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いつの時代も、政権交代は世の中に大きな影響を与え、明暗をもたらすもの。「これから世の中がどう変わっていくのか」、本当に不安ですよね。今回は政権交代を悲観する人びとと、運命が暗転していく源氏のエピソードです。

「さようなら父上」源氏の父・桐壺院の最期

六条との悲しい別れがあったあと、源氏の父・桐壺院(以下、院)の病気が悪化。源氏の兄・朱雀帝(以下、帝)がついにお見舞いの行幸を行いました。親の病気とは言え、皇族の常で、おいそれとお見舞いに行くわけにも行きません。おそらく最後の対面となるお見舞いです。

桐壺院は遺言します。「私がいた頃と同じように、何でも源氏に相談し、共に政治をしてゆきなさい。源氏は若いが優れた資質を持っている。跡目争いがあってはいけないと、わざわざ臣下にして、後は大臣として国務を執らせるつもりだったのだ。私の死後も、この意に背くことのないように」。

かつて源氏が幼い皇子だった頃、院はこっそりと朝鮮から来た使節に源氏の人相見をさせたことがありました。彼は源氏を見るなり「類まれな人相の持ち主です。天下を治める器ですが、帝位に就かれると国の乱れが起こるでしょう。しかし臣下としてただ国を支えるのみ、というわけでもなさそうです」。

事情が許さなかったとは言え、院は最後まで源氏を帝位に就けられなかったことを悔やんでいました。美しく愛嬌があり、なにをさせても優秀で、誰よりも愛した女性から生まれた皇子のことを。

皇子と生まれたのに、帝位を夢見る資格のない臣下の身。自身の容姿と才能を自負し、「なにをしても許される」と思いあがりつつも、絶対に帝位に就くことはできない…。そんなジレンマを源氏はずっと抱えています。

一方、幼い頃から源氏と比較されてきた帝。院の言葉に「決してご遺言に違うことはございません」と繰り返し約束します。こういう時、(父上もこんな時に源氏、源氏って!)とか思っても良さそうなのですが…。

帝はとても大人しい気弱な男。万事に優れた弟の源氏には、一目も二目も置いている上、彼は源氏が大好き。いつだったか「もし自分が女だったら契りたい」と大胆発言したくらい。(これ以外にも複数の男性の視点で「源氏を女装させたい」「女だったら…」という妄想が語られるシーンが結構ある)。そんな帝が硬く誓ってくれたので、院も安心して最後の会見を終えました。

日を改めて、皇太子(源氏と藤壺の宮の子)もお見舞いに。5歳の割にはしっかりして可愛らしく、久しぶりの面会を無邪気に喜んでいます。その横で涙に沈む宮。

源氏の時には叶えられなかった夢を託した皇太子に、院はあれこれ教えて聞かせますが、まだ5歳。こんな子を遺して死ぬのが心残りでなりません。(まあ、自分の子じゃないんですけど…)。源氏にも「帝を補佐し、皇太子の後見をよろしく」とくれぐれも言い聞かせます。

「いい世の中は望めない」政権交代に不安の声

最後の時が迫り、多くの人々がお見舞いに行く中、事実上の離婚状態だった太后は動きませんでした。宮がつきっきりで看病しているのが不快で、どうでもいい意地を張っているうちに、ついに桐壺院崩御。国全体が悲しみに包まれます。源氏も悲しみのあまり出家しようかと思うほどです。

上皇となっても政治の要であった院。今後はまだ若く実力のない帝と、強引で短慮な右大臣、執念深く権力にこだわる太后の天下になります。「いい世の中になりそうじゃない…」あちこちから早くも聞こえる悲観の声。政権交代の不安、大いに共感できるところです。

最期まで看病した、宮の悲しみも大変なものでした。后妃たちは四十九日間は宮中にいて、その後、実家に戻ります。寵愛の深かった彼女は、近年ほとんど実家に帰ることもなかったので「なんだか知らない家に来たみたい、心細い」

すべてが木の葉のように落ち、そして入れ替わる時が来た――。悲しみと不安の闇の中、新しい年が明けます。

「実際されるとヘコむ」初めてのパワハラで引きこもり

諒闇のお正月は寂しく、源氏も引きこもってばかり。例年なら除目(役人の任官式)のために、コネを求めて人びとが詰めかけ、邸の門前が一杯になるのに、今年はガラガラです。

かつて源氏にコネを求めた人びとは、今や右大臣の家に押しかけているのでしょう。手のひらを返したような態度とはこのこと。なんとも面白くない正月です。

源氏の義父、左大臣も不愉快で宮中へも行かず、引きこもっています。もともと右大臣とは仲良くない上、かつて葵の上を朱雀帝に縁組させず、源氏と結婚させたことを、太后がしつこく恨んでいたので、風当たりが強くてやっていられないわけです。

朱雀帝は源氏が好きだし、遺言を守るつもりなのですが、若い上に気弱さがたたり、母親と祖父に押し切られてばかり。全くの傀儡政権です。

「院亡き今、誰に遠慮することもない。積年の恨みつらみを報いてやろう」。太后は反撃ののろしを挙げ、源氏にパワハラ開始!息のかかった人間を動員し、あらゆる手段を講じて、ハブったりダメ出ししたりの連続です。

「想定内だったけど、実際されてみるとヘコむ…」。今まで褒められ、認められ、もてはやされてきた源氏にとっては堪えることばかり。ますます引きこもりがちになります。

悲喜こもごも?源氏の引きこもりを喜んだ女性

源氏の引きこもりを喜んだ人もいました。妻の紫の上です。ここへ来て、浮気歩きも一旦休み。家に居続けて夫婦で仲睦まじく過ごしています。

多くの人が紫の上の幸運を好意的に見ていますが、彼女の継母だけは「どこに行ったかわからなかったのに、源氏に引き取られて結婚とは。随分ラッキーな娘ね」。まるでシンデレラの継母のような、典型的なイジワルババアです。

一方、上昇気流に乗ったのは右大臣の六の君、朧月夜。院の喪に服して出家した人の後任で、御匣殿から尚侍(ないしのかみ・後宮を仕切る女官の最高位)になりました。

尚侍は一応女官なのですが、ほとんど名誉職という感じで、帝のお手つきになり、寵愛されることもある、そういうポジションです。太后は実家に居ることが増えたので、以前自分が宮中で使っていた弘徽殿の局を彼女に与えます。

豪華で派手な気風に加え、美しい女房たちも数え切れないほど多く仕え、そこはまさに宮中の華!きらびやかな毎日を送り、帝に愛されながらも、朧月夜の心は源氏でいっぱい。源氏からの手紙は彼女が後宮入りしてからますます増え、相変わらず「難しい恋に燃える」悪い癖がでています。

危ない橋を渡るスリル…源氏と朧月夜の逢瀬

帝が国家のためにご祈祷されるので、女性を遠ざけ、何日か身を慎まれることがありました。このスキを狙って、源氏と朧月夜は宮中で危ない逢瀬を楽しみます。祈祷のため人の出入りも多く、バレるかも思うとドキドキ!

毎日見ても見飽きない美しさの源氏と、今を盛りの朧月夜の艶やかさ。お似合いの美男美女カップルです。彼女は高貴な人らしい威厳はありませんが、若々しくチャーミングで、男心をソソる美女。こういう危険な遊びにノッてくれる女性、というのは彼女だけ!悪いことを共有する楽しみもあって、源氏も朧月夜も燃えます。

そろそろ夜明け、という頃。すぐ下の庭で「宿直をしております」と近衛士官の誰かが言います。どうやら近くの部屋で、同僚が彼女と愛し合っている様子。「近くに同じようなカップルがいるんだね。当てつけがましく言いに来たらしい」と、源氏と朧月夜も笑います。更に他の宿直の者たちも、あちこちで「午前4時です」。

逢瀬は夜が明ける前に帰るもの。源氏も慌てて帰りますが、出ていくところを人に見られていて、ここから噂が広がるだろう、と作者は示唆しています。というか、引きこもりのわりにしっかり浮気歩きもしてるじゃん、という気も…。

そんなこととも知らない源氏は、朧月夜との危険な恋に燃えつつも、全くスキを見せない宮のことを立派な女性とも思い、一方であまりにも辛く恨めしい態度だとも思っていました。どんな女と寝ても、源氏の心は藤壺の宮から離れることがないのですね…。

簡単なあらすじや相関図はこちらのサイトが参考になります。

3分で読む源氏物語 http://genji.choice8989.info/index.html
源氏物語の世界 再編集版 http://www.genji-monogatari.net/

(画像は筆者作成)

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(執筆者: 相澤マイコ) ※あなたもガジェット通信で文章を執筆してみませんか

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