日本の大新聞の見出しだけ見ていると、安倍晋三首相がAPEC北京サミットを舞台に精力的な外交を繰り広げているかに映るが、実態は違う。安倍が4カ月もかけて準備を進めてきた日中首脳会談は、確かに実現はしたものの、時間はわずか25分間(通訳時間を除けば実質10分程度)、形式も双方の閣僚や高官がズラリと並んで角テーブルで向き合う正式会談ではなく、肘掛け椅子で横並びする表敬訪問のスタイルで、あくまでも「日本側が要請するから会うが、こちらは別に進んで会いたいわけではない」という中国側の態度が露骨だった。

 それも、事前に日本側が「尖閣など東シナ海で緊張状態が生じていることに双方が異なる見解を持つことを認識する」という、もってまわった言い方で、事実上、尖閣問題を「棚上げ」するという重大譲歩をし、またそれと関連して、中国が3年前から日本に求めてきた、「防空識別圏」の重複部分で偶発衝突を避けるための「海上緊急連絡メカニズム」を構築しようという提案を受け入れることを表明し、さらに安倍が(当面)靖国参拝をしないことまで約束するという大サービスまでして擦り寄って行ったのに、この程度である。あの習近平が嫌そうな顔をしてソッポを向いた記念写真がすべてを象徴している。ちなみに、中国のテレビは日中に関して、このソッポ写真を数秒間、流しただけだった。

 それに比べて、中露首脳会談は、それぞれ10人ほどの高官が向き合って、西シベリアから新疆ウイグル自治区への新しいパイプラインを建設して年間300億立米のガスをロシアが供給する案件や、両国間の貿易決済を人民元で行う計画など、17件もの合意文書を持ち込んだ実務的なもので、そのうちいくつかの重要合意には両首脳が立ち合って調印した。加えて、中露首脳は来年両国が共催する「独ファシズムと日本軍国主義に対する戦勝70周年記念式典」の重要性を口を揃えて強調した。

 オバマ米大統領の扱いとなると、もう雲泥の差で、到着してタラップを下りるところからナマ中継。夜の花火大会などには習が常に横に付き添った上、会談とディナー。翌日もまた再会談と共同会見があり、間には2人だけのお散歩もあるという、昨年の習訪米での米西海岸リゾートでの親密ぶりを再現する盛大な演出である。在北京のウォッチャーに訊くと「安倍は存在感ゼロ。中国だけでなく米露韓などからもろくに相手にされていないことが浮き彫りになった」と歎く。これが、時代錯誤の中国包囲網外交の惨憺たる結末である。▲
(日刊ゲンダイ11月13日付から転載)

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<高野孟(たかの・はじめ)プロフィール>
1944年東京生まれ。1968年早稲田大学文学部西洋哲学科卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。同時に内外政経ニュースレター『インサイダー』の創刊に参加。80年に(株)インサイダーを設立し、代表取締役兼編集長に就任。94年に故・島桂次=元NHK会長と共に(株)ウェブキャスターを設立、日本初のインターネットによる日英両文のオンライン週刊誌『東京万華鏡』を創刊。2002年に早稲田大学客員教授に就任。05年にインターネットニュースサイト《ざ・こもんず》を開設。08年に《THE JOURNAL》に改名し、論説主幹に就任。現在は千葉県鴨川市に在住しながら、半農半ジャーナリストとしてとして活動中。