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差別はネットの娯楽なのか(6)――「在日コリアンだけどなんか質問ある?」後篇(解説:金明秀教授)
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差別はネットの娯楽なのか(6)――「在日コリアンだけどなんか質問ある?」後篇(解説:金明秀教授)

2012-12-05 08:31
    金明秀教授

    質問3)

    帰化しても、しなくても平等であるべきというご意見について質問です。

    (1)外国籍者も、選挙権、被選挙権や公職就任など日本国籍者とすべて同等の権利を持つべきだとのことでしょうか?

    (2)上記(1)で外国籍者が日本国籍者と同等の権利を持つべきであるというお考えの場合、すべての外国籍永住者が対象となるのでしょうか?

    それとも特別永住者など、特定の条件の外国籍者が対象なのでしょうか?(ハンネ:てんしる@gojyugataさん)

     

    現在、在日コリアンで韓国籍であり、韓国政府が発行する旅券などを持つ人は、韓国の国政選挙に参加できます。「在日は韓国の国政選挙に参加できるので、日本での選挙権など必要ではない」そう考える人も在日や日本人を問わず、いるでしょう。

     

    しかし、朝鮮籍を持つ者は、韓国では選挙権はありません。(朝鮮籍とは外国人登録上の区分で、国籍ではありません。事実上は無国籍状態になりますが、韓国政府は韓国籍でなく、旅券を持たないものを在外選挙民とみなしていません)

     

    また、在日コリアンが実質的に暮らしているのは日本です。皆さんは、政治に何を望み、選挙で一票を投じますか。きっと、多くの人はこの社会をよりよくしたい、誠実に生きたいと思うからこそ選挙に行くと思う。在日コリアンであっても選挙権が欲しいと思うことは、それと同じことでは。

     

    また、前出した、韓国の国政選挙での朝鮮籍と韓国籍の差のようなことが、日本国内で発生することはおかしいと考える。「分断して統治」のようなことが行われるのは正しくないとも思います。

     

    なので、すべての外国籍永住者が対象であるべきだと思います。

     

    ★金教授

    日本が批准している国際人権規約などの国際条約などによると、裁判や社会保障において国民と外国人を一律に区別することは許されていないのですが、政治的権利についてだけは外国人を区別することに一定の合理性があると考えられています。

     

    ただし、それは外国籍を持つ住民に、政治的権利を与えてはならないということを意味するものではありません。例えば、1995年に最高裁は、「定住外国人に対し地方参政権を付与することを禁止していない」と判決に記しています。

     

    したがって、日本に定住している外国人に政治的権利を認めるかどうかは、日本社会が主体的に決めるべき問題です。

     

    その際に考慮すべきなのは、http://han.org/a/ssc/rep_ssc13.html

    この調査(1995年)でも示されている通り、「地域活動に参加」している在日韓国人ほど、日本の地方参政権を望んでいるという事実です。この結果は、地域に定着し、より地域をよくするために貢献したいと願っている人ほど、地方参政権を望んでいると解釈されます。

     

    質問4)

    もし我国に某国のように兵役義務があったならあなたは応じますか。(ハンネ: Rio Hirataさん)

     

    私が男性で、在日コリアンにもその義務があったなら、きっと行くでしょう。うん、先頭切っていくと思います。基本的に憶病で卑怯者ですし、弱さを見せたくないから。そして、誰だって他人と同じ行動をとる方が安心できるもんじゃないですか。

     

    でも、在日である私が兵役義務につくことの意味ってなんでしょう。日本への忠誠心の表れなんでしょうか。自分が日本を自発的に愛しているからでしょうか。家族や、大切な人を守るため?その場にならないと分かりませんが、きっといろんな気持ちが絡み合うんだろうな、ということは想像できます。

     

    あなたは、在日コリアンに日本への忠誠を誓わせることは、正しいことだと思いますか?移民にとっての兵役義務とは、自分のルーツを引き裂かれてしまうことや、それに近いことだと思います。

     

    「もし、日本と朝鮮半島の間で何かあったら」と不安な気持ちになることは、本当に多いです。兵役義務がなく、女性として普通に生活する今現在でもそうです。朝鮮学校に通う子どもたちや保護者なら、それをなおさら実感しているとも思います。同じようなことは、米国の日系人社会や、日本の特攻隊でも過去にありましたよね。

     

    2つの国(多くの在日コリアンは3つの国でしょうか)にルーツを持つ人にとって、それぞれの国は両親であり祖父母のような存在であると思います。父と母が争っていたなら、その子供は深く傷つき、その喧嘩を仲裁しようと思うでしょう。どちらかだけを選ぶことはできないと思います。

     

    また、「自分の子どもは指のようなもの、どの指を噛んでも痛い」ということわざが朝鮮半島にはあります。日本、韓国、共和国はどれも私たちの一部です。

     

    そして、私自身は日本国籍の息子がいます。日本が兵役のない国、平和憲法のある国でよかったと思います。ずっと日本が安心して子どもを育てられる国であって欲しいです。

     

    ★金教授

    「国民の義務」というのは国によって違うけど、勤労、納税、教育とならんで、兵役を挙げる国があるわけです。韓国もその一つ。この質問は、韓国と日本の両方に兵役の義務があるとしたら、どちらの義務を果たしますかという質問ですね。質問2と同じく、「二重帰属」はおかしいのではないかという直感から出ている質問でしょう。

     

    そうすると、回答の方法も質問2と同様、(1)その直感は妥当なのかどうか、(2)直感が揺るがせられたことは妥当なのかどうか、(3)揺らいだ直感の修正方法は妥当なのかどうかの3通りあります。

     

    (1)は、日本に徴兵の義務を導入するという想定自体があってはならないという回答になるでしょう。現在の憲法を前提とするかぎりナンセンスな話です。

     

    (2)は、日本と韓国双方の兵役に引き裂かれるという想定がおかしいという回答になります。だって、韓国では、在日コリアンは言葉がつかえなくて役に立たないし、北のスパイになる危険性もあるということで兵役に入れてもらえない。日本でも、おそらく国防上の理由で軍から排除されることになるでしょう。

     

    ただ、日本で兵役が必要になるような国際関係が発生すれば、きっと多くの在日コリアンは、何らかの手段で日本に貢献しようとするでしょう。だって、ここで生まれ育って、大切な人たちが住んでいるわけだから。

     

    (3)この直感は、「二つの国に同時に忠誠を誓うことはできない」という前提を含んでいますが、その前提そのものを疑ってみることも重要だと思います。李信恵さんの言うとおり、どちらも大事ということだってあるわけだから。

     

    ■金明秀教授に質問してみた
     

    1)今回集まったQ&Aの質問の内容を見た感想を教えてください。

     

    みんな、グローバル化の中で人間がどう位置付けられるのか考えている。そして、周辺的な存在である在日コリアンの立場を知ることによって、自分が安全な場所にいるかどうかを確認したがっているのかもしれないなあ、というのが感想ですね。

     

    国家と国民がきれいに対応している状況はある種の理想なのだろうけど、現実にはうまくかみ合わないわけだよね。移民がいたり、強制移住があったり、植民地支配があったり、侵略があったりして。在日コリアンのような周辺的存在は、理想と現実のズレを身をもってあらわしているわけで、見る人によってはその存在自体に脅威を覚えるのかもしれない。

     

    だから、うまく在日という存在を整理して安心したい。そういう思いが質問から伝わってくる気がします。

     

    2)私もそうですが、在日が日本人からのこのような質問に答えることについてどう思われますか?

     

    重要な情報提供だと思いますよ。「在日の知人がいる」という人でも、在日のことを知っているようでいながら何も知らないからね。

     

    ぼくもむかし書いたことがあるけど、今でもhan.orgの中でもっとも訪問者の多いコンテンツです。いまとなっては間違っている記述や古くなっちゃった記述もあるけどね。

     

    http://han.org/a/faq/

     

    3)どう答えても、答えた側の不利益になりかねない踏み絵のような質問もあると思います。答えてもいいのかなと悩みます。

     

    質問そのものが暴力的だということはよくありますね。ただ、そういう場合でも、回答することによって開かれるコミュニケーションは大切だと思います。

     

    それに、答え方一つをとっても、無自覚に「踏み絵」を踏ませようとしているのだと糾弾するような答え方もできるし、逆に、「踏み絵」を踏ませようとするのはある意味で自然な感情かもしれないが、それはいくつもの意味でひどいことなのだと解説することもできる。いつもいつも、そうやって無自覚な踏み絵を暴力的に迫られることに傷ついたり、傷つかないまでも辟易していると知ってもらうこともできる。

     

    そうやって開かれたコミュニケーションの回路は、きっと長期的に好ましい変化を生むとぼくは信じています。

     

     

     

    本当に丁寧な解説、ありがとうございました。

    (李信恵)

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