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本の値段は誰がどうやって決めるべきなんだろう?
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本の値段は誰がどうやって決めるべきなんだろう?

2012-11-20 14:30
    本の値段は誰がどうやって決めるべきなんだろう?

    今回は大原ケイさんのブログ『BOOKS AND THE CITY』からご寄稿いただきました。

    ■本の値段は誰がどうやって決めるべきなんだろう?

    ようやく日本でもいくつか電子書籍ストアが開店してみてわかってくるのは、電子書籍の値段にバラツキがあるのか否か。あるとしたらどのぐらいの幅なのか、どうして違いが出てくるのか、そして、そもそも「本の値段ってどうやって決まるべきなのか?」という議論になることを期待している。

    今までの紙の本は再販制のおかげで、出版社が(勝手に)決めた値段で、どの本屋でも、どんな人でも、何冊買おうと、変わらないので、改めて考えることもなかったかもしれない。

    それでもチョイスが全くなかったわけではない。例えば気になる作家の新刊が出たとき。最低でもこのぐらいの選択が考えられるだろう。

    1.ハードカバーを真っ先に書店で定価で買う。(1400円ぐらいが平均かな?)

    2.文庫に落ちてくるのを待つ。(半額の700円ぐらいだけど時間がかかるし、確実じゃない)

    3.ブックオフに出回るのを待つ。(安いけど、あるかどうかは不確実)

    4.アマゾン・マーケットプレイスで探す。(状態がいいかどうか保証はない)

    5.図書館で読む順番を待つ。(タダだけど、人気作家だとウェイティングリストがハンパない)

    自分がどれだけお金を出せるか、どのぐらいすぐに読みたいのか…そんな気持ちを天秤にかけて結論を出していると思う。それが電子書籍時代では、今すぐ読みたいと思えば、すぐその場で書店に行く手間隙さえかけずに本が手に入る。

    というより、紙の本で行っていた以上の選択に、電子書籍というチョイスが加わると考えていいだろう。電子書籍にもメリット、デメリットはあるのだし。

    この電子書籍の値段、ということに注目してアマゾンがアメリカで起こしてきたイノベーションや、事件を羅列してみる。

    ●1.キンドルで売り出される新刊が何でもかんでも$9.99というのは大きな間違い

    なぜキンドルがここまで人気を博したかの理由として、よくこの点が取りざたされているのを見かけるのだが、実はこれは私がブログエントリーを書いた頃の一時的な騒ぎであって、今は既に決着がついて終わっちゃった現象でしかない。大手5社のエージェンシー・モデルが違法とする判決が出た後も、いわゆる新刊の単行本は12.99~14.99という、ハードカバーの半額、ってのがデフォだし、9.99で出ているのはロマンスやファンタジー、YAで明らかに出版社側がプロモーションとして仕掛けていますね、というタイトルにしか付いていない。

    ●2.必ずしもいちばん安いわけではない

    1冊の本を買うのに、グーグル・ブックスやバーンズ&ノーブルのサイト、あるいはウォルマートやターゲットで探すとアマゾンより若干(数十セントから数ドル)安くなっているところが見つかる。必ずしもアマゾンがいちばん安いワケではないが、既にアマゾンのアカウントを持っていて、プライム会員だったりすると「ま、アマゾンでいいか」と思わせる値段設定になっている。

    ●3.プライス・クローラーの不評
    そして既存書店の「ショーウィンドー」化を増長させるとして、ブーイングを受けたのがアマゾンが去年の今頃やっていたプロモーション。アマゾンのプライスチェックのアプリを使うと、本に限らず商品のバーコードを写メで送ると、アマゾンの方が安いかどうか、その場で確かめられる上に、そのアプリからアマゾンで商品を購入するとさらに5ドルお安くしますよ、というプロモーション付きで、これも業界からかなり非難されて、今年はやらなくなったように見受けられる。

    ●4. アマゾン独自のアルゴリズムのために起きた怪事件

    そしてキンドルで最近起こっていたトンデモ事件をひとつ。なぜか日本であまり話題になっていなかった気がするので。

    その事件とは、キンドルのアルゴリズムのせいでマーケットプレイスの本に2億円もの値段がついちゃった、というもの。

    アマゾンは本の値段を付けるのに、ウォール街で株の値段を操作するためのアルゴリズムに近いソフトを採用し、マーケットプレイスに出店する業者が選べるようにしていた。件の本は「ハエの作り方」という遺伝学の専門書で、もともと高めの70ドルの定価が付いていた。特にスゴイ稀覯本というわけではなかったが、新品の状態のものが2冊しかなく、それぞれ出品していた業者が「もう1冊同じ状態の本があったらそれより少し高く(この時は1.270589倍)値づけする」アルゴリズムを選択してしまったために、自動的に両者が争って高くなったことが判明した。

    詳細はここ*1 にわかりやすく説明されている。

    *1 : 「The Infinite Loop Of Algorithmic Pricing On Amazon... Or How A Book On Flies Cost $23,698,655.93」 2011年4月25日 『techdirt』
    http://www.techdirt.com/articles/20110425/03522114026/infinite-loop-algorithmic-pricing-amazon-how-book-flies-cost-2369865593.shtml

    これはかなり特殊で稀なケースで、同様の事件は聞かなくなったからアルゴリズムにも既に改良が加えられているものと思われる。要するに、アマゾンは本の値付けをするのにかなり高度なアルゴリズムを使っているというわけだ。そしてマーケットプレイスで本を売る側も必ずしも他よりいちばん安い値段で出そうとしてはいないということでもある。

    日本ではアマゾンに値段を任せる、いわゆるホールセラー・モデルにすると即、本の値崩れが起こることが懸念されるのか、価格決定権を譲ろうという版元が少ない。

    でもその版元に問いたい。

    本当に自分たちが作っている本の価値を理解しているのか? 読者がどんな値段でどんな本を買いたいと思っているのかを把握しているのか? もしかしたらそれは客にいちばん近いところで本を売ってきた書店こそが知っているのではないか?と。

    執筆: この記事は大原ケイさんのブログ『BOOKS AND THE CITY』からご寄稿いただきました。

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