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残業チキンレースにそろそろサヨナラしよう!(人事コンサルタント 城 繁幸)
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残業チキンレースにそろそろサヨナラしよう!(人事コンサルタント 城 繁幸)

2014-05-11 20:00
    残業チキンレースにそろそろサヨナラしよう!(人事コンサルタント 城 繁幸)

    今回は城繁幸さんのブログ『Joe's Labo』からご寄稿いただきました。

    ■残業チキンレースにそろそろサヨナラしよう!(人事コンサルタント 城 繁幸)
    政府の産業競争力会議が、労働者の労働時間管理を外す規制緩和を検討中だと報じられ、「残業ゼロ法案だ」などと話題になっている。ほぼ同内容である06年の“ホワイトカラーエグゼンプション”の際もそうだったが、ほとんどの人が「残業代は必要だ」「いや、そんな悠長なことを言ってられる時代ではない」レベルの議論に終始しており、重要な論点を見落としているように見える。いい機会なので、ポイントに絞って整理しておこう。

    ●そもそも労働時間で給料を決めること自体が時代遅れ
    現在の労基法は、明治時代に作られた工場法がベースとなっている。具体的に言うと、工場で生糸とか作ってた頃の「製造ラインに立っていた分だけモノは出来ているはずだから、雇用主はきっちり払いなさい」というコンセプトだ。

    でも、現代社会において、同様に「机に座っていた時間に成果が比例する仕事」はどれだけあるだろうか。少なくともデスクワーク主体のホワイトカラーはほとんどが当てはまらないに違いない。というわけで、少なくともそうしたホワイトカラー職は時間管理を外して年俸制のような柔軟なシステムに移行するのが望ましいと筆者も考える。

    それでも「時間に比例して支払ってもらった方が確実に貰えるからトクだ」と考える人もいるかもしれない。だったら、別に止めはしない。なぜなら、そのコストを負担するのは、資本家でもなく社長でもなく、あなた方従業員自身だから。

    冷静に考えてみるといい。職場に「お前最近、残業時間が少ないな、やる気あるのか?」なんていう頭の固い上司はいないか。「子供が私立に入ったから毎月60時間生活残業してます」なんて無能な同僚はいないか。いつもは21時過ぎまで忙しそうな顔して残っている癖に、金曜の夜だけ涼しい顔して帰る人間はいないか。

    成果が時間に比例しない以上、愚かな同僚がいっぱい残業したからといって、会社が従業員に用意できる人件費が増えるわけではない。無駄な残業に対して支払われる手当は、きっちり定時で仕事を終わらせている人たちの財布からも支払われていることになる。

    そういう仕組みの中で自分だけ損をするのを避けるにはどうすればいいか。答えは一つ、自分も負けじといっぱい残業するしかない。そういうカルチャーの中で生きることが、本当に幸せなのだろうか。おそらく、多少手取りが減ったにしても、エンドレスな残業チキンレースはやめて定時で帰れればそれでいいという人の方が多いのではないか。

    みんなが「労働時間=賃金」という発想を捨てれば、無駄な残業時間は間違いなく減るはずだから、時間当たりの賃金は上がることになる。その上で、各自が時間ではなくホワイトカラーとしての実のある成果に注力することが、日本人の低迷する生産性を引き上げる鍵だろう。(OECD調査2013年版では日本の労働生産性は加盟34か国中21位と過去最低を更新している。)

    ●とはいえ、時間管理を外すには“裁量”もセットで渡す必要がある
    ただし、筆者は、以前のホワイトカラーエグゼンプション議論の際に出たような「年収500万円程度の普通のサラリーマンにまで一挙に適用開始」という案には賛成ではない。なぜなら、労働時間を管理せず、各人の管理に任せるのであれば、それを可能とするだけの“裁量”が必要であり、現状ではそれを満たしているサラリーマンは少数派だからだ。

    自分に裁量があるかどうかは、有給休暇の取得日数を考えてみればすぐにわかるだろう。有給を消化するためにきちんと時間と作業を割り振り、自分の担当範囲をきっちり終わらせて100%近く消化できているよという人はどれほどいるだろうか。日本の有給消化率は39%*1と、90%以上が常識のEU諸国と比べれば半分以下に過ぎない。こうした状況で「成果は時間じゃない、裁量を発揮して成果を上げろ」と言われても、多くのサラリーマンは困惑するだけだろう。

    *1:「世界で最も休めない日本人、有休0日の割合も世界断トツ1位!」 『エクスペディア』
    http://www.expedia.co.jp/p/corporate/holiday-deprivation2013

    具体的には、あらかじめ業務範囲を明確に切り分け、責任の所在を明確にしておく必要がある。賃金制度にしても、属人給である職能給から、担当する業務に値札のつく職務給に見直す必要があるだろう。サラリーマンを時間という呪縛から解き放つには、賃金制度の抜本的な見直しという気の遠くなるようなプロセスが必要なのだ。それがいつごろ可能になるかは、筆者にも見当がつかない。

    ●落としどころとしての年収一千万以上、労組の同意
    とはいえ、ビジネスは待ったなしだ。実際、筆者の知る人事部長の間でも「とりあえず時給管理を外せば無駄な残業は減らせるし、裁量なんて後から切り分けられるはずだからやってみればいい」という楽観論も多い。そういう意味では、年収一千万円以上か、労組との合意、本人の同意を条件に対象を絞り込んで規制緩和するプランは、落としどころとしてはまずまずではないか。

    筆者の知る限り、年収一千万円超のサラリーマン(非管理職)は新聞社やテレビ局といったメディアくらいにしかおらず、その多くも既にみなし労働が適用され、残業代が青天井というわけではない。(実際にはみなし残業手当を受け取っているし、超過分も請求は可能なので、時間管理されていないというわけではない。)

    「もしブラック企業が御用労組を作って一般社員の残業代をカットしようとしたらどうするんだ」という心配性の人もいるようだが、ホントにそんな強権的な会社があったら、そういうしちめんどくさいことはやらずにさっさと賃金を半分にしていることだろう。

    断言するが、99%のサラリーマンは今回の規制緩和とは無関係だ。第三の矢としてなにがしかの成果が欲しい政権のアドバルーンというのが実情だろうが、効果のほどを見極めるには手ごろな落としどころだというのが筆者の意見だ。

    執筆:この記事は城繁幸さんのブログ『Joe's Labo』からご寄稿いただきました。

    寄稿いただいた記事は2014年05月11日時点のものです。

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