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ロンブー田村淳がニコ動に見出した「面白さ」
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ロンブー田村淳がニコ動に見出した「面白さ」

2013-03-14 14:33
    ロンブー田村淳がニコ動に見出した「面白さ」

    今回は柴 那典さんのブログ『日々の音色とことば:』からご寄稿いただきました。

    ■ロンブー田村淳がニコ動に見出した「面白さ」

    ●田村淳がテレビに見切りをつけた理由


    今のテレビを捨ててニコ動だけに絞ってやってみようと思った。それでホントに言ったんですよ、吉本興業に。俺、テレビを捨てて年棒制でニコ動専属タレントになるの無理かな?って」

    これは、先日発売された別冊カドカワの「ニコニコ動画」特集号に掲載された川上量生氏(ドワンゴ代表取締役会長)との対談の冒頭にある、ロンドンブーツ1号2号・田村淳の発言。僕はこの記事の取材と原稿を担当したのでもちろん現場にも居合わせたのだけど、スタートから数分で、いわばテレビ界に見切りをつけるようなこの発言が飛び出したときには、本当にビックリした。

    で、そこについて、いろいろと考えてみたのが今回の記事。

    「別冊カドカワ 総力特集 ニコニコ動画」 『FC2ブログ』http://blog.fc2.com/goods/4048954687/

    「別冊カドカワ 総力特集 ニコニコ動画」 『amazon』

    http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4048954687/

    もちろん、川上量生氏は株式会社ドワンゴの代表取締役会長で、ニコニコ動画の生みの親の一人でもある。そういう人が相手の対談ということで、いわばサービストークだった可能性もある。それに、その後に「今はまだ自分がテレビでやり残したこともあるし、ニコ動で得たものをテレビにフィードバックしたいと思ってる」とも語っている。

    それでも、テレビというフィールド、芸人の世界ではトップの一角を占める人が、さらりとこんなことを言えるんだというのは、やはり驚きだった。

    ●「テレビと同じような事をするよりも、芸人がやりたいことを」
    2010年からツイキャスでネット生配信を開始、USTREAMも活用し、プライベートで「淳の休日」という番組を作ってきた田村淳。

    ロンブー田村淳がニコ動に見出した「面白さ」

    『淳の休日』

    http://www.atsukyu.com/

    (画像が見られない方は下記URLからご覧ください)

    http://px1img.getnews.jp/img/archives/atsushi.jpg

    でも、ニコニコ動画のカルチャーに触れたのは、去年の「ニコニコ超会議」のイベント司会として招かれたのが最初だったという。

    まず、超パーティの司会をやってくれって言われて。『ニコ動のこと全くわかんないけど、いいですか?』って言ったら、理解してない人が伝えるのがいいと言われて。だから勉強も何もしないで行ったんです。で、本当にすごいと思ったんですよ。テレビにはないものがあった。もちろん特殊な人が集まってるけど、テレビよりもクオリティーがはるかに高い歌い手さんや踊り手さんやモノマネの人がいて、それを理解している空気があった。昔、みんながこぞってテレビを見ていた時のような熱気がニコニコ超会議の会場・幕張にあった。

    で、昨年10月には「ニコニコ生放送」にも“生主”としてデビュー。最初はニコ生ならではの機能や用語に戸惑いながらのテスト放送が行われ、その後も、コミュニティ上で「淳の晩酌」と題した番組が不定期的に配信されている。

    「淳のコミュニティ」 『ニコニコ動画』

    http://com.nicovideo.jp/community/co1820467

    所属事務所である吉本興業は、ニコニコ動画上に公式チャンネル「よしよし動画」を展開している。そのチャンネル上ではなく、あくまで一人の「ユーザー生配信」としてスタートしたのも、一つの意志のあらわれだった。

    「よしよし動画」『ニコニコ動画』

    http://ch.nicovideo.jp/ch71

    吉本が公式チャンネルをやってるんですけど、それを観て面白くねぇ!と思ったんですよ(笑)。テレビとは違うことをしないと意味ないワケで。”ニコニコという素敵なメディアを使うなら、テレビとは違った新しいことをしなきゃダメじゃない?”って吉本のスタッフと話したんですよね。テレビと同じような事をするよりも、芸人がやりたいことを直接配信させたほうがいい。たとえ”公式チャンネルのほうがお金を貰えるよ”って言われても、公式はやりたくないんです。お金の問題じゃなくて、新しいことにチャレンジできる場所がニコニコ動画にあるから、自分の責任でそれをやりたい。だから、ちゃんと自分で525円払って、1人で生放送をやったんですよね。

    「淳の休日」にしてもそうだし、“生主”を始めた経緯にしてもそうだけど、この人は仕事がどうとかではなく、「新しくて面白いこと」を本気で全力でやりたい人なんだろうな、と思う。

    そして、今のテレビというフィールドは、誰が悪いとかそういうことでもなく、「新しくて面白いこと」が何故か許されない場所になってしまっているのだろう。

    別のインタビューでも、こんな風に語っている。

    僕がお金をもらったら「休日」とは言えなくなるし、僕自身はこの先も「淳の休日」ではギャラをもらうつもりはありません。ただ、スタッフさんとか機材の予算を補填してくれるスポンサーは徐々に増えてきました。休みの日に僕の頭の中にある企画を全部やらせてもらってるから、ありがたいと思っています。

    テレビでは「とりあえずやってみよう」は不可能なんですよね……。絶対に、失敗が許されない場ですから。

    「ツイナビインタビュー Vol.16 田村淳」 『ツイナビ』

    http://twinavi.jp/interview/atsushitamura/

    「これやっちゃだめなんじゃないか?」「ここまでやったらやり過ぎなんじゃないか?」って自主規制をかける感覚がものすごく嫌で。それとっぱらうにはどうしたらいいんだろうなぁと考えているうちに、“失敗できる場所”があったらいいんじゃないかというところに思い至ったんです。

    「ロンブー淳さんが休日にゆるーくやってるネット番組について本人インタビュー」 2010年10月02日 『ガジェット通信』

    http://getnews.jp/archives/79341

    ●“炎上”が生まれる理由
    とはいえ、いくつかのネットニュースで報じられている通り、田村淳のニコニコ生放送はたびたびの炎上騒ぎを巻き起こしている。今年のはじめにも、こんな話があった。

    「「クソの集まりだ」「全面戦争やってやるわ!」……ロンブー淳、ニコ生ユーザーにブチ切れ!」 2013年01月11日 『Yahoo!ニュース』

    http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20130111-00000014-rbb-ent

    川上会長は、ニコ生に頻出する“荒らし”や“炎上”について、こんな風に語っている。

    川上「荒らすのは一部の人なんですよ。たとえば、ニコ動の中にも、超会議を潰そうってユーザーがいるんです。それはどういう人かというと、元々のネット住民…古くからのネットユーザーなんです。そういう人たちは、現実社会に居場所がなくてネットの中に自分たちの楽園を作ったような人たち。そこにリア充が押し寄せてきて自分たちの楽園を奪われたような気がして怒ってるんですよね」

    淳「なるほど! だから俺、『帰れ、帰れ!』って言われるんだ(笑)」

    川上「いわゆる荒らし的な人って、昔からネットにいるんだけど、そういう人って目立つ所に現れるんです。2ちゃんねるだって、罵詈雑言が激しいところが目立つけど、ほとんどの場所は社交的で温かい場所なんです。ニコ動もそうで、基本は温かいコミュニケーションがされている場所なんですよ。でも、荒らしをやりたい人は、目立ちたいから、その時に最も旬な場所に行く。で、今回はターゲットになりやすい淳さんが登場したことでそこに荒らしが集まる。つまり、逆に言うと、淳さんの存在のおかげで、ニコニコのほかの場所が綺麗になってるんですよ」

    淳「ははは! なるほど。俺がキレることが、荒らしの人のやりがいになってるわけですね。『ニュースになったぜ!』って(笑)」

    罵詈雑言を言いたい人は目立ちたいから、その時にもっとも旬な場所に行く――というのは、僕もなるほどと思った。そして、その構造にさらに拍車をかけているのが、ネットニュースやまとめサイトの存在。「田村淳 ニコ生」で検索をかけてみるとわかるけれど、ヒットするのは、ほとんど炎上騒ぎを起こした時のニュースや、それに対しての反応をまとめたものばかり。

    ただ、そのことに眉をひそめてもしょうがない、とは思う。これはもう、人々の根本的な欲求がそうなってるのだから仕方がない、ということなんだろう。昔っから「火事と喧嘩は江戸の華」なんて言うわけだし。ネット上の炎上騒ぎは、いわば“火事”と“喧嘩”が一遍に起こってるようなものだから、そりゃもう“江戸の華”だろう、と僕は思う。

    ●面白い人にお金をちゃんと払うという文化
    で、僕が興味深いと思ったのは、田村淳のニコニコ生放送での炎上のきっかけを探っていくと、バンドのPVを流したりDVDの宣伝ととられるような行動だったということ。それに対して「宣伝をするな」とか「儲けようとするな」というコメントが多発したのが、炎上の発端になっているということだった。

    つまり、“嫌儲”の気分はまだ健在、ということだ。その言葉で表現される、ネットを使って他の人が収入を得ることを憎むような気持ちを持った人が、(たとえそれが芸能人や有名人であっても)今も沢山いるということなんだろう。

    僕は、正直これが不思議でならない。だって、いろんな人がネットで「面白いこと」を発信して食っていける未来は、それはそれは素晴らしいものだと思うから。川上会長もこんな風に言っている。

    僕は、ニコ動をみんながお金を儲けられる場所にしようとしているんです。5年間かけてだんだんそうなってきましたね」

    僕は、面白い人にお金をちゃんと払う文化を作りたいんです。少しでもいいからお金払う習慣をつけてもらわないと。そうしないと疲弊しちゃって、面白い人がずっと面白いことをやらなくなるんですよね」

    その言葉だけでなく、ドワンゴは人気動画を投稿したユーザーなどに奨励金を支払う「クリエイター推奨プログラム」という施策を2011年12月に開始している。実際に、その理想を形にし始めている。先日もこんなニュースがあった。

    「niconicoがクリエイター奨励制度を拡充、収入1000万円超える人も」 2013年02月20日 『INTERNET Watch』

    http://internet.watch.impress.co.jp/docs/news/20130220_588460.html

    川上会長がニコニコで目指すものの一つは、“文化の生まれる場所”を作ることだという。

    「ニコニコだけで生活できる表現者の人をもっと増やす。そうすると、安定して文化が生まれる場所になる。それが今の僕の目標なんです」

    実はずっと前に吉本興業の取締役にインタビューしたときにも、自前の劇場を持っていることがとても大きいという話を聞いたことがある。そこだけで芸人が「食っていける」ということが、大きいと。カルチャーが続いていくために、「場所を作る」という発想は本当に大事なことなのだ。

    ●「面白さ」はどういう場所に生まれるのか
    そう考えると、今のテレビって、“文化の生まれる場所”になっているんだろうか? というのは外側から見てて疑問に感じるところでもある。先日もこんな記事が話題を集めていた。

    「テレビがつまらなくなった理 氏家夏彦」 2013年02月20日 『あやとりブログ』

    http://ayablog.jp/archives/21656

    TBSメディア総合研究所の代表をつとめ、テレビ業界のまさに「中の人」である氏家夏彦氏は、こんな風に言う。

    久しぶりに会った現場の後輩に最近の現場の雰囲気について聞いたらこんな答えが返ってきた。

    「いろいろ制約が多くて大変ですよ。番組作りに集中したいけど、やってはいけない決めごとが多くて、コンプライアンスとかに細心の注意を払っているだけで、疲れ果ててます。」

    実は、川上会長と田村淳の対談でも、まったく同じことに触れている。

    川上「(ガイドラインは)明確にすべきじゃないと思いますね。そうすると厳しくなる方向にしかいかないですから」

    淳「そうなんです。テレビが衰退した一番の原因がそれですよね」

    川上「ルールを作るのは反対ですね。昨日もマナーとかルールのガイドラインを作ろうとした社員を説教したんです。それはやっちゃダメです」

    淳「心強いなあ! そういうことをトップの人が言い切れるのが、テレビにないニコ動の魅力なんだと思います。それは間違いない」

    コンプライアンスが「面白さ」を殺す。

    すでに沢山の人が同じことを言っていると思うけれど、それが一つの真実なのだろうと思う。たぶん、ネットのせいでテレビがつまらないとか、マスゴミだとか、いやいやニコ動も最近面白くなくなったとか、そういう話じゃないと思うのだ。物事はそんな表面的な話じゃない。

    そして、「面白さ」を殺すのはコンプライアンスだけではない。最適化もそうだ。

    「なんだかわからないけど、とびきり新しくて、面白いこと」をやりたいと思った人のヒラメキやアイディアがあって、それが形になったときに熱気が生まれる。でも、その成功法則がマニュアル化したときに、その熱気はだんだん醒めていく。「こうすればヒットする」という法則が生まれ、作り手がそこへの最適化を迫られるようになると、最初にあった「面白さ」はどんどん死んでいく。

    面白さというのは、熱のようなものだ。

    なんとなく、僕はそう考えている。放っておけば、エントロピーは増大していき、アイディアの濃度や光は拡散していく。エネルギーが失われる。マスメディアはそれを「わかりやすく」咀嚼する。その過程で、最初にあった面白いことは、だんだん味のしなくなったガムを噛み続けるようなことに変わっていく。

    だからこそ、たとえ批判を集めたり問題を巻き起こしたりしてもいいから、「面白いことが生まれる場所」に身を投じていたいという本能的な感覚が、田村淳という人にあるのだと思う。以下のエピソードが、すごく印象的だった。

    淳「(超パーティーで)すごく面白かったのが、ただムエタイの格好して暴れるだけの人に、すごく人気があって(笑)。歌うわけでも踊るわけでも、モノマネでもゲームの実況をするわけでもなくて。え? 君何する人なの?って。『なんでなの?』って聞いたら『僕もわかんないけど、やりたいことやってたら、みんなから求められるようになって』って言ってて」(中略)

    ――そういう人が食えるようになるのがニコニコの理想だと。

    淳「そうなるといいですね。ムエタイの子、食えるようになってほしいもんなあ(笑)」

    執筆: この記事は柴 那典さんのブログ『日々の音色とことば:』からご寄稿いただきました。

    寄稿いただいた記事は2013年03月12日時点のものです。

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