今回は『Medエッジ』からご寄稿いただきました。
■エジプトのミイラ76体の38%に動脈硬化、動脈硬化は本当に生活習慣病か(Medエッジ)
※写真はイメージで、記事と直接の関係はありません。
医療と健康の情報サイト「Medエッジ(メドエッジ)」スーパーバイザーを務める西川伸一が世界の動きをウォッチし、潮流として注目したい新しい話題を解説します。西川伸一は京都大学医学部卒。熊本大学教授、京都大学教授、理研発生再生科学総合研究センターグループディレクターを経て、2014年8月より「Medエッジ」スーパーバイザーを務める。京都大学名誉教授。『Medエッジ(メドエッジ)』
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長寿国日本では、動脈硬化、高血糖、高血圧は、高齢者の大半が罹患(りかん)する国民病になっている。無症状であったとしても心筋梗塞や脳梗塞といった病気へと発展する可能性が高く、国を挙げた取り組みが進められている。
このグループは可愛い「メタボ」と言う名前でひとくくりにされている。このメタボは飽食と運動不足が当たり前になった現代病の典型だとするのが大方のコンセンサスだ。
では現在とは違っておそらく飽食など考えられなかった古代から中世までの人たちには動脈硬化がなかったのか?この問いについて答えるべく、現存するミイラの血管を調べた最近の研究をまとめたのが今日紹介する総説。世界心臓連合が発行するグローバル・ハート誌6月号に掲載されていた。タイトルは世界中に現存するミイラのCT解析で明らかになった動脈硬化の証拠(Computed tomographic evidence of atherosclerosis in the mummified remains of humans from around the world)」だ。
●現代よりはるかに粗食の古代人もかかっている
総説なので、詳しい方法などは全く記載されていないが、タイトルにあるように、ミイラの動脈硬化についてのこれまでの研究をまとめている。
しかし人間の好奇心は尽きないことがこの総説を呼んで分かる。
なんとミイラの動脈硬化は1855年には学会で発表された記録があり、1911年には最初の論文が出ている。全て解剖によって明らかにされた。死んで名を残すより、身体が残る方が科学の進展に重要であることを実感する。
とはいえ、博物館の資料を次から次に解剖することは不可能だ。この疑問に対する研究が進んだのは、高性能のCTスキャン装置が開発され、解剖しなくとも体内の様子が詳しく分かるようになってからだ。
この結果、博物館にあるミイラはまずCTで調べられるようになった。この総説では、エジプトのミイラ76体の38%、ペルーのミイラ51体のうち25%に動脈硬化が発見されている。従って動脈硬化は現代の病気ではなく紀元前の人間の病気であったことは確かだ。
ミイラとして残っているのは高貴な人たちで、今と変わらない飽食を生活習慣とする人たちなら納得する。
ではもっと苦しい生活を送っていたミイラはどうか?まだ大規模農業が発達せず、社会的不平等の大きくない社会を形成していたアメリカ大陸のプエブロ・インディアン、おびアリューシャン列島で見つかったミイラでも40~60%に動脈硬化が確認された。そしてなんと、チロルで発見され世界中を湧かせたミイラ、アイスマンにも動脈硬化が見られた。動脈硬化は現代よりはるかに粗食を続けている古代人もかかっていたようだ。
●動脈硬化がある方が都合が良い?
ミイラのCT調査から、動脈硬化が現代病ではなく、古代から人類に普通に見られる病気だったことが分かる。また、必ずしも生活習慣病でもなさそうだ。
とすると、ミイラは全く新しい動脈硬化の原因を教えてくれているのかもしれない。ご存知のように、アイスマンの全ゲノムは解読され、動脈硬化と関連する多型を持っているようだ。
これは私の妄想だが、ひょっとすると動脈硬化がある方が寒い地方で狩りで生活をしていた人間には都合が良かったのかもしれない。シロクマは北極圏に適応する進化の過程で動脈硬化に関わる様々な遺伝子を変化させ、血液を寒さから守っている。ネアンデルタールではどうだったのか?
老人の妄想は果てしなく続く。
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執筆: この記事は『Medエッジ』からご寄稿いただきました。
寄稿いただいた記事は2014年08月25日時点のものです。
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