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19世紀後半の中央アジア、カスピ海周辺を舞台に、美しいお嫁さん=「乙嫁」たちの暮らしぶりや生活を丹念に描かれていることで、2014年度に『マンガ大賞』を受賞した森薫先生の『乙嫁語り』(ビームコミックス)。作中で豪華な衣装や布地、装飾品が綿密に描き込まれていることも魅力の一つに挙げられますが、「乙嫁」のひとりでもあるアミル・ハルガルの衣装を忠実に再現して『Twitter』などで話題となったコスプレイヤーがいます。
そのレイヤー・さんは衣装や装飾品を再現するために、ウズベキスタンなどを訪れ、現地の文化を研究。布地や糸を手染めし、装身具を3Dプリンターや彫金をして作るなど、見た目はアミルそのもの。モンゴルで敢行したロケでは、凛々しい馬上姿も披露しています。

『オタ女』では、そんな祭さんにインタビューを実施。『乙嫁語り』の魅力から衣装のこだわり、写真撮影時のエピソードまでお聞きしました。また、『C91』で頒布された写真集から厳選されたカットを提供頂きましたので、併せてご覧下さい!

※すべての画像が表示されない場合は『オタ女』でご覧ください。
http://otajo.jp/67041 [リンク]

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--まず『乙嫁語り』の作者の森薫先生の作品にハマったきっかけを教えてください。

祭さん(以下、祭):森先生の作品は、最初『エマ』から入りました。書店で偶然手に取って、それからのめり込んでしまって。『エマ』に関しては、イギリスのメイド文化というところに焦点を当てて、しかも純愛でストイック。私が今まで出会ったことがなかったメイドの切り口に、最初は圧倒されてしまったんです。それからずっと森先生のファンで、『乙嫁語り』にも出会ったという感じですね。

--森先生は時代考証をしっかりされて作品の世界観をお作りになりますが、そういうところに魅力を感じられた?

祭:そうですね。森先生の作品は、まず先生が描きたいものを描くというか。女の子と、あとは服飾。まずは先生の欲望が忠実に現れていて、強いものを投げてくれているからこそ、読者の側にもすごく響きますよね。これは想像なんですけれども、森先生は何かを描くことにあたって、ちゃんとしていないと気が済まない方というか、もしくはそれを調べるプロセスとか、あとは細かい模様とか、そういうものに何か「ウォーッ!?」というものを見出す方なのかなと思うので、たぶん歴史家だとか研究家というのが先に来るのではなくて、やっぱりご自分の描きたいものを描いて、しかもその肉付けがしっかりされている。そこが一番の魅力ですね。厳密な時代考証の中に透けて見える森先生の萌えポイントっていうのが、こちらに響いてきます。

--『乙嫁語り』とアミルというキャラクターが最初に登場した時の率直な感想を教えて下さい。

祭:書店に等身大広告があって、それを私は近所の本屋さんで偶然見て、もう足というか、時が止まったというか。「何、このかわいいのは!?」って。もちろん一目で「森先生だ!」と思ったんですけど、新連載が中央アジアということで、今までに出会ったことのない服飾とか、キャラクターデザインに心惹かれました。

--ご自身は、服飾ということに対して、もともとご興味があったんですか?

祭:以前からコスプレをやっていたので、確かに興味はあったんです。あとは、凝り性なので、例えば少し昔の時代が舞台の漫画だったら原色ではなくて淡い色とか、そんなにピカピカなエナメルというよりは、ちょっと合皮の渋いやつを使おうとか、そういうこだわりはありましたけど、特に専門で学んでいるわけではないんです。あくまでコスプレを機に服飾に関しても、ちょっと興味があったという感じですね。

--その凝り性が極まった結果、アミルを完全再現となったということですね。

祭:そうですね。もともと、模様がなかったら描くとか、レースがなかったら作るとか、コスプレイヤーって、そういうところがあるじゃないですか。「なければつくる精神」なので。それが、もともとのキャラクターデザインと、刺繍を一針一針するっていう作品の文化的背景があったので、この衣装を着るというよりは、『乙嫁語り』の空気感を自分で体験したいし、体現したい。そこを避けて通らなかった結果こうなりました(笑)。

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--本当に手縫いでやっていらっしゃって、布や糸も染めているとお聞きしています。

祭:はい。少しミシンは使っていますけど、刺繍に関してはもちろん手縫いです。染めは、この赤いチャイナカラーのジャケットに使っている刺繍糸も染めているんですけど、もともとの色で布と合わせたら、ちょっとイメージが違って、浮いてしまったんです。黄色すぎたので、落ち着かせるために、ちょっとピンクゴールドみたいに寄せたり、やっぱり微調整になりますね。現代の化学染料っぽい色を草木染めっぽいところに持ってくる。ジャケットの布も、もともとはっきりした原色の赤なんです。それを、さらに茶とオレンジとかの染料で、もうちょっと深い色に落とし込んでいったということですね。

--より作品の女性たちが着ているような雰囲気に近づけるためには、とにかくこだわり抜いていることがよく分かりました。こだわりと言えば、草原での写真撮影にモンゴルに行かれていますね。アミルのように馬に乗った時の様子も教えて下さい。

祭:羊の放牧を背景にしたシーンは、馬をトコトコッと歩かせて撮っているだけなので、表情もちゃんとつくれたというか、余裕はありました。「ああ、景色すごい!素敵!」みたいな感じはありますけど、それを出さずに(笑)。ただ、騎射は違いましたね。弓を引いて、ギャロップをして、しかも流鏑馬みたいに弓を引くというのは、撮影の当日に、初めて弓を引きましたし。

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--弓はどなたに教えてもらったんですか?

祭:騎馬サーカスの団長さんに教えてもらいました。この団長さんがすごくて、いろいろな映画にも出ていらっしゃる方なんです。それで「ちょっとギャロップをやってみて」って言われて、バーッと走らせて。サーカスの馬なので、ギャロップはちゃんと出るんですよね。で、揺れている中で、まず「手綱を離さないように」と言われていた、今までの乗馬のことをすべて捨てて、「手綱を離せ」と言われて……。それで弓と、体の横に弓矢入れがあるので、弓を取って、引くっていう作業は、やっぱり揺れているので、固定するのが難しいですし。でも、手を離すときの恐怖っていうのは、たぶん私服だったらあるんですけど、コスプレの衣装を着ていると、ないんですよね。

--ない?

祭:ないんですよ。何よりも「いい写真を撮らなきゃいけない、撮りたい!」っていうのがあって、もうとりあえず恐怖はおいておこうと思って。「当たりどころが悪かったら死ぬけど、まあ死なない、大丈夫」と思って、それでバーッと射ったんです(笑)。でも、やっぱり的に当てるのと表情を作るのが難しいですね。

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--人間と馬の関係というのも『乙嫁語り』の世界観では重要ですよね。1巻では遠方を見渡すためにアミルが馬の鞍の上に立つシーンもあります。

祭:いやぁ、あれは信頼関係ですよね。あとはやっぱりアミルの身体能力も高いですけど。でも、周りがちょっとでもザワザワしていたら、やっぱり馬って走り出しますし。だから「いい馬だなぁ」と思って(笑)。あれはすごいですよ。

--作品の中で「このシーンが特に好きだ」というところはどこになりますか?

祭:台詞がないコマが多いですね。シーンで言うと、1巻でウサギを狩るシーンとか、6巻の戦闘の突貫シーンとかも、音が聞こえるというか。読者の想像に任されているところがあるにせよ、映画みたいで。台詞だけじゃない、その奥行きというか、その合間の部分をちゃんと描いてあるので、シーンがすごく広がって見えるのが、すごく好きですね。あと何だろう……。やっぱり模様とか、絨毯とか、森先生が「これは楽しんで描いているんだろうな」っていう細かい描き込みは、本当に圧倒されます。

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--個人的には、スミスさんとアリさんのコンビが好きなんですけれど……。

祭:あーっ、わかります、わかります!

--2人が旅をすることで、いろいろな所の絨毯の描き込みとか服の違いとか、よく見ると「この部族と、カルルクたちの部族とは違うんだな」というのがなんとなくわかるじゃないですか。これが、森先生の真骨頂なんじゃないかなと思ったりするんです。

祭:確かにそうですね。スミスさんまさかの主人公ということで、「あっ、主人公なんだ!?」と思ったんですけど。すべての「乙嫁」にスミスさんは絡んでいるので、旅するスミスさんの恋模様が唯一今、心配の種です(笑)。

--自分も心配です(笑)。またレイヤーとしての祭さんのお話に戻るのですけれど、極めるところまで極めるとなるとキリがないと思うんです。今後、「これをやってみたい」ということはありますか?

祭:そうですね……。服に関しては、全部つくったかなと思うんですけど、最終形というと難しいですね。できればなんですけれど、1話の花嫁衣装は、いずれ作りたいなと思っています。ただ、あれは「銀がどれくらい必要になるかな」と思っていて。それと、あれはもう少し資料が必要なので、もうちょっと探そうかなと思ってるんですけど。

--コマとして、そんなに数が多いわけじゃないですよね。そこから資料を探すのも大変そうです。

祭:あのコマをベースに、まさにトルクメンとか、カルルクさんは“あとがきちゃんちゃらマンガ”かどこかで書いてあったんですけど、ウズベキスタンの辺りだそうなので、「じゃあ、あの辺の昔の結婚式はどうだったのかな」とか、ちょっと探して見ることができれば、というところです。

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--資料探しには、どれくらいの時間をかけていらっしゃるんですか?

祭:日本でも『Amazon』とかで洋書も買えるじゃないですか。前からちょこちょこ集めてはいるんですけど、やっぱり日本で手に入る資料がとにかく少ないので、サマルカンドの文化歴史博物館で「このときは、どうしてたのか」とか、「この色は、どういう染料で出るのか」とか調べたり、あと現地の人にいろいろ聞いたりしています。
ただ、もともとこの地域は口伝文化なんですよね。しかも、現存しているイスラーム建築では9世紀のがあるものの、モンゴルが12世紀、13世紀に攻めてきたときにいろいろ失われているので、ほとんどの部分で一回ゼロになっているんです。それで、アミール・ティムールの時代になって。でも、その頃でも文書と言えばコーランや官庁の書類が主で、家庭でどうしていたのかは読み取りきれません。19世紀ぐらいになるとヨーロッパの探検家とか、20世紀に入ってソビエトになってからは文として残しているんですけど、他の地域に比べたらとにかく文献が残っていなくて。『乙嫁語り』は19世紀なので、残っているアンティークの衣装や、スザニっていう刺繍の布とか、あとはアクセサリーとか、絵とか、そういうのから、ちょっとずつ……。

--ひもといていく?

祭:はい。ドイツなどヨーロッパの研究者が、いろいろ残していたりします。ただとにかく数は少ないです。

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--現地にまで取材に行かれて、その文化や歴史のどのようなところに魅力を感じていますか?

祭:やっぱり遊牧民というと、羊を放牧して、冬と真夏によって転々とするというイメージだと思うんですけれども、そういう雄々しさや力強さの中にも、例えば毛織物とか刺繍のものがあって、すごく繊細で、色使いが独特で……。それにまず魅力を感じます。あと、私は『乙嫁語り』にハマって、はじめて中央アジアに行ったんですけど、どこか日本に似てる。
例えばキルギスの人って、日本人によく似てるって言われたりします。顔つきとかもそうなんですけれど、謙遜する精神とか。あとはウズベキスタンで見た光景として、朝、町を箒で掃いてるんです。すごくきれい好きなんです。そして外国だけど、人のあたたかさは、ちょっと昔の日本のようで。自分は経験したことがないですけれど、何かちょっと昔の日本の雰囲気が、まだ中央アジアには残っているように思います。ウズベキスタンも世界遺産がたくさんありますけれど、日本人がよく行く観光地にはない魅力があると思います。

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--やはり時代考証というところにまで踏み込んでやっていくと、歴史文化というところも外せなくなってくるのだな、とお話をお訊きして思いました。

祭:それはもう「森薫クラスタ」なので、しょうがないですね(笑)。私は、森薫先生の作品じゃなければ、ここまでやらなかったと思うんです。凝り性なので、こだわるところはこだわるにしても。だから「森薫クラスタなので、しょうがない」っていう一言(笑)。やっぱり先生の漫画って、その文化をリスペクトして、大事にして、漫画にして伝えるっていうところがあって、「大事に私たちに届けてくれている」というのを感じるので、私もファン活動とはいえ、その「大事にしている」っていうのを、周りの人にも伝えたいというか。なので、森先生の漫画のコスプレをするには外せない問題だと思いました。魅力がやっぱりありますね。

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--そこまで祭さんを駆り立てるものは、やっぱり森先生と作品に対する愛ですね!

祭:コスプレって、別に軽い気持ちでやってもいいし、私みたいに、ちょっと気持ちが重すぎてもいいし(笑)。もう本当に人それぞれ楽しむものなので。私、個人的には「コスプレは布教だ!」と思っているんです。「私を見てほしい」というよりも、「この作品って、私がこんなになっちゃうくらいすごいんだから、原作を読んでね」と。それで更に考えたのが、1冊買って渡すっていう、ダイレクトマーケティング(笑)。

--一冊渡すから、とにかく読んで、と(笑)。

祭:私の衣装を見て、ちょっとでも「すごいな」と思った方で、『乙嫁語り』を未読の方がいたら、私に騙されたと思って、1巻を読んでみてほしいです!

--この衣装を完全再現する人がいるという時点で、『乙嫁語り』の凄さは伝わると思います。貴重なお話ありがとうございました!

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祭さん『Twitter』アカウント
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