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「背負って行きますか?」
お嫁さんと久しぶりに故郷の長崎を訪ねた宮崎マサさん。6年ぶりの里帰りは、介護タクシーと飛行機を乗り継いでの旅だった。
旅の目的はお墓参り。
もう無理とあきらめていた夢が叶った感激で目が輝いている。
ところが着いた菩提寺は、舗装もなく傾斜のきつい坂道、長い階段が墓前まで続いていた。車いすを頼りに暮らす宮崎さんにはとても行けそうにない。
「せっかく、ここまで来たのに・・・」
うつむく宮崎さんの姿に車内は気まずい空気が流れた。
東京から同行したトラベルヘルパーは、「あきらめたくないね」と地元ドライバーの顔を見た。
宮崎さんは、毎年この季節にお嫁さんと旅するのを楽しみにしていた。義理の母との旅は仕事で忙しい息子のプレゼントだった。「本当は(息子も)一緒がいい」でも、そんな優しい親孝行の気持ちが嬉しかった。こんな家族になれたら幸せだと周囲も感じたという。
お墓参りは、人気のお出かけメニューの上位にある。
しかし、地方にバリアフリー化された墓地は見当たらない。だから、本当は行きたいけれどと、多くの人があきらめている。
そこですすめたいのは、持ち運びの便利な軽量車いす、最近はデザインや種類も増えた。
まだ自分の足で歩けると自負する人も、長時間の歩行が心配なら携行をすすめたい。
杖もそうだが、はじめは車いすの使用を躊躇する人が少なくない。自分はまだ大丈夫といいはり、受け入れるまでに何年もかかることがある。しかし、福祉用具との上手なつきあいは、高齢な人の暮らしに幅をもたせてくれる。
車いすは、常時乗らなければいけないものでなく、元気なときは荷物を載せて押してもいいし、折り畳んで車に積んでおくこともできる。疲れた時だけ座って押してもらえばいい。携行できる移動ベンチとして、まずは気軽な感じで使いはじめてみてはどうかとすすめている。
墓地のような凹凸の多い路面なら安全が保てるし、慣れた介助者がいるなら利用した方が移動も早い。観光で行く寺社なら、砂利道で楽に使えるタイヤの太い車いすを貸し出してくれるところもある。
高齢な人にとっての墓参りは、ご先祖様との対話の場、特別な思いがある。
信仰にまつわる参拝、参詣も日本人が忘れてならない生活文化であり、こうした暮らしを支える仕組みは身体が不自由な人にとっても必要なことだと思う。
長崎は坂の町、お墓も海が見える眺めのいい場所に多い。
この町で生まれ育ったドライバーは、「それなら私が背負って行きますか?」自然にそう声をかけてくれた。
その言葉に居合わせた誰もが胸の奥が熱くなるのを感じていた。
車いすは折りたたみ、先にトラベルヘルパーが持って上がり、すわりのいい場所を見つけて用意した。宮崎さん母子の思いは、こうして遂げられた。
私たちが使う福祉という言葉は、人を幸せにすること。だから福祉用具は、人を幸せにする道具でないといけない。
【篠塚恭一(しのづか・きょういち )プロフィール】
1961年、千葉市生れ。91年(株)SPI設立[代表取締役]観光を中心としたホスピタリティ人材の育成・派遣に携わる。95年に超高齢者時代のサービス人材としてトラベルヘルパーの育成をはじめ、介護旅行の「あ・える倶楽部」として全国普及に取り組む。06年、内閣府認証NPO法人日本トラベルヘルパー(外出支援専門員)協会設立[理事長]。行動に不自由のある人への外出支援ノウハウを公開し、都市高齢者と地方の健康資源を結ぶ、超高齢社会のサービス事業創造に奮闘の日々。現在は、温泉・食など地域資源の活用による認知症予防から市民後見人養成支援など福祉人材の多能工化と社会的起業家支援をおこなう。
お嫁さんと久しぶりに故郷の長崎を訪ねた宮崎マサさん。6年ぶりの里帰りは、介護タクシーと飛行機を乗り継いでの旅だった。
旅の目的はお墓参り。
もう無理とあきらめていた夢が叶った感激で目が輝いている。
ところが着いた菩提寺は、舗装もなく傾斜のきつい坂道、長い階段が墓前まで続いていた。車いすを頼りに暮らす宮崎さんにはとても行けそうにない。
「せっかく、ここまで来たのに・・・」
うつむく宮崎さんの姿に車内は気まずい空気が流れた。
東京から同行したトラベルヘルパーは、「あきらめたくないね」と地元ドライバーの顔を見た。
宮崎さんは、毎年この季節にお嫁さんと旅するのを楽しみにしていた。義理の母との旅は仕事で忙しい息子のプレゼントだった。「本当は(息子も)一緒がいい」でも、そんな優しい親孝行の気持ちが嬉しかった。こんな家族になれたら幸せだと周囲も感じたという。
お墓参りは、人気のお出かけメニューの上位にある。
しかし、地方にバリアフリー化された墓地は見当たらない。だから、本当は行きたいけれどと、多くの人があきらめている。
そこですすめたいのは、持ち運びの便利な軽量車いす、最近はデザインや種類も増えた。
まだ自分の足で歩けると自負する人も、長時間の歩行が心配なら携行をすすめたい。
杖もそうだが、はじめは車いすの使用を躊躇する人が少なくない。自分はまだ大丈夫といいはり、受け入れるまでに何年もかかることがある。しかし、福祉用具との上手なつきあいは、高齢な人の暮らしに幅をもたせてくれる。
車いすは、常時乗らなければいけないものでなく、元気なときは荷物を載せて押してもいいし、折り畳んで車に積んでおくこともできる。疲れた時だけ座って押してもらえばいい。携行できる移動ベンチとして、まずは気軽な感じで使いはじめてみてはどうかとすすめている。
墓地のような凹凸の多い路面なら安全が保てるし、慣れた介助者がいるなら利用した方が移動も早い。観光で行く寺社なら、砂利道で楽に使えるタイヤの太い車いすを貸し出してくれるところもある。
高齢な人にとっての墓参りは、ご先祖様との対話の場、特別な思いがある。
信仰にまつわる参拝、参詣も日本人が忘れてならない生活文化であり、こうした暮らしを支える仕組みは身体が不自由な人にとっても必要なことだと思う。
長崎は坂の町、お墓も海が見える眺めのいい場所に多い。
この町で生まれ育ったドライバーは、「それなら私が背負って行きますか?」自然にそう声をかけてくれた。
その言葉に居合わせた誰もが胸の奥が熱くなるのを感じていた。
車いすは折りたたみ、先にトラベルヘルパーが持って上がり、すわりのいい場所を見つけて用意した。宮崎さん母子の思いは、こうして遂げられた。
私たちが使う福祉という言葉は、人を幸せにすること。だから福祉用具は、人を幸せにする道具でないといけない。
【篠塚恭一(しのづか・きょういち )プロフィール】
1961年、千葉市生れ。91年(株)SPI設立[代表取締役]観光を中心としたホスピタリティ人材の育成・派遣に携わる。95年に超高齢者時代のサービス人材としてトラベルヘルパーの育成をはじめ、介護旅行の「あ・える倶楽部」として全国普及に取り組む。06年、内閣府認証NPO法人日本トラベルヘルパー(外出支援専門員)協会設立[理事長]。行動に不自由のある人への外出支援ノウハウを公開し、都市高齢者と地方の健康資源を結ぶ、超高齢社会のサービス事業創造に奮闘の日々。現在は、温泉・食など地域資源の活用による認知症予防から市民後見人養成支援など福祉人材の多能工化と社会的起業家支援をおこなう。
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