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いま70〜80年代の少女マンガが密かなブームに!? 代表作家のひとり、萩尾望都について専門家に聞いてみた
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いま70〜80年代の少女マンガが密かなブームに!? 代表作家のひとり、萩尾望都について専門家に聞いてみた

2017-05-23 14:30

    今、70〜80年代の少女マンガが密かなブームになっているのをご存知ですか? 近年、この時代の少女マンガ家の特集本が相次いで発行されたり、展示が行われたりして、当時の読者はもちろん、若い世代の読者も増えてきているんです。

    特に、最近立東舎より発行された書籍『少女マンガの宇宙 SF&ファンタジー1970-80年代』という本は大注目! 当時のSFとファンタジーマンガに注目して、たくさんのイラストとともに紹介した本です。


    この本のカバーイラストは、当時はもちろん現在も精力的に作品を発表し続けている萩尾望都さん。『11人いる!』『ポーの一族』『トーマの心臓』などでおなじみの、日本を代表するマンガ家です。『少女マンガの宇宙』には、彼女の短編「ユニコーンの夢」が掲載されていることも話題になっています。

    そんな萩尾さんと、当時のSF・ファンタジー少女マンガの魅力について、『少女マンガの宇宙』を編集した「図書の家」の小西優里さんにお話を伺いました。

    ーーー 70~80年代の少女マンガを読んでいた人にとって、萩尾望都さんはどんな人なのでしょうか?

    小西さん:70~80年代は、現在「少女マンガ」という言葉でイメージするような「少女マンガ」がその形を整えていった時期だと思います。今ではあまり想像がつかないかもしれませんが、70年代初め頃までの「少女マンガ」は読み応えのある作品は少ないとされていて、その評価も低いジャンルでした。しかしそんな「少女マンガ」に対する偏見を、発表するひとつひとつの作品の力で変えていった女性マンガ家たちが表舞台で活躍を始めたのが70年代です。本書では特に6人をフィーチャーして紹介していますが、彼女たちがそこからずっと現役で創作し続けているのは驚くべきことだと思います。その中のお一人が萩尾望都さんです。

    ーーー 萩尾さんをはじめとする当時のマンガ家は、数多くの傑作を作ると同時に、ハヤカワ文庫などで小説の装画も描かれていたんですね。両者には共通するものがあったのでしょうか?

    小西さん:ハヤカワ文庫FTの状況は、創刊を手がけた風間賢二(引田直巳)さんや、最初に少女マンガ家による装画を提案した脇明子さん、FT文庫で多くの翻訳をした井辻朱美さんに証言をいただきました。少女マンガ家に装画を依頼した理由については、本書の編集協力者でありファンタジー研究者である石堂藍の言葉「ファンタジーのロマンティシズムと華麗な世界観は少女マンガと相性が良い」、これにつきるのではないでしょうか。風間さんの証言によれば、少女マンガ家の美しい絵に引かれて文庫を購入する人が増えFTシリーズの発行は存続できたそうなので、いわゆる「ジャケ買い」企画として成功したということですね。

    ーーー 『少女マンガの宇宙』に掲載されているこうしたイラストは、現在では貴重なのでは?

    小西さん:少女マンガ家によるこのジャンルのカバーイラストを一堂に集めた企画はこれまでなかったと思いますし、本書では70年代から80年代にかけて少女マンガ家が描いたハヤカワ文庫のカバーイラストを、すべて掲載しています。そのほとんどが現在では変更されたり絶版状態だったりしているので、今見るのは難しいものばかりです。マンガ家さんの昔からのファンでも、翻訳ファンタジーやSF文庫の仕事まで全部を追いかけている方は少ないのではないでしょうか。

    こんなに多くのマンガ家さんが担当されていたのかということを一覧できるのが貴重で嬉しいというご感想も、たくさんいただいています。本書では紹介できませんでしたが、カバーイラストだけでなく本文の口絵や挿絵を描かれている場合もありますし、当時はみなさん本当にたくさんのお仕事をなさっています。古書ではまだ見つかると思いますので、本書を手がかりに探すのも楽しいかもしれません。カバーイラストで興味を持たれて作品を読んでみたいという方にも、参考にしていただけたら何よりです。

    ーーー 萩尾さんのSF・ファンタジーマンガのすごいところはどこですか?

    小西さん:とても簡単には答えられない質問ですが、「余人にはないイマジネーションの壮大さ、問題意識の高さ、それらをマンガ作品として表現できてしまう天才的手腕」というのが、石堂藍の萩尾望都評です。

    『少女マンガの宇宙』に収録した「ユニコーンの夢」は、この時代のジャンルを象徴する一作として特にお願いして掲載した短編ですが、執筆はとても勢いのある70年代前半。「ポーの一族」シリーズ第一期の「小鳥の巣」終了後で「トーマの心臓」の連載開始直前という時期です。短い中に多くの場面転換があるにも関わらず説明は最小限、しかし読者はストーリーを直感的に把握できるという萩尾さんのマンガ手法が確立し、発揮されています。

    マンガは小説と違って作家が観ている世界を視覚的に共有できますが、その上にも読者がそれぞれのイメージをどこまでも増幅していけるような、刺激されるところがとても多い、それが萩尾さんのSF・ファンタジーマンガのすごさかもしれません。

    本書は萩尾さんの仕事を紹介する分量がとても多いのですが、作品リストや解説を読んでいただくとわかるとおり「SF&ファンタジー少女マンガ」というジャンルの中での萩尾さんの仕事の占める割合が突出して多く、重要であるということに理由があります。本書で初めて萩尾望都作品に触れた方はぜひ他の長編短編も読んでいただきたいです。

    ーーー 『少女マンガの宇宙』はどんな人に手にとってほしいですか。

    小西さん:この時代を懐かしく思うマンガファン、SFやファンタジーファンの方たちはもちろんのこと、70〜80年代の少女マンガをリアルタイムでは知らない世代の方たちにも、ぜひ手にとっていただきたいです。

    未知の作品に出会う手がかりとして、細かくて見づらいですが「SF&ファンタジー少女マンガ635作品リスト」も参考にしてほしいです。これは調査した作品を泣く泣くしぼりこんで約半分の量にしたものです。本書で言及できなかった作家や作品の膨大さは、まさに宇宙の星ぼしのごとく存在しています。本書が多くの素晴らしい作品への窓口になることができれば幸いに思います。

    いかがでしたか?

    「こんな作品あったよね」と当時を懐かしみたい方や、「少女マンガでSFって読んだことないけど、何だか面白そう!」と思った方はぜひ『少女マンガの宇宙』を手に取ってみてくださいね。

    *本記事で使用している画像はすべて『少女マンガの宇宙 SF&ファンタジー1970-80年代』(立東舎)のものです。

    『少女マンガの宇宙 ファンタジー1970-80年代』(立東舎)
    http://amzn.to/2pRMZwz
    著者:萩尾望都、脇明子、井辻朱美、野阿梓、想田四
    編集:図書の家
    協力:石堂藍
    定価:(本体1,800円+税)
    発売:2017年4月20日

    PROFILE 図書の家
    1999年より少女マンガ研究サイト「図書の家」を開設し、初出調査や作家検証を中心に活動。雑誌記事・書籍の編集、デザイン、映像等の制作、資料提供なども行っている。2013年京都国際マンガミュージアムで企画開催された展示 「バレエマンガ〜永遠なる美しさ〜」では調査・資料協力を担当。主な制作実績に『ネコマンガ(●ↀωↀ●)✧コレクション』(立東舎、編集・制作) 『総特集 三原順』『坂田靖子ふしぎの国のマンガ描き』 (河出書房新社、企画・編集・制作)、『大島弓子 fan book』(青月社、作品解説・資料提供・編集協力)、『わたしのマーガレット展』(集英社、調査・全作品リスト制作・図録校正協力)などがある。

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