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生きた義足がここにある ── 著者インタビュー『切断ヴィーナス』越智貴雄
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生きた義足がここにある ── 著者インタビュー『切断ヴィーナス』越智貴雄

2014-05-31 07:00
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    『切断ヴィーナス』(越智貴雄/白順社)

    パラリンピック選手を撮り続ける写真家・越智貴雄さん(35)が、義足ユーザーをモデルにした写真集「切断ヴィーナス」(白順社)を出版した。義肢装具士の臼井二美男さん(58)が手がけた義足を身につけた11人の女性を、昨年の3月から1年かけて撮影したものだ。なぜ、義足をつけた女性を撮り続けるのか、義足を見せることで何を表現したかったのか、越智さんに話を聞いた。

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    『切断ヴィーナス』を出版した写真家の越智貴雄さん


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    原宿・竹下通りのど真ん中で、堂々と仁王立ちする大西瞳さん。撮影を始めると人だかりができ、若い女の子たちからは「かっこいいー!」という声があがった。「かわいそう」が「かっこいい」に変わった瞬間だった。


    ■知ること、見せることで“壁”を壊す

    ── 越智さんが、義足をつけた女性を撮ろうと考えたことの根底にあるのは、2000年のシドニー・パラリンピックでの経験だ。そこで発見したのは、「障がい者=かわいそうな人」という自分の中にある“壁”だった。

    大学生の時、シドニー・オリンピックの取材をするために1年間休学しました。そこで、オリンピックが終った時に「パラリンピックの取材もしないか」と声がかかって、二つ返事で引き受けたんです。ただ、受けたはいいけど、すごく不安でした。障がいがある人にカメラを向けていいのか、何か手伝ってあげきゃいけないんじゃないか……と。障がい者は「がんばっている人」「かわいそうな人」というイメージしかありませんでした。

    でも、いざパラリンピックが始まると、驚きの連続でした。車椅子バスケットボールという競技では、車椅子ごと片輪で浮きながらシュートしたり、一回転したり。義足の選手が100メートルを11秒で走ったり。その時、自分がもっていた先入観、障がい者への“壁”に気づいたんです。知らないことを知ることで変わるものがある。分かったことは、純粋に競技スポーツとして面白いということです。その後に選手の取材をすると、ごく普通の人たちなんですね。いやらしいおっちゃんもいれば、酒飲みもいて、いろんな人がいるんです(笑)

    義足は、不便はあるかもしれないけど、第三者が勝手に不幸だと決めつけたりするものではない。そのことを今回の写真集では自信をもって伝えることができたと思っています。


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    自らの義足を優しく包みこむ小林久枝さん。小林さんは義足を「愛おしい」と感じているという。今まで何をするにも中途半端だったという小林さんだが、47歳で先天性の病気で変形していた右足を切断し義足になって以来、お神輿、サーフィンなど、夢を次々と叶えている。義足をつくるには、自分の夢や目標を考えなければならない。彼女の人生は、義足との対話で生まれ変わった


    ■何がしたいのか? 突きつけられた“私”

    ── 今回の写真集でモデルの女性たちが表現しかったものは11人11通りだ。しかし、彼女たちに一つ共通していることは、義足の自分を見せることで「かわいそう」という“壁”を壊したいという想いだった。

    撮影をしていて一番大切だと思っていたのは、本人たちの個性を表現することだと考えていたんです。だから撮影する前に、何度も話をしました。はじめに皆さんに言ったのは『僕のことプリクラだと思って』ということです。プリクラは自分で色んな風に撮れるでしょ?とにかく本人の表現を出したい。やらされた感じだけは絶対に出したくないと思いました。

    自分でコンセプトをもっている方もいましたが、あまりもっていない方には潜在的な部分を引き出すために、まずは「どんな写真が好きなの?」「どんな映画が好きなの?」というところから始めました。

    撮影していて思ったのは、義足自体はメガネや洋服に近いものということ。視力が低下するとメガネをかけますよね。でも、メガネもおしゃれなものをかけると、自信を持てることもある。

    ただ、義足の場合は、世界に一本しかない自分の義足をつくらなければいけないので、何をしたいのか、何をするのかということが事前にはっきりしてないといいものがつくれない。走りたいのか、オシャレをしたいのか……。だからこそ、義足には本人たちの個性がぎゅっと詰まっているのです。

    ── 昨年4月に写真展を開いて以来、「切断ヴィーナス」は、各メディアで取り上げられ大きな反響を呼んだ。一方で、「義足ユーザーの笑顔なんてわざとらしい」という批判の声も届いたという。それでも、越智さんと義肢装具士の臼井さんの挑戦は続く。

    臼井さんがすごいのは、義足ユーザーと対話を重ね、あらゆる要望に応える義足をつくってきたということ。ハイヒールをはくためのもの、パラリンピックの舞台で世界の選手たちと戦うためのもの、本物の足のように見えるもの。どんなに難しい要望にも挑戦しつづけている。

    臼井さんを訪ねた時、『まだまだ世の中では義足というだけで隠そうとする人たちがいっぱいいる。だったら堂々と義足を見せる人たちを撮ろうじゃないか』という話になったんです。義足ユーザーに限らず、何か行動を起こそうと考えている人たちに、自信のおすそ分けになったらいいなと思います。

    【プロフィール】越智貴雄(おち・たかお)
    1979年、大阪生まれ。大阪芸術大学芸術学部写真学科卒業後、東京に拠点を移し、ドキュメンタリーフォトグラファーとして活動開始。ライフワークとして、2000年から国内外のパラリンピックスポーツの撮影取材に携わる。2004年、パラリンピックの競技スポーツとしての魅力を多くの人に伝えたいとパラリンピックスポーツ情報サイト「カンパラプレス」を立ち上げる。2012年には、陸上アスリート中西麻耶選手の競技資金集めに協力するため「セミヌードカレンダー」を1万部出版し、国内外で話題となった。2013年より、義肢装具士・臼井二美男氏の作成した義足を使用する女性たちにフォーカスした「切断ヴィーナス」の撮影に精力的に取り組んでいる
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