まだ分別のつかない、小さな子どもたち

今回は乙武洋匡さんのブログ『OTO ZONE』からご寄稿いただきました。

※この記事は、乙武さんに第一子が誕生する以前の2006年6月7日に書かれたものです。

■まだ分別のつかない、小さな赤ちゃんたち
週末は、柔道の全日本実業団体対抗大会を取材するため、札幌へ。
もちろん、お目当ては右大胸筋けん断裂の重傷から1年5カ月ぶりの復帰戦となった井上康生選手。

結果は、出場した3試合すべてに一本勝ち!
技のキレも申し分なく、シドニー五輪以来、6年近く彼の取材を続けている僕にとっても、記憶に残る大会となりました。
さて、よろこびをかみしめながら帰ってきた機中、僕の隣りには一歳くらいの男の子を連れたお母さんが座っていました。
この子が、かわいいのなんのって……。
くりくりのお目々で、じーっと見つめられたら、もうイチコロ!

お母さんのひざで抱えられながらも、いたずらが止まらないチビッコ。
飛行機が離陸したあとも、袋から取り出したおもちゃを振り回したり、食事用の小さなテーブルが収納されているフタを、飽きもせず、何度も繰り返し開け閉めしたり。

はじめは「もう、この“いたずらもみじ”が!」と、軽くたしなめる程度だったお母さんも、いつまでも止まないいたずらに、ほとほと困惑顔。
哺乳ビンに入ったミルクは離陸前に飲み干してしまったし、なだめてもすかしても、小さな“もみじ”は動きを止めません。
やっぱり、子どもを育てるって大変だなあ。
その様子をそばで見ながら、実感しました。
ふとしたいたずらで本人が怪我してもいけないし、まわりの人に怪我をさせても、物を壊してもいけない。
だから、とにかく子どもから目を離すことができない。

でもね、今回、一時間半のフライトをともにして、ふと思ったんです。
もしかして、その気苦労の半分くらいは、「まわりの人に申し訳ないから、いい子にしててね」という気遣いだったりするのかなあと。
その子がガチャガチャと物音を立てるので、いつもは機内で爆睡の僕も、さすがに眠ることができませんでした。
ときには、振り回したおもちゃが肩のあたりにぶつかることも。

そのたびに、「すいません、すいません」と謝るお母さん。
そのチビッコが「ギャーッ」と泣き出したときなど、お母さんの心臓がビクッとなるのが聞こえてきそうほどでした。

「もう、お願いだから……」と、最後はわが子に懇願するようにしていた彼女の姿に、何だか「申し訳ないなあ」と思ったんです。

え、誰に申し訳ないかって?
まだ分別のつかない、小さな子どもたちに。
公共の場では、周囲の迷惑にならないように――。
これは、社会人として当たり前のルール。
だから、お母さんも、子どもが騒ぐたびに肩身のせまい思いをした。
お騒がせしてスミマセン、と。
でも。

これって仕方がないことだと思いませんか?
もしも幼稚園にあがったくらいの子どもが騒いでいたなら、「みんながいる場所では静かにしなさい」というしつけも必要でしょう。

でも、まだ「ウー」とか「アー」しか口にしない一歳前後の赤ん坊。
「まわりの迷惑になるから」と言い聞かせたって、わかるはずがない。

結局、大人が我慢するか、子どもに我慢させるのか、という話だと思うんです。それが、日本の社会では(ほかの国ではどうなんだろう?)
子どもに我慢をさせてきた。
大人が快適にすごすために、赤ん坊に過度なストレスを強いてきた。

正直なことを言えば、いままで電車やレストランで赤ん坊が騒げば、「うるさいなあ」と思ったこともありました。でも、子どもたちにしてみれば「そんなこと言われたって……」ですよねえ。
これからは、我慢、我慢。
我慢というか、その光景をほほえましいと思える大人になりたいな。
たとえ寝不足だとしても(笑)。

そのぶん、言い聞かせてわかる年齢には、厳しくいきますよ!?

執筆: この記事は乙武洋匡さんのブログ『OTO ZONE』からご寄稿いただきました。

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