今回は割烹弁いちさんのブログ『板前日記』からご寄稿いただきました。
■ど宴会
私が料理の世界に入った昭和50年代は、日本料理店の主流は宴会でした。
料理屋には食事を愉しむために行くというよりも、宴会に出席するため、もうちょっと小規模でも会合のために出かけることが多かったのです。
宴会には芸者衆、コンパニオンのお酌が入り、瓶ビール(でないとお酌ができません。生ビールなんて長い間居酒屋さんの飲み物だと思っていました)から始まり、燗酒(昭和60年代以降は焼酎も)。
料理の美味しさは二の次三の次というお客様が多くいました。必然的に料理はすでにお膳に並んでいても不思議ではなく、飲み散らかし食い散らかす方がほとんどで、宴会が中盤に入る頃には全員が席をたってお話をしたい相手の前に陣取って杯を酌み交わすのです。
お膳の上には食べかけの料理と飲みかけの酔うためだけのお酒の飲み残しがあふれます。
料理を楽しみ、お酒を楽しむという風潮が一般的になったのはそれほど昔のことではありません。
今のお若い方々には想像ができないでしょうが、女性だけで日本料理店に入るというのはその当時では考えられないことでしたし、そんな時代にはいわゆるフレンチレストランもイタリアンレストランも日本にはほとんど存在していませんでした。
宴会帰りのお父さんがお土産の折詰を片手にフラフラ家路につく姿・・・なんて、あの時代、日本人の誰もが共有する風景であったのに、今では想像することすらできません。
先日、遠くからお越しのお客様方のど宴会がありました。
コンパニオンが入り、ビールから焼酎 熱燗。料理はすべて綺麗に召し上がっていただけましたが、お席に入って料理の説明をしたり、お酒のお話をするという雰囲気は100%なく、賑やかに杯が次々と空いていきました。
久しぶりの宴会モードを見て、「あああ、昔はこういうお席ばっかりだったよなぁ」その当時は、一生懸命作った料理に集中してくださらない、いいお酒を注文してくださらない宴会が疎ましくてしかったなかったのに、三年ぶりくらいに宴会に出会って昔を懐かしく思ってしまいました。
お客様ご来店の前、パートタイムでお運びの仕事をしてくれている大学生に「今日はコンパニオンが入るからね」と伝えると、「えっ?コンパニオンってなんですか?」と尋ねられました。話をすると当然のように芸者衆もわからない。
それらを説明する時代がくるとは。。。日本料理店の風景も刻々と変化しているんですね。
執筆: この記事は割烹弁いちさんのブログ『板前日記』からご寄稿いただきました。
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