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田中良紹:グローバリズムの先兵となるナショナリスト
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田中良紹:グローバリズムの先兵となるナショナリスト

2014-04-21 08:15
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安倍総理は外国を訪問する度に「民主主義という価値を共有する国との関係強化」を主張する。それを「価値観外交」と呼び、それによって日本の利益が得られると考えている。だが元はアメリカの受け売りである。≤br /≥≤br /≥ ところがアメリカはダブル・スタンダードの国だから、そう言いながら民主主義でない国とも裏で関係を強化する。反対に民主主義国を敵視して圧力をかけ続ける事もある。安全保障上の利益と経済的利益はイコールでなく、従って様々な組み合わせをその時々に判断するのがアメリカ外交である。≤br /≥≤br /≥ それに比べると安倍総理の「価値観外交」はまるで子供のように単純である。中国の台頭を封じ込める事が日本の利益だと思い込んでいるようだ。しかしアメリカをはじめそんなことを考える欧米の国はない。どの国も中国を台頭させないようにするより、台頭する中国との関係を強化する方が有益だと考えている。≤br /≥≤br /≥ しかも問題なのは「価値観」の中心にある民主主義の理解が安倍総理と世界とではまるで異なる。アメリカの真似をして作った日本版NSCも特定秘密保護法もアメリカとは似ても似つかない。土台となる原理が違う。日本はむしろ安倍総理が封じ込めようとする中国の作った官僚制の原理と良く似ている。≤br /≥≤br /≥ アメリカは呆れているが、そこはダブル・スタンダードの国だから、それがアメリカの利益になると思えば黙って「歓迎」して見せる。すると安倍政権はその「歓迎」に喜んで自らを正当化し、アメリカはそれを見てまた腹の中で馬鹿にする。それが繰り返されている。≤br /≥≤br /≥ 黒沢明の映画「七人の侍」は、冒頭、野武士の襲撃におびえる農民が広場に集まり、対策を協議するシーンから始まる。全員参加の会議である。様々な意見が出尽くしたところで農民は全員で長老の知恵を借りに行く。これは日本社会に昔から民主主義の仕組みが存在していた事を物語っている。≤br /≥≤br /≥ 民主主義はギリシアの都市国家アテネに始まるとされるが、それは西欧の誤った考えだとオーストラリアの政治学者ジョン・キーン博士が『デモクラシーの生と死』(みすず書房)に書いている。キーン博士はデモクラシーの歴史を古代から説きおこし、アテネの直接民主制はアジアから影響されたと指摘する。≤br /≥≤br /≥ ギリシア以前にフェニキア人の都市国家に全員で集会を開き、徹底して議論する仕組みがあり、それがギリシアに伝播してデモクラシーになった。その仕組みは現在でも中東諸国で見られる。アフガン戦争の時にアフガニスタンの「ロヤ・ジルガ(大会議)」が有名になったが、多数決で決めるのではなく、全員が一致するまで話し合い、それでも決まらない場合は知恵のある長老に裁定してもらう仕組みである。≤br /≥≤br /≥ 「七人の侍」でわかるようにそれは日本社会にも存在した。それを受け継ぎ自民党は決して多数決で決める事をしなかった。新人議員にも十分に発言の機会を与え、何時間でも議論を行い、全員が一致しなければ議長に一任する。議長は誰からも不満が出ないように結論を出す。それが西欧デモクラシーに劣らない日本固有の民主主義の仕組みである。≤br /≥≤br /≥ この慣例を破って多数決を採用したのは郵政民営化を決めた時の小泉総理である。それからの日本は、読売新聞が一面に「民主主義は多数決」と書いて、アメリカも呆れる特定秘密保護法の採決を支持したように、民主主義が劣化の一途を辿る。選挙や複数政党や議会があってもそれだけで民主主義は十分でないというのが世界の常識である。それを「価値観外交」を掲げる安倍政権とその周辺はまるで分かっていない。≤br /≥≤br /≥ ところで「七人の侍」で農民たちは、腹を空かせた侍に食い物を与え、野武士から村を守ってもらう事にする。しかし侍に勝手な事をされてはかなわない。農民は侍に協力はするが何から何まで任せる訳ではない。そこに緊張関係が生まれる。農民が落武者狩りをしていた事が分かり衝突も起きる。そして最後は壮絶な戦闘で野武士を全滅させるが、侍も7人中4人が死んだ。「勝ったのは農民で侍ではない」というセリフで映画は終わる。≤br /≥≤br /≥ 1960年に日米安保条約を改訂した岸信介や椎名悦三郎にとって、米軍は「七人の侍」で農民が雇い入れた「侍」のようなものであった。しかし椎名は米軍を「侍」と言わずに「番犬」と呼んだ。ただ「番犬」では失礼と思ったのか、「お番犬さま」と丁寧語にした。そしてアメリカの要求に基いて日本国内の基地を提供する事や経済的な支援をすることを「犬には時々エサをやる必要がある」と表現した。≤br /≥≤br /≥ 安倍総理の祖父である岸信介の狙いは、不平等な安保条約を平等にする事であった。国内の基地を米軍に提供する見返りに日本の防衛義務を負わせ、さらに日米地位協定を変更して対等な関係を構築しようとした。アメリカは地位協定の変更を認めず、目的は達せられなかったが、しかし日本が飼い主で米軍を番犬とする意識は変わらなかった。≤br /≥≤br /≥ 「七人の侍」の侍と農民との間に緊張関係があったように、岸信介とアメリカとの間には緊張関係があった。農民は村を守るために侍を雇ったが、その侍が村と違う場所で戦う必要が出てきた場合、農民がそれに協力するかと言えばとんでもない。飼い主が番犬の言いなりになる必要はないのである。≤br /≥≤br /≥ 1960年の国会で、岸総理は「集団的自衛権行使が日本国憲法において出来ない事は当然である」と答弁している。その一方で「基地の提供とか経済的支援を集団的自衛権というのならそれまで禁ずるのは言い過ぎだ」とも答弁している。つまり「番犬にエサをやるのは良いが、番犬のために飼い主が危険なことまでやる必要はない」という考えである。≤br /≥≤br /≥ その国会答弁から半世紀以上が経つと、飼い主が番犬にすり寄り、番犬に振り回される時代になった。民主主義を知らずに「価値観外交」を振りかざす総理は、祖父の教えを忘れて番犬に振り回されている。日本社会に昔からある民主主義とは異なるやり方で、集団的自衛権を実現させようとしている。やはりオツムが違うようだ。≤br /≥≤br /≥【関連記事】
■田中良紹『国会探検』 過去記事一覧
http://ch.nicovideo.jp/search/田中良紹?type=article


<田中良紹(たなか・よしつぐ)プロフィール>
 1945年宮城県仙台市生まれ。1969年慶應義塾大学経済学部卒業。同 年(株)東京放送(TBS)入社。ドキュメンタリー・デイレクターとして「テレビ・ルポルタージュ」や「報道特集」を制作。また放送記者として裁判所、 警察庁、警視庁、労働省、官邸、自民党、外務省、郵政省などを担当。ロッキード事件、各種公安事件、さらに田中角栄元総理の密着取材などを行う。1990 年にアメリカの議会チャンネルC-SPANの配給権を取得して(株)シー・ネットを設立。

 TBSを退社後、1998年からCS放送で国会審議を中継する「国会TV」を開局するが、2001年に電波を止められ、ブロードバンドでの放送を開始する。2007年7月、ブログを「国会探検」と改名し再スタート。主な著書に「メディア裏支配─語られざる巨大メディアの暗闘史」(2005/講談社)「裏支配─いま明かされる田中角栄の真実」(2005/講談社)など。
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ナショナリズム、グローバリズムはとにかくとして、現実的に、ロシア、北朝鮮、中国さらに米国と同盟関係を結んでいるといっても、対日的には敵対意識の強い韓国に、日本は囲まれた状態にあります。ロシアは択捉、国後で、2016年までに150以上の軍事施設を新設し軍備を増強する計画がある。中国は、「棚上げ論」をあったかどうかは別にして、無効にしたため、三井商船の差し押さえ、強制連行されたという元労働者が日本企業相手に損害賠償を求める訴状を裁判所に提出中である。実質的に日中友好条約の形骸化が始まっているといえます。日本で、中国を敵視すれば国民の支持が得られるように、中国でも日本を敵視すればするほど、反日の活動が活発になります。日本企業の経済活動は委縮し、ドイツなどがかわりを務めることになるのでしょう。会話による外交が全くできず、イケイケドンドンの軍事の増強ゴッコになっていくのは、何とも言いようのない虚しさが募ります。

No.1 128ヶ月前
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