資生堂は、マツダとコラボレーションしたフレグランス『SOUL of MOTION』を発表しました。そのテーマは、特定のクルマの「香り」を制作するというものではなく、マツダがデザインのテーマとして掲げる「魂動(こどう)」そのもの。「マツダの思想・哲学を体現し、マツダを印象づける」というこの難解なミッションには、約1年8ヶ月もの歳月がかけられたといいます。
「魂動」とは、 “クルマに命を与える”という2010年から掲げるマツダのデザイン思想。マツダの前田育男常務執行役員は、クルマは人の手が生み出す美しいフォルムをまとった命あるアートであり、心高ぶるマシンでありたいと考え、マツダのデザインは「要素を削り簡潔に美しく豊かであること」を目指していることを強調します。
MX-5RFのシルエットも、デザイン画からモデラーに渡り、生産過程に落としこむまで、この哲学があって生まれたものだと知れば、その美しさの真髄を垣間見ることができるのではないでしょうか。
2016年8月5日の『AUTOMOBILE COUNCIL 2016』の会場で発表された今回のコラボに関するトークセッションには、マツダから前田常務執行役員、資生堂からは宣伝・デザイン部チーフクリエイティブ・ディレクターの信藤洋二氏と、化粧品開発センターシニアパフューマーの森下薫氏が登壇。
前田氏は、これまで無形文化財の鎚起銅器『玉川堂』や、金城一国斎との卵殻彫漆箱といった伝統工芸とのコラボレーションによってデザイナーやモデラーに刺激を受けてきた経緯を語り、「2Dから3Dを飛び超えて4Dに挑戦したようなもの」と資生堂に香りの制作を依頼した理由を挙げ、「資生堂独自の書体にも高い美意識に根差したモノ創りの思想が込められている」とシンプルで美しいデザインがマツダと共通していると語ります。その上で、完成した香水について「日本的な美意識がある」と出来栄えを讃えていました。
一方で、コラボの話があってから広島のマツダ本社・工場を訪れて「マツダの哲学を感じることができた」という信藤氏。資生堂初代社長である福原信三の頃から「嗅覚の芸術、アートとしての香水」という考え方があったと述べ、意匠部・試験室誕生から100周年という節目に「現在の宣伝・デザイン部と研究所で協力して新しい価値を生み出すいい機会だと思った」と話しました。
実際に調香を主導した森下氏は最初に提案した香りは「ありきたりではチャレンジがない」と却下されたエピソードを披露。「魂動」を表現するにあたり、「強さ・情熱・生命感」を挙げ、ウッディノートとローズ、レザーノートに加え、通常香りの世界では嫌がられる「金属感」を出すというマツダのリクエストに応えるため、メタリック感を感じられるようにカシスやライムを加えたといいます。筆者も嗅いでみましたが、どことなく金属を感じさせるような香りでした。
また、オーバーキャップの素材に「普通、香水ではありえない」(信藤氏)というステンレスを採用。その精悍さもマツダのクルマを想起させます。「日本の美意識にある、要素をそぎ落とし洗練させていくという考え方で『魂動』を表現しました。常識を覆すチャレンジができたと思います」と信藤氏が話すように、マツダだけでなく資生堂サイドも強い刺激を受けたコラボになったといえそうです。
前代未聞のコラボから生まれた香水『SOUL of MOTION』ですが、残念なことに非売品。今後は梅田にある『マツダブランドスペース大阪』でサンプルを配る予定とのことなので、訪れる機会がある人はMAZDAデザインそのものの香りがどのようなものか、感じてみてはいかがでしょうか。