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ツイッターを更新しないと大変なことになるシリア〜安田純平の戦場サバイバル
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ツイッターを更新しないと大変なことになるシリア〜安田純平の戦場サバイバル

2012-10-10 08:30
    反政府武装組織の拠点で朝までネット三昧のシリア人=2012年6月24日

    フリージャーナリストの安田純平さんがシリア取材や戦地取材にまつわる話を伝える連載です。冒頭写真は安田さんが反政府武装組織の拠点で朝までネット三昧のシリア人を撮ったもの(2012年6月24日)

    ●ツイッターを更新しないと大変なことになるシリア

     安田純平は死んだのではないか――。

     私がシリアで取材中の7月下旬、ネット上などでこんな噂が流れたという。6月下旬にシリアへ密入国してからほぼ毎日書き込んでいたツイッターが更新されなくなったからだ。

     反政府側の取材でシリアに入国した場合、ツイッター更新は、反政府側が各都市に設けているメディアセンターでインターネットにつなげて行うことになる。反政府側の地域は政府軍による砲撃や空爆を受けているため、インターネットカフェは閉まっている。政府側が支配している地域では営業しているかもしれないが、数百メートルおきにはチェックポイントがあるうえに通報が入る可能性があるのでかなり危険だ。

    メディアセンターは衛星回線を使用しており、速度はあまり期待できない。反政府側の活動家や武装組織の戦闘員が自分のパソコンを持ち込んでSkypeなどを始めるのでますます遅くなる。3メガバイトほどのサイズの写真を数枚送信しようとすると、30分から1時間はかかる。電波が不安定なのかたびたび回線が切れるので、その都度やり直しである。

    反政府側は砲撃や空爆の被害があると、すぐにビデオカメラを持って現場へ向かう。高台に上がり、着弾の様子を撮影する者、爆煙が漂っている段階から着弾現場で死傷者を撮る者、秘密病院で患者の応急措置や遺体の安置の様子を抑える者とで役割分担をしている都市もある。

    彼らはその映像をすぐにメディアセンターに持ち込んでネットに上げ、アル・ジャジーラやアル・アラビアといった中東の衛星テレビ局に送りつける。映像を使うかどうかはテレビ局側の判断で、報酬は支払われておらず、センターの運営費用は、湾岸諸国などで働く在外シリア人やシリア人企業などからの寄付で賄っているという。

    細い回線はすぐにいっぱいになるので、ただでさえ遅いアップロードがさらに滞ると、「いま送信してるんだからネットやめろ」と怒られてしまう。ツイッターやメールの送信など大した容量ではないのでそれでも続けるが、回線の状態が悪く一日中ネットができないこともある。

    反政府側の解放区に滞在する場合、その都市の反政府側武装組織を構成する部隊が使用している拠点に居候することになる。そこにネットがあればよいが、なければメディアセンターに行くことになる。しかし、空爆や砲撃が激しく、地上戦も発生するような都市の場合、そこまで行くのはかなり面倒なのでネットの利用は諦めるしかない。

    都市と都市との間の幹線道はほとんど政府側が支配しているため、かなり大回りに農村地帯を移動する。そうした移動の中継地点になっている農村の拠点には上記のようなネット環境はない。電話回線と思われる有線のネット回線を持っている人もいたが、現在は使用できなくなっているという。

    農村部では空爆や砲撃はたまにあるが、地上戦はあまりなく、農作業も通常通り行われているようだった。ただ、政府を支持している村も散在しており、政府側民兵が周辺で活動をしていると反政府側は移動ができなくなりネット環境のない農村で何日も待機することになる。長距離移動する車自体が少ないので、何もなくても待機しなければならない日もある。こうなるとツイッター更新などとても無理である。

    携帯電話からネット接続するか、SMSを日本の協力者に送って代わりにツイッターに上げてもらうという方法もある。携帯電話に入れるSIMカードはプリペイドのものを使用するのが便利だが、購入にはビザが必要なので密入国の場合は正式には入手できない。反政府側が政府側民兵から奪った携帯電話から抜き出したSIMカードが出まわることもあるようだが、かなりレアなケースだろう。

    シリアには「Syriatel」「MTS Syria」の2つの携帯キャリアがあるが、前者はバッシャール・アサド大統領のいとこがオーナーであり、盗聴されやすいとのことで反政府側では避ける傾向があるようだ。もっとも、反政府側の解放区ではいずれも回線状況が極めて脆弱で、現地人同士でも通話すらつながりにくいことも多い。また、国境付近では隣国の携帯電波が入るので使用できるが、プリペイドの残高追加ができない恐れがあるので注意が必要だ。

    現地人の携帯を借りるか、SIMカードだけ借りて自分のSIMフリーの携帯端末から日本の協力者にSMSを送るのが、最も現実的な連絡方法だ。

    ただ、連発はできないので最前線に出る前など緊急連絡での使用になり、ツイッター更新用の情報までは私は送らない。

    日本から協力者が現地人の携帯にかける場合、反政府側は知らない番号や番号非通知では電話に出ないので、協力者の番号を反政府側の人間に知らせておく必要がある。Skypeからかけると「表示不可能」といった表示になるのでやはり彼らは出ない。スマートフォンアプリのMobileVOIPを使うと、好きな番号を表示させることができるのでおすすめだ。

    私の場合、安全対策のために、取材現場に滞在している間はどこの国にいるかという情報はツイッターやブログを現場からの更新では書かない。滞在している国の政府や武装組織などに居場所がばれると面倒だし、日本政府から私の家族に圧力がかかる場合があるからだ。あくまで「それなりに仕事をしているらしい」と思ってもらえればありがたい、という範囲のものである。

    結局、シリア入りしたレバノンには途中の道が政府軍に封鎖されたためにトルコへ出国したが、正規の国境が開いていなかったので密入国せざるを得なかった。当然、SIMカードは買えないので、日本のキャリアの異常に高額なローミングサービスでネットにつなぐしかない。しばらく音信不通だったので友人知人に連絡をとり、ツイッターも更新した。おかげで8月の携帯料金は約4万5000円を請求された。

     というわけで現場でのツイッター更新はかなり不安定なうえに、私自身がかなり気まぐれにやっているので気にしないでください。

    政府軍の戦車砲攻撃による負傷者を秘密病院に運ぶ様子を撮影する医師と反政府側メディアセンターの活動家=2012年7月14日

    ※連載「安田純平の戦場サバイバル」の記事一覧はこちら

    【写真説明】
    (写真1)反政府武装組織の拠点で朝までネット三昧のシリア人=2012年6月24日
    (写真2)政府軍の戦車砲攻撃による負傷者を秘密病院に運ぶ様子を撮影する医師と反政府側メディアセンターの活動家=2012年7月14日

    安田純平(やすだじゅんぺい) フリージャーナリスト
    安田純平(やすだじゅんぺい)フリージャーナリスト
    1974年生。97年に信濃毎日新聞入社、山小屋し尿処理問題や脳死肝移植問題などを担当。2002年にアフガニスタン、12月にはイラクを休暇を使って取材。03年に信濃毎日を退社しフリージャーナリスト。03年2月にはイラクに入り戦地取材開始。04年4月、米軍爆撃のあったファルージャ周辺を取材中に武装勢力によって拘束される。著書に『囚われのイラク』『誰が私を「人質」にしたのか』『ルポ戦場出稼ぎ労働者』
    https://twitter.com/YASUDAjumpei

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