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自己啓発の歴史(7) 社会革命から自分革命へ
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自己啓発の歴史(7) 社会革命から自分革命へ

2013-03-07 18:03
    自己啓発の歴史(7) 社会革命から自分革命へ

    今回は橘玲さんのブログ『Stairway to Heaven』からご寄稿いただきました。

    ■自己啓発の歴史(7) 社会革命から自分革命へ
    ウェルナー・エアハルトは高校を卒業すると、大学には行かず、車や通信教育の教材を訪問販売するセールスマンとして生計を立てた。彼はデール・カーネギーの成功哲学の熱烈な信奉者で、セールスマンとして頂点を極めた後にセールスマン・トレーナーに転進した。

    もともと心理学に興味のあったエアハルトは、マズローの人間性心理学とヒューマン・ポテンシャル運動に魅了され、サンフランシスコに居を移してエスリンに通いつめるようになった。エアハルトはそこでフリッツ・パールズのゲシュタルト療法を受け、ウィリアム・シュッツのオープン・エンカウンターを体験し、アラン・ワッツから禅を教えられ、それ以外にもオカルトから東洋思想、サイエントロジーまでありとあらゆる「至高体験」を試みた後、満を持して「エアハルト・セミナーズ・トレーニング」(略称“エスト”)を設立した。

    エアハルトのアイデアは、エスリンの高尚で秘教的な雰囲気を一掃し、ヒューマン・ポテンシャル運動の成果を誰でも手軽に体験できるようにすることだった。ワークショップはホテルの大会議室で行なわれ、トレーナーやその助手はスーツ姿で、雰囲気はセールスマン・セミナーそっくりだった。

    エアハルトは参加者に、人間性の変革ではなく実社会での効用を説いた。

    1. ひとは無限の可能性をもっている。

    2. 能力は、教育や学習、訓練によって開発できる。

    3. 自己啓発した主体によって、人生は成功と幸福に向けて進化する。

    「成功哲学」の理論は、インプット(入力)とアウトプット(出力)の関係で考えるとわかりやすい。

    あなたは社会(環境)からインプットを受け、外に向けてアウトプットを返す。これは一種の相互フィードバックシステムで、外部からのインプットであなたは変わり、あなたからのアウトプットで外部は変わる。

    あなたがいまもし不幸だとすれば、外部(社会)が間違っているからだ。そう考えれば、対処法は政治運動や社会改革でよりよいインプットを得られるようにすることだ。それが人間関係のトラブルなら、相手を批判して態度を改めさせればいい。

    しかし(ゲシュタルト療法のように)視点を変えてみれば、あなたからの間違ったアウトプットが外部を歪め、その結果、不正なインプットが返ってくるともいえる。もしそうなら、他者を批判していてもなんの意味もない。あなたが出力信号を正し、それによって外部が変われば、正しい入力信号が送り返されてくる――。

    この理屈はきわめて明快でわかりやすい。自分と他者が互いに影響しあっているのは自明だから、出力の調整はどちらが先に行なっても結果は同じになるはずだ。こうした「成功哲学」の信奉者たちが集まれば、ポジティブなアウトプットを競争しあって、みんなが異様に明るくて前向きで押しつけがましくて強引なキャラクターになるだろう。これが「自己啓発した主体」で、ポジティブなアメリカ人のステレオタイプでもある。

    エアハルトのイノベーションは、エスリンのさまざまな技法を取り入れて“自己啓発”を商品化しただけでなく、セミナー参加者が友人や知人を誘うマルチ・マーケティングを採用したことにある。セミナーの卒業生にエンロールメント(勧誘)を課すことで(「この感動をあなたのいちばん大切なひとに分け与えてください」)、やる気に溢れた「営業マン」をタダで働きさせることができたのだ。

    エストはたちまち大成功を収め、エアハルトは大金持ちの有名人の仲間入りをした(人気歌手のジョン・デンバーもエストのメンバーだった)。だがエスリンは、それを黙って見ているしかなかった。彼らはヒューマン・ポテンシャル運動の先駆者だったが、知的財産権もなければ指導的立場にあるわけでもなかった。

    エストの成功を見て全米で同じような団体が乱立し、それは海を越えて世界各地に広まっていった。日本でも1980年代に「自己開発セミナー」として多くの参加者を集め、過剰な勧誘が社会問題にもなった。

    このようにして、LSDから始まった長い旅もようやく終着点にたどり着いた。自己啓発は、アメリカ流の成功哲学に、洗脳や化学兵器などの軍事技術開発とドラッグやニューエイジなど60年代のカウンターカルチャーを接ぎ木して、大輪の花を咲かせたのだ。(了)

    執筆: この記事は橘玲さんのブログ『Stairway to Heaven』からご寄稿いただきました。

    寄稿いただいた記事は2013年03月05日時点のものです。

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