葵の上も朧月夜も源氏に奪われたこと。積もり積もった太后の怒りは、もう手のつけようがありません。もともとおっかないおばさんでしたが、ここでオニババアに進化。

更に、斎院となった朝顔と源氏の手紙のやり取りについても「本当にいかがわしい男だわ。聖職者の斎院を誘惑するなんてこと、あの源氏には朝飯前なのよ。これは帝に対する冒涜です。あの男は、自分が後見している皇太子の時代が早くくればいいと思っているのだから」。

彼女があまりにも口汚く罵るので、右大臣は逆に言われている人たちが気の毒になり、話したことを後悔しました。自分が焚きつけたのに…。憎い相手でも、あまりに悪口を聞くと何だかかわいそうになる、というのは結構あるあるネタですね。

「まあまあ、このことはしばらく秘密にしよう。幸い、帝はあの子を愛してくださっている。きっとお許しくださるだろう。今回は私からよく叱っておくよ。それでもダメなら私が責任を取るから」。

オニババア化した太后が、そんな生やさしい言い方で落ち着くわけがない。「私がこの家にいると知って密会するなんて、愚弄するにもほどがある!でもこれは、源氏を追放する絶好のチャンスと見るべきね」。源氏を社会的に抹殺するのにこれ以上の口実はない。ああ、源氏、絶体絶命の大ピンチ。

一方、朧月夜はショックのあまり死にそう。源氏はかわいそうな彼女を慰めつつ、右大臣の言動にあきれていました。「娘の部屋にノックもせずに上がり込んで、ベッドの上をのぞくなんて最低だ。娘に対する思いやりがない。入ってくるにしても、まず話し終わってから、ゆっくり入ってくればいいものを。セカセカした落ち着きのないおじさんだよ」。

なんかツッコむところがズレている気がしますが、平安時代は何事もゆったり行うのがよいこと。大臣ともあろう人が、ベラベラしゃべりながらどんどん部屋の中に入ってくる、というのはすごくダメだ、と言いたいのでしょう。

何より、年頃の娘の寝室にいきなり入ってくる父親というのはいただけないです。プライバシーというものがあります。ちなみに、当時のノックは扇をパチンと鳴らして合図していたそうです。男女ともに、扇は常に携帯していたからできたことですね。

簡単なあらすじや相関図はこちらのサイトが参考になります。

3分で読む源氏物語 http://genji.choice8989.info/index.html
源氏物語の世界 再編集版 http://www.genji-monogatari.net/

(画像は筆者作成)

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(執筆者: 相澤マイコ) ※あなたもガジェット通信で文章を執筆してみませんか

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