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共同通信は陸上自衛隊の秘密情報部隊が総理や防衛大臣の指揮、監督を受けずに海外で情報活動を行ってきた実態を複数の関係者の証言によって明らかにした。しかし「別班」と呼ばれる秘密機関の存在を防衛省も陸上自衛隊も認めていない。
小野寺防衛大臣は「陸幕長に確認をしたがないと言う話だった」と述べ、菅官房長官も「これまでも現在も存在していないと防衛省から聞いている」と述べた。二人とも官僚から全くなめきられている。嘘をついても平気だと軽く見られているのである。これで日本版NSCを作り、政治家が国家の安全保障問題を主導するなどと言うのはお笑い草でしかない。
「別版」については2008年に草思社から『自衛隊の情報戦ー陸幕第二部長の回想:塚本勝一』、アスベクト社から『自衛隊「影の部隊」情報戦記録:松元重夫』、また2010年には講談社から平城弘道元陸将補著『日米秘密情報機関「影の軍隊」ムサシ機関長の告白』など、いずれも「別班」に関わった人間が情報戦の必要性を国民に知らしめるために出版した著作がある。
私は情報の重要性を認識するが故に情報収集活動と情報の保全の必要性を強く感ずる人間である。日本の自衛隊が海外で情報収集活動を行っていたと聞いて何も不思議ではない。国会では安倍総理がしきりに外国との「情報共有」の重要性を強調しているが、外国の情報を鵜呑みにするほど国益を害するものはない。鵜呑みにしないためには独自に情報収集を行い「ウラ」を取る必要がある。従って情報収集は国家にとって何よりも重要な仕事なのである。
問題は情報収集活動の内容が総理大臣にも防衛大臣にも報告されない所にある。これでは「影の軍隊」が官邸も国会も知らないところで秘密工作を行い、国家に取り返しのつかない損害を与えても国民はどうする事も出来ない。国民が自らの判断を間違えて損失を被るのは自業自得で納得するしかないが、国民が税金を払って雇っている人間が勝手に税金を使って勝手な事をやり、それで損失を被るのでは税金など払っていられない。
それをさせないために国民は国会議員を選び監視をさせるのである。ところが国会議員たちが簡単に嘘に騙されてしまうようでは根本から国の仕組みを変えなければならない話になる。そこがアメリカと決定的に異なるところである。秘密情報機関が存在する事をアメリカは否定していない。CIA長官は定期的に議会に呼ばれて証言を求められる。CIAの国際情勢分析はすべて国民の目にさらされる。
軍人もしばしば議会に呼ばれて証言を求められる。軍人の場合は特に証言の前に必ず国会議員に対して予算を配分してくれた事に対する感謝の言葉を述べさせられる。軍人は議会によって仕事をさせてもらっているという確認作業を行うのである。それが民主主義国家の軍隊である。シビリアン・コントロールとはそういうものである。軍隊のご主人様は国民であり、その代表が集う議会に軍隊は全面的に服従させられるのである。
そうした仕組みの上にアメリカのNSCはある。ところが嘘をつかれても平気でいる官房長官や防衛大臣が出席するのが日本版NSCになる。「の・ようなもの」に過ぎない事が良く分かるだろう。日本版NSCでは必ず嘘がまかり通る。総理大臣が何を言っても官僚は平気で嘘をつく。嘘をつかれても総理は何もできない。あるいは嘘をつかない場合でも、それを国民の代表が集まる国会には秘密にし、国民をだまし続ける事になる。それが目に見えている。
共同通信によれば、陸上幕僚長経験者や防衛省情報本部長経験者など複数の関係者が実態を証言したと言う。このタイミングでこうした証言が出てきた背景には特定秘密保護法案に対する懸念が関係者の中に存在する事が推測される。法案が成立すれば「別版」の存在は永遠に闇に葬られる可能性があるからだ。
前述の著作を出版した「別班」の関係者はむしろ情報戦の必要性を国民に知らせるべきだと考えた。そうしないと組織の緊張感は薄れ、不必要な情報を不必要に収集する組織に堕する恐れがある。誇りを持って仕事をするにはすべてを秘密にするのではなく国民の理解を得て仕事をしたい。そうした思いが現場にはあるのではないか。
スクープと言われる報道のほとんどは官僚機構の中からのリークである。ニクソン大統領を辞任に追い込んだウォーターゲート事件も、「ディープスロート」と名付けられた人物からのリークだった。メディアが独自に取材してネタを掴む事など滅多にない。たいていは権力の内側を知り得る協力者がいて成り立つのである。
ところが特定秘密保護法案にはそうした協力者をなくしてしまう恐れがある。それが国家にとって良い事なのか。アメリカは少なくともそうは考えない。それを安倍政権は外国から情報を貰えなくなると言う理由で強行しようとしている。外国から真偽不明の情報を得る事がそんなに大事なのか。それよりも日本の情報収集能力を磨く事の方が重要ではないか。情報収集活動の前線にいる者がそう考えても不思議でない。
共同通信の報道を見て私はそうした事を感じた。これは他のメディアも大いに注目して報道すべきニュースである。しかしこの国のメディアは当局が否定をすればそれ以上の追及を遠慮するという情けないメディアである。こうして外国の言いなりになることだけを考えた「売国法案」が成立に向かっているのである。
【関連記事】
■田中良紹『国会探検』 過去記事一覧
http://ch.nicovideo.jp/search/国会探検?type=article
<田中良紹(たなか・よしつぐ)プロフィール>
1945年宮城県仙台市生まれ。1969年慶應義塾大学経済学部卒業。同 年(株)東京放送(TBS)入社。ドキュメンタリー・デイレクターとして「テレビ・ルポルタージュ」や「報道特集」を制作。また放送記者として裁判所、 警察庁、警視庁、労働省、官邸、自民党、外務省、郵政省などを担当。ロッキード事件、各種公安事件、さらに田中角栄元総理の密着取材などを行う。1990 年にアメリカの議会チャンネルC-SPANの配給権を取得して(株)シー・ネットを設立。
TBSを退社後、1998年からCS放送で国会審議を中継する「国会TV」を開局するが、2001年に電波を止められ、ブロードバンドでの放送を開始する。2007年7月、ブログを「国会探検」と改名し再スタート。主な著書に「メディア裏支配─語られざる巨大メディアの暗闘史」(2005/講談社)「裏支配─いま明かされる田中角栄の真実」(2005/講談社)など。
小野寺防衛大臣は「陸幕長に確認をしたがないと言う話だった」と述べ、菅官房長官も「これまでも現在も存在していないと防衛省から聞いている」と述べた。二人とも官僚から全くなめきられている。嘘をついても平気だと軽く見られているのである。これで日本版NSCを作り、政治家が国家の安全保障問題を主導するなどと言うのはお笑い草でしかない。
「別版」については2008年に草思社から『自衛隊の情報戦ー陸幕第二部長の回想:塚本勝一』、アスベクト社から『自衛隊「影の部隊」情報戦記録:松元重夫』、また2010年には講談社から平城弘道元陸将補著『日米秘密情報機関「影の軍隊」ムサシ機関長の告白』など、いずれも「別班」に関わった人間が情報戦の必要性を国民に知らしめるために出版した著作がある。
私は情報の重要性を認識するが故に情報収集活動と情報の保全の必要性を強く感ずる人間である。日本の自衛隊が海外で情報収集活動を行っていたと聞いて何も不思議ではない。国会では安倍総理がしきりに外国との「情報共有」の重要性を強調しているが、外国の情報を鵜呑みにするほど国益を害するものはない。鵜呑みにしないためには独自に情報収集を行い「ウラ」を取る必要がある。従って情報収集は国家にとって何よりも重要な仕事なのである。
問題は情報収集活動の内容が総理大臣にも防衛大臣にも報告されない所にある。これでは「影の軍隊」が官邸も国会も知らないところで秘密工作を行い、国家に取り返しのつかない損害を与えても国民はどうする事も出来ない。国民が自らの判断を間違えて損失を被るのは自業自得で納得するしかないが、国民が税金を払って雇っている人間が勝手に税金を使って勝手な事をやり、それで損失を被るのでは税金など払っていられない。
それをさせないために国民は国会議員を選び監視をさせるのである。ところが国会議員たちが簡単に嘘に騙されてしまうようでは根本から国の仕組みを変えなければならない話になる。そこがアメリカと決定的に異なるところである。秘密情報機関が存在する事をアメリカは否定していない。CIA長官は定期的に議会に呼ばれて証言を求められる。CIAの国際情勢分析はすべて国民の目にさらされる。
軍人もしばしば議会に呼ばれて証言を求められる。軍人の場合は特に証言の前に必ず国会議員に対して予算を配分してくれた事に対する感謝の言葉を述べさせられる。軍人は議会によって仕事をさせてもらっているという確認作業を行うのである。それが民主主義国家の軍隊である。シビリアン・コントロールとはそういうものである。軍隊のご主人様は国民であり、その代表が集う議会に軍隊は全面的に服従させられるのである。
そうした仕組みの上にアメリカのNSCはある。ところが嘘をつかれても平気でいる官房長官や防衛大臣が出席するのが日本版NSCになる。「の・ようなもの」に過ぎない事が良く分かるだろう。日本版NSCでは必ず嘘がまかり通る。総理大臣が何を言っても官僚は平気で嘘をつく。嘘をつかれても総理は何もできない。あるいは嘘をつかない場合でも、それを国民の代表が集まる国会には秘密にし、国民をだまし続ける事になる。それが目に見えている。
共同通信によれば、陸上幕僚長経験者や防衛省情報本部長経験者など複数の関係者が実態を証言したと言う。このタイミングでこうした証言が出てきた背景には特定秘密保護法案に対する懸念が関係者の中に存在する事が推測される。法案が成立すれば「別版」の存在は永遠に闇に葬られる可能性があるからだ。
前述の著作を出版した「別班」の関係者はむしろ情報戦の必要性を国民に知らせるべきだと考えた。そうしないと組織の緊張感は薄れ、不必要な情報を不必要に収集する組織に堕する恐れがある。誇りを持って仕事をするにはすべてを秘密にするのではなく国民の理解を得て仕事をしたい。そうした思いが現場にはあるのではないか。
スクープと言われる報道のほとんどは官僚機構の中からのリークである。ニクソン大統領を辞任に追い込んだウォーターゲート事件も、「ディープスロート」と名付けられた人物からのリークだった。メディアが独自に取材してネタを掴む事など滅多にない。たいていは権力の内側を知り得る協力者がいて成り立つのである。
ところが特定秘密保護法案にはそうした協力者をなくしてしまう恐れがある。それが国家にとって良い事なのか。アメリカは少なくともそうは考えない。それを安倍政権は外国から情報を貰えなくなると言う理由で強行しようとしている。外国から真偽不明の情報を得る事がそんなに大事なのか。それよりも日本の情報収集能力を磨く事の方が重要ではないか。情報収集活動の前線にいる者がそう考えても不思議でない。
共同通信の報道を見て私はそうした事を感じた。これは他のメディアも大いに注目して報道すべきニュースである。しかしこの国のメディアは当局が否定をすればそれ以上の追及を遠慮するという情けないメディアである。こうして外国の言いなりになることだけを考えた「売国法案」が成立に向かっているのである。
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■田中良紹『国会探検』 過去記事一覧
http://ch.nicovideo.jp/search/国会探検?type=article
<田中良紹(たなか・よしつぐ)プロフィール>
1945年宮城県仙台市生まれ。1969年慶應義塾大学経済学部卒業。同 年(株)東京放送(TBS)入社。ドキュメンタリー・デイレクターとして「テレビ・ルポルタージュ」や「報道特集」を制作。また放送記者として裁判所、 警察庁、警視庁、労働省、官邸、自民党、外務省、郵政省などを担当。ロッキード事件、各種公安事件、さらに田中角栄元総理の密着取材などを行う。1990 年にアメリカの議会チャンネルC-SPANの配給権を取得して(株)シー・ネットを設立。
TBSを退社後、1998年からCS放送で国会審議を中継する「国会TV」を開局するが、2001年に電波を止められ、ブロードバンドでの放送を開始する。2007年7月、ブログを「国会探検」と改名し再スタート。主な著書に「メディア裏支配─語られざる巨大メディアの暗闘史」(2005/講談社)「裏支配─いま明かされる田中角栄の真実」(2005/講談社)など。
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自衛隊は、米国というより、ジャパンハンドラーの手にゆだねられ、戦争を美化する一部政治家官僚が結託していると見るべきなのでしょう。
今回の防空識別圏に対する中国に対する対応を見ると、日本政府と米国政府の対応が180度異なっています。米国政府は、中国とことを構えるのではなくあくまでも話し合いで解決しようという方向が読み取れます。一方、わが国の政府は、中国をいたずらに批判するだけでなく、中国を成敗すべき悪者扱いし、いたずらに中国を刺激し、国民の支持を増やそうとしています。大変危険な方向に日本、国民を導こうとしています。また、特定秘密保護法の正体が明らかになってきました。石破幹事長の「デモ」を「テロ」とみなす発言を加味すると、集団的自衛権の発動によって、米国と一体になって戦争に参加しようとし、「テロ」の脅威に怯えているからこそ、本音が出たというべきでしょう。
官僚のための官僚の法律「特定秘密保護法」が成立した。安倍政権は米国の情報が漏洩しない、させないことだけにこだわりその弊害に気付くのが遅かった。気がついて情報が官僚によって隠蔽されないように、新組織をいくつも提案しているのは、狼狽の表れ、安倍総理の顔にも元気が無くなった。現在、外務、防衛の情報隠蔽が多いのに、お墨付きを与える法律を成立させたしまったからである。国民だけに隠蔽しようとした法律が、国会議員にも隠蔽されることが気がついたときは手遅れ、馬鹿な与党議員だけでなく、秘密を原則認める野党も野党であり、お粗末な国会議員の茶番劇国会でした。こんなことで日本大丈夫かと、心配なことである。