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『トイ・ストーリー』『モンスターズ・インク』などなど、数々の名作アニメーションを生み出してきた「ピクサー・アニメーション・スタジオ」。昨年公開された『ファインディング・ドリー』も大ヒットを記録しました。

そんな『ファインディング・ドリー』の「MovieNEX」発売に伴い、ガジェット通信はピクサーの作品作りの秘密に迫るべく、アメリカ・サンフランシスコの「ピクサー・アニメーション・スタジオ」に潜入! 今回は、世界で最もイカしている“タコ”こと「ハンク」を作ったクリエイター陣のプレゼンテーションをご紹介します。

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写真左から
ジョン・ハルステッド(スーパーバイジング・テクニカル・ディレクター)
ジェイソン・ディーマー(キャラクター・アート・ディレクター)
ジェレミー・タルボット(キャラクター・スーパーバイザー)
マイケル・ストッカー(アニメーション・スーパーバイザー)

ジェイソン・ディーマー:キャラクター・アート・ディレクターのジェイソン・ディーマーです。ハンクをデザインした過程について少しお話しします。監督のアンドリュー・スタントンが今回の作品にはタコが登場すると言った時、最初に思ったことは、僕はタコのデザインを担当するべきじゃない、ということでした。というのは、それまでタコの絵を描いたことがなかったからです。ですので、すぐにタコについてリサーチを開始しました。リサーチをするにあたって、何か(デザインに)使えそうな興味深いことを探しました。(タコの)丸い形や、触手の裏側などを見た時には、デザインに生かそうと、すぐに写真をファイルに保存しました。一方で、たいていの生き物には気持ちが悪い部分や不快な部分があるものですが、タコはとりわけ気持ちの悪い部分が多かったのです。ですからデザインに入れない部分についても確認していきました。ただ、なるべく自然のままの姿を見るようにしています。(もしリサーチせずに)すぐに絵を描き始めると、どこかで誰かが描いていたような絵になってしまったりします。自分の頭で考えるよりも本物の方がずっと興味深いものです。

さて、タコには興味深い部分がたくさんあります。ある種のタコは他の魚に擬態することで知られています。魚の形になって泳ぐことができるのです。そんなタコの映像を見たとき、「これだ!これを僕のキャラクターに取り込むんだ!」と思いました。それで絵を描き始めました。

僕はハンクは不承不承のスーパーヒーローだと思っています。なので、彼はときにはバックパックに化けます。またタコは小さい穴からでも抜け出せるらしいので、監督にはハンクが逃亡の達人という設定を提案しました。それにタバスコの瓶の中にでも隠れることが出来たり、自動販売機の隙間に隠れたり。また、タコの体は伸びるということが、初期の段階でグラフィックにするのにとても苦労した部分なので、いっその事、ぺちゃんこになったり、縦に細長くなったりして、形を変えることができるということも提案しました。そういう特性を全て盛り込んで、観葉植物に化けることになったのです。

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▲初期のハンクのスケッチ。

ジェレミー・タルボット:キャラクター・スーパーバイザーのジェレミーです。私の仕事はこの美しい絵をコンピューターのモデルにして、動かしたり演技をさせたりできるようにすることです。そうするとタコの動きをアニメーションで表現できるようになるわけです。私のチームは全てのキャラクターのCGモデルを作りますので、このクレイジーなキャラクターも手がけることができるという幸運に恵まれました。アニメーションやアートの部署と同じように、我々も実際のタコのリサーチをします。ただ、リサーチの目的は全く違っています。タコが小さな隙間に入るというクレイジーな動画を見たり、気持ち悪い様子や不思議な姿で動き回っていたりする動画を見るのですが、それは、こういった動きをすることができるような機能を作るためです。『モンスターズ・ユニバーシティ』の時にも似たようなことをしたのですが、あの時はもっと単純でした。

ジェイソンと監督の会話から考えて、おそらく望まれるであろう全ての動きを可能にするために、この絵を図表化していきます。水かきの見え方や吸盤が他のものにどうくっつくかなど、監督のアイデアの基本設計を作ります。リアルに動くように作らなければならないのです。そのために新しい触手を開発しなければなりませんでした。この頃、アンドリューとアンガスの両監督が『ジャングル・ブック』を参考にしたらどうかと提案してくれました。特に蛇の動きです。タコの触手の動きと似ているのです。この蛇のデザインの単純さが大きなヒントになりました。動画で見た動きの複雑さを削り取って、戯画化された、スタイル化された動きだからです。

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▲初期のハンクは、完成系のハンクとはちょっと見た目が違います。「ホットソース中毒」という実際には使われなかった設定も!

マイケル・ストッカー:こんにちは。アニメーション・スーパーバイザーのマイクです。全てのキャラクターに全ての演技をつけるのが我々の部署の仕事です。このタコはおそらくこれまでピクサーが手がけた中で最も難しいキャラクターでした。我々の部署は少人数ですが、二つのことを学ばなければなりませんでした。とても難しい二つのこと。一つは、タコが実際にどうやって動くのか。どのように機能するのか。二つ目はその動きを、キャラクター・デザインの部署が作った装置でどうやって表現するのか。ものすごく複雑な装置です。

まずは全員でモントレーベイ水族館に行きました。ここから少し南に行ったところにあります。そこでこのタコの映像を撮影しました。タコを実際に腕で持ち上げて触り、撫でてみました。まず解明しなければならないことは規則性です。タコはどういう動きをしているのでしょうか。その規則性を見つける必要がありました。とても単純な規則が二つあることがわかりました。一つはそれぞれの触手に肘のような部分があり、この肘が足の中で動いて曲がるのです。もう一つは、タコの体には動きが止まっている部分がないということ。すべてが動いています。これはアニメーターにとってはとても難しいことです。コントロールするのが大変だからです。ものすごい大量の動きをコントロールする必要があります。

ピクサーに戻ってから、まずは簡単なテストから始めました。触手だけを動かして、実際のタコのように見せるにはどう動けばいいのかを見るのです。装置の操作方法のテストも兼ねています。このテストはまあまあ良い動きを作れています。でも自然な動きではありません。触手の中で関節が動いているような感じがします。自然さに欠けるのです。どうすれば自然になるのかを探り続けました。アニメーションを作る時のソフトウェアで、一つのボールにそれぞれ50個のコントロールがあります。各ボールを動かして先ほどのような自然なタコの動きを作らなければならないのです。

もう一つの点は、ハンクの体は常に動いていて、ボヨンと膨らんだ生き物だということです。頭が動くと触手も動きます。体のすべての部分が動くのです。足を一本動かすと他の足も動く。すべての動きが繋がっています。そういった動きをこのテスト画像で示しています。通常、何かのキャラクターのアニメーションを監督たちにプレゼンする場合、数日前からそのアイデアを見せる映像を作成します。でもハンクの装置を使う時は、一つの動きを作成するのに一週間か二週間かかるのです。これでは時間がかかり過ぎです。チームは10人ぐらいで構成されていましたが、ほとんどのメンバーが2Dのアニメーションも描ける人たちでしたから、まず2Dで動きを作ってそれを監督たちに見せました。監督たちがアイデアを気に入ってくれたらその2Dのアニメーションをコンピューターに取り込み、ソフトを使って同じ動きを作りました。

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▲「ハンクはこんな事をする?」「ハンクはこんなことを言う?」綿密なキャラクター設定によって、彼の性格がかたまっていく。

ジョン・ハルステッド:こんにちは。ジョンです。スーパーバイジング・テクニカル・ディレクターです。まずはハンクを作る工程の最後の部分についてみなさんにお話ししたいと思います。アニメーションの部門から受け取った後も、ハンクの動きを調整しなければなりませんでした。例えばハンクが床に座っている時、吸盤は床に埋もれるのではなく、潰れて抵抗していなければなりません。ハンクがカップを持っている時には吸盤はカップの外側にくっついていなければなりません。そうやってしっかりと握っている感じを出します。前から見て良くても、後ろを見るとハンクの後頭部にある外套膜が足を邪魔しているのでポーズを直します。こういった細かい部分はコンピューターが自動的に調整してくれるものではありません。自分たちで作業しなければならないのです。

ここでシミュレーションの部署の出番となります。彼らは現実世界の物理を使ってこのような映像を直す専門家です。彼らはまず吸盤一個の動きが適切に表現されるにはどうしたらいいかを研究します。吸盤が潰れる、くっつく、そして剥がれる、というような映像を、楽しくかつ本物らしく表現しなければなりません。彼らはカスタムメイドのシミュレーターを使って皮膚が周囲の物とどう接触するかといったことをシミュレートしていきます。吸盤一個の動きが作れたら、次はすべての吸盤を同じように動かさなければなりません。

その他にシミュレーションの部署が担当することは、ハンクの顔の動きです。このあたりの皮膚の揺れはシミュレーションの部署がつけています。これは先ほども見ていただいたテスト映像ですが、こちらがシミュレーションが入った映像です。後ろの外套部が動いているところに注目してください。足との邪魔になっていた部分はなくなりました。そして全体に柔らかい皮膚感が出ています。このようなディテールをつけることで、観客にとってハンクがより本物らしく見えるようにしているのです。

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“チームハンク”の皆さんに色々聞いてみた!

Q:ハンクの動きを初めて見た時に重みを感じた気がしました。タコの足が机からずるっと自然に落ちたりといった部分ですが、重力があるように工夫をされたのでしょうか?

マイケル・ストッカー:それを表現するのはとても難しいことだったのですが、目標でした。タコは70パウンド(約32キロ)くらいあるのですが、我々がタコを持った時の重みを観客に感じて欲しいと思いました。手に張り付いたタコを剥がす、うわっという感触を観客にも味わって欲しいと思いました。そういったものをアニメーションで表現すること、そしてシミュレーションの部署がタコの潰れた感じなどを表現してくれることなど全てが、それを目標としていました。ですからもし感じてもらえたのなら嬉しいです。

Q:監督からタコのキャラクターがいると聞いた時に困ったと思ったということでしたが、タコ以外にこれがきたら嫌だと思うものはありますか?

ジェレミー・タルボット:鳥は大変です。羽が複雑だから。ただ実際はどんな生き物だって大変だ(笑)一番大変なのはキャラクターを作ること。全員でキャラクター作りにとりからなければならない。

ジェイソン・ディーマー:鳥は確かに大変だ。

マイケル・ストッカー:ハンクはこれまでピクサーが手がけた中で最も難しいキャラクターだったと思いますが、これまで作ってきた作品それぞれに大変なキャラクターがいたわけです。『Mr.インクレディブル』のヘレンはパラシュートに変身したけれど、ああいうのはものすごく難しい。どの作品にも一つや二つは難しいショットがあります。人間も大変です。

ジョン・ハルステッド:実写のような人間はピクサーではやらないからね。助かった。それは本当に難しいよ。

全員:ジンベイザメもアザラシも大変。全部大変(笑)。

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(C) 2017 Disney/Pixar
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