今回はkatsuさんのブログ『katsumushiの日記』からご寄稿いただきました。
■シャコとヒトの共通点
シャコとヒトには一見共通点がなさそうが、シャコもヒトも体のバネを利用した高速運動が出来る動物なのだ。
シャコは高速パンチ、ヒトは高速ピッチングである。現代のヒトではその能力は一部のアスリートのみが利用している。たとえば、野球のピッチャー、槍投げ選手たちだ。シャコはものは投げないが、貝を叩き割ったり、素早い獲物を突き刺したりしている。シャコの高速パンチについては、小生がいるラボで追究中であるが、ヒトの高速投擲・ピッチングについては、次の Nature 論文で紹介されている。
「Elastic energy storage in the shoulder and the evolution of high-speed throwing in Homo」 『nature』
Neil T. Roach, Madhusudhan Venkadesan, Michael J. Rainbow & Daniel E. Lieberman
Nature 498, 483-486 (27 June 2013) doi:10.1038/nature12267
http://www.nature.com/nature/journal/v498/n7455/full/nature12267.html
日本語での解説は"ヒトの優れた投擲能力の秘密"--「科学ニュースの森」*1が詳しい。論文の著者たちは、ヒトのピッチングの解析、霊長類現存種(たとえばチンパンジー)の解剖学、化石の解剖学などを総動員している。
*1:「ヒトの優れた投擲能力の秘密」 2013年06月29日 『科学ニュースの森』
http://blog.livedoor.jp/xcrex/archives/65753473.html
彼らは医療用の矯正器でアスリートの腕の動きを制限することで、化石から分かるヒト族の関節を再現した。すると、肩の筋肉は投擲運動中に生成される力の半分も生成していないことが分かった。残りの力は、ヒト特有のエネルギーを一時的に保存し素早く解放することのできる、肩やその他の部分の特徴によって生み出されているようだ。
筋肉以外、つまり、腱をはじめとする体の「バネ」に力を蓄積して、それを一気に放出するプロセスが超高速の動きを可能にする。これを専門的にはpower amplificationという。長い時間をかけてバネに力をタメて、短かい時間で放出するのだ。ヒトだと、これは秒速9000度ほどになる。このスピードは他の霊長類、たとえばチンパンジーには出せない。解剖学的に無理なのだ。逆に、ヒトはこれを実現するのに都合のよい構造になっているとのこと。
一方シャコだが、シャコの運動は貝を叩き割るタイプのスマッシャーで、水中で秒速40000度ほどになる。シャコの例は、この論文でも言及していて、ボスの論文が引用されている。
「Linkage mechanics and power amplification of the mantis shrimp's strike.」 『The Patek Lab』
Patek SN, Nowroozi BN, Baio JE, Caldwell RL, Summers AP
Journal of Experimental Biology 2010 Nov 15; 213:3941
http://www.thepateklab.org/linkage-mechanics-and-power-amplification-mantis-shrimps-strike
ヒト研究とは関連はないものと恥ずかしながら思っていたが、横たわるメカニズムで共通しているということはあるものだなと自然の進化が生み出したデザインの妙にますます心打たれた。
執筆: この記事はkatsuさんのブログ『katsumushiの日記』からご寄稿いただきました。
寄稿いただいた記事は2014年02月06日時点のものです。
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