STAP事件簿13 研究が悪いのか、書き方が不十分なのか?(中部大学教授 武田邦彦)

今回は武田邦彦さんのブログ『武田邦彦(中部大学)』からご寄稿いただきました。

■STAP事件簿13 研究が悪いのか、書き方が不十分なのか?(中部大学教授 武田邦彦)
STAP事件では、マスコミや批判する学者の多くに論理があっていないように見える。つまり、

1. 具体的な批判は「論文の書き方」なのに、

2. 研究そのものを止めさせようとしている。

ネイチャー論文の批判は、最初、写真の貼り間違えと写真に手を加えたこと、つまり「論文の書き方」が指摘され、その後、卒業論文のコピペや、実験ノートの不備など、本人の研究姿勢に及んできた。

しかし、論文を読むと、写真の問題はあってもそれは「論文の書き方のうまい下手」、「示している資料の正確性」であり、いわば文章の一部がぬけていたり、「てにおは」が修正されていないという類だ。

写真は70枚ぐらいあって、多くは適切なものが使われているし、説明、文章、文献の引き方などは30歳の研究者としてみれば、上出来の部類だ。

さらに、論文に示されていることは、「細胞がかなり傷む刺激を与えると、分化がリセットされる可能性がある」ということを明確に述べており、研究としては問題はない。

1953年、20世紀の最高のノーベル賞と言われる、ワトソン・クリックのDNA論文は、同じネイチャーに掲載されたものだが、「ノート」で、わずか2ページ。実験方法も(彼らは自分のデータを使ったのではなく、他人のデータがほとんどだったが)、詳細な説明もない。しかし、DNAは二重らせんだ、それが生命の源だという画期的な着想だった。

後にノーベル物理学賞を受賞した日本の江崎玲於奈博士も、たしかフィジカル・レターに簡単な2ページの論文を投稿してノーベル賞を受賞している。私は江崎先生から直接、「この論文で賞をいただいたのです」と言われて渡されて、その簡単な記述にびっくりしたものだ。論文には1枚のグラフがあるだけで、説明はごくごく簡単なものだった。

人間の着想の素晴らしさというものは、詳細がキチンと書かれていることではない。書かれている内容が間違いを含んでいるということでもない。そこに示された考えが「これまで人類がほとんど考えたことではない」というのを少しの事実から導き出すことである。

したがって、それは不確かであり、危ういものではあるが、その後、多くの人が関心を持ち、だんだん膨らみ、やがて巨大な発見や人類の福利に役立つものである。

したがって、「こうしたらできる」とか、「他人が追試してできるような記述」とか、まして「70枚のうちに2枚ほど図を間違って貼った」などということは問題にはならない。

STAP事件は、1)科学の進歩の体験をしていない素人の人たち、2)大騒ぎをしたいマスコミ、3)それに乗って有名になりたく、他人の批判が好きな学者、4)研究をお金や名誉でやっている人、それに、5)よく勉強しなかったので先生のコピペやデータの間違いを叱られた子供や青年、が「火の無いところに煙を立てて、日本の科学に打撃を与えた」と言う事件だった。

執筆:この記事は武田邦彦さんのブログ『武田邦彦(中部大学)』からご寄稿いただきました。

寄稿いただいた記事は2014年04月17日時点のものです。

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