国会は4月2、3日の両日衆参両院で本会議を開き、新型コロナウイルスと東京五輪を巡る安倍政権の方針について議論した。出席者全員がマスク姿で臨んだ本会議場は議員の顔が皆同じに見え、ロボット集団による国会のようで異様な光景だった。

この本会議は急に決められたようで、NHKの中継もその日になって告知され、ニュース枠を拡大して放送された。異例な国会中継だったため、何か重大な進展が発表されるのかと思ったが、中身は何もなく何のための本会議だったのか疑問を抱かされた。

安倍総理の答弁はこれまで言われてきた内容から一歩も出ない。つまり緊急事態宣言を出す時期についても、外出自粛によって困難な生活に追いやられている国民への補償についても、もうすぐ決めると言うだけだ。

むしろ質問する立法府の議員からも答弁する行政府の長からも、新型コロナウイルスは「最大級の国難」とか、「国と国民が一体になって取り組む必要がある」とかの言葉が繰り返され、それが本会議を開いた狙いだったのかと思わされた。私は戦前の帝国議会が「翼賛体制」に吸収されていった時の雰囲気とはこんな感じだったのではないかと想像した。

新型コロナウイルスとの戦いは「国民の命を守るための戦い」であるから誰もそれに反対できない。そのためには国家と国民が一つになって協力する必要がある。それと同じ掛け声で無謀な戦争に「国家総動員」されたのが80年前の「1940年体制」である。「最大級の国難」に対処するため「大政翼賛会」が作られた。

戦後の日本国民は無謀な戦争に突入したことを「軍部の独走」と思い込まされているが、軍部は軍事のプロであるから日本の軍事力で欧米に勝てるとは思っていない。むしろ軍事の素人たちが無謀な戦争に突き進む状況を作り出し、その事実を戦後になって直視せず「軍部の独走」と歴史の書き換えを行った。

勝てない戦争をやる軍部は奇襲攻撃しか戦法がなかった。奇襲攻撃でこちらが有利なうちに講和に持ち込むことを考えた。ところが奇襲攻撃が成功すると軍事の素人は「勝てる」と勘違いし「もっとやれ」となる。それがあの敗戦を生んだのではないかと私は思っている。

なぜこんなことを書くかと言えば、今、世界を震撼とさせている新型コロナウイルスについて、私は連日の報道に違和感を感じているからだ。国民の恐怖心を煽り、国民を洗脳しようとする意図が露骨に感じられる。

例えばNHKが典型だが、ニュース番組でキャスターが離れて立ってソーシャルディスタンスを実演して見せる。しかしあのキャスターたちは番組が終われば接近して打合せを行うだろう。

また大河ドラマや朝ドラの収録を感染防止のため見合わせると言うが、ニュースの部署は感染防止のため仕事をやめないのか。視聴者に見せている事と実態との乖離、愚かな視聴者を教育する意図を感じて不快になる。

海外の実例でも「封鎖」によってゴーストタウン化したパリやニューヨークを紹介し、医療崩壊の危機に瀕した例ばかりが取り上げられる。しかし世界にはスウェーデンなど「封鎖」をせずに通常の生活を維持してウイルスと戦っている国もある。そうした例はほとんど紹介されない。そこにも何か意図があると感じてしまうのだ。

だがそれもこれも新型コロナウイルスについて分からないことが多すぎるのが疑問を増幅させる。米国のジョンズ・ホプキンス大学によれば、4月2日現在で世界の感染者数は100万人を超えた。しかし2009年に世界保健機構(WHO)によってパンデミック宣言された新型インフルエンザは、日本だけでも2000万人が感染した。

そして10代から20代の若者を中心に世界で1万4000人以上、日本では200人が死亡した。一方、新型コロナウイルスで死亡したのは4月4日の時点で世界では6万人弱、日本では89人で、多くは高齢者だ。まるで「少子高齢社会」に対する天の啓示ではないかと思えるほど、免疫力の弱い高齢者の命が奪われる。

それ以外にも日本では毎年季節性インフルエンザで1000人以上が死亡し、肺炎で死ぬ人も年間10万人以上と言われる。新型コロナウイルスの死者はまったくそこまで至っていないが、テレビでは「外出するな。我慢しろ」で大騒ぎだ。国民の行動を規制する「封鎖」が当たり前の話になっている。

勿論、命が奪われることを是とするものではないが、国民に恐怖感を植え付けようとする報道を見ていると、裏に何かがあるのではないかと考えたくなる。危機を捉えて大衆操作の実験を行っているのではと考えてしまうのだ。例えばどれほどの恐怖を与えればどこまで強制が可能かというような。

米国のトランプ大統領を見ると、世界は協調より分断に向かい、自国第一主義が優先する世界になると思わされ、各国の権力者は自らの権力を強化する誘惑にかられる。それを裏書きするように中国の習近平もロシアのプーチンも長期の専制体制を志向し、それを実現しつつある。

私はトランプの自国第一主義は、米国の一極支配が過剰負担となり、このままでは中国に追い抜かれる可能性があることから、そこにロシアをかませ、いったんは米中ロの三極構造を作ることで米国が自力を養い、再び世界制覇を狙う戦略ではないかと思ってきた。

しかし米国内には米国が一極支配を続けるべきと考える勢力もいる。トランプの自国第一主義には反対だ。その勢力が中国で新型コロナウイルスを発生させたという陰謀論がある。3月12日に中国外務省の趙立堅報道官が「この感染症は米軍が武漢に持ち込んだものかもしれない」とツイッターに書き込み、米国から猛然と批判された。

しかし米国では昨年冬からインフルエンザが大流行し、3400万人が感染し2万人近くが死亡している。「そのなかに新型コロナウイルスが原因だった患者がいる」と米疾病対策センター(CDC)所長のロバート・レッドフィールド氏が3月11日に連邦議会の公聴会で証言した。

またメリーランド州にあるフォート・デトリック陸軍基地にある「細菌・生物兵器研究所」が汚染水漏れを起こし昨年7月に閉鎖されたが、そこでは新型ウイルスの研究も行われていたという。つまり武漢で発生する以前から新型コロナウイルスは米国に存在していた可能性がある。

しかし中国でも細菌・生物兵器の研究は行われており、感染源を巡って互いに攻撃し過ぎると手の内をさらして不利益になることから、感染源を巡る米中対立はこれ以上進展しないと専門家は見ている。ともかく権力者はこの危機に便乗し、どう利益を獲得するかの方に頭が向かうことは間違いない。

私が陰謀論として反トランプ勢力がこの危機を発生させたと考えた一つの理由は、トランプが娘婿のクシュナーを新型コロナウイルス対策の指導的役割に就けているからだ。医学的知識があるわけでも軍の経験があるわけでもないクシュナーをリーダーにしたのは、自分にとって最大級の危機が訪れていることを知ったからではないか。

トランプの最大の売りは経済で、株価が何よりも重要だった。ところが新型コロナはその成果をゼロにした。私が不思議だったのは新型コロナによる株価暴落のすさまじさだ。トランプに脅しをかけたい勢力が、新型コロナを理由に暴落を仕掛け、それに便乗して暴利をむさぼったのではないかという気がする。

いずれにしても権力者はこの危機を権力強化に利用しようとする。今年大統領選挙のトランプがこれをどう切り抜けるかは見ものだが、習近平もプーチンも全体主義が支配する世界を作りたい。そしてマスク2枚を全家庭に配るというチンケな日本の権力者も、有事体制のシミュレーションを国民にやらせる絶好の機会だ。

まあ陰謀論的見方ではあるが、マスクでみな同じ顔にしか見えない国会を見せられ、何も中身のない議論のわりに「国難」とか「国と国民が一体」とか言われ、テレビで毎日「欲しがりません勝つまでは」を強いられるとこんな妄想を持つようになる。


■《庚子田中塾》のお知らせ(5月26日 19時〜)

田中良紹塾長が主宰する《庚子田中塾》が5月26日(火)に開催されることになりました。詳細は下記の通りとなりますので、ぜひご参加下さい!

【日時】
2020年5月26日(火) 19時〜 (開場18時30分)

【会場】
第1部会場:KoNA水道橋会議室
東京都千代田区神田三崎町2-9-5 水道橋TJビル202
JR水道橋駅東口 徒歩2分
写真付き道案内 → https://goo.gl/6RvH93
※第1部終了後、田中良紹塾長も交えて近隣の居酒屋で懇親会を行います。

【参加費】
第1部:1500円
※セミナー形式。19時〜21時まで。
懇親会:4000円程度
※近隣の居酒屋で田中塾長を交えて行います。

【申し込み方法】
下記URLから必要事項にご記入の上、お申し込み下さい。
(記入に不足がある場合、正しく受け付けることができない場合がありますので、ご注意下さい)

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<田中良紹(たなか・よしつぐ)プロフィール>
 1945 年宮城県仙台市生まれ。1969年慶應義塾大学経済学部卒業。同 年(株)東京放送(TBS)入社。ドキュメンタリー・デイレクターとして「テレビ・ルポルタージュ」や「報道特集」を制作。また放送記者として裁判所、 警察庁、警視庁、労働省、官邸、自民党、外務省、郵政省などを担当。ロッキード事件、各種公安事件、さらに田中角栄元総理の密着取材などを行う。1990 年にアメリカの議会チャンネルC-SPANの配給権を取得して(株)シー・ネットを設立。

 TBSを退社後、1998年からCS放送で国会審議を中継する「国会TV」を開局するが、2001年に電波を止められ、ブロードバンドでの放送を開始する。2007年7月、ブログを「国会探検」と改名し再スタート。主な著書に「メディア裏支配─語られざる巨大メディアの暗闘史」(2005/講談社)「裏支配─いま明かされる田中角栄の真実」(2005/講談社)など。