11月21日午後、衆議院は解散された。表向きは、消費税増税先送りの決定について、国民に信を問うという理由だ。だが、実際のところ、これが理由ではない。

解散、総選挙に踏み切った第一の理由は、安倍首相が「いまのうちに」と考えたからだ。今年4月の消費税率8%への引き上げの影響は、想定以上に厳しかった。東京株式市場は低迷し、10月には一時、日経平均株価が1万5000円を割った。そのため日銀は10月31日に、追加の金融緩和策を決定している。

以前も書いたように、この決定は大きな賭けだったと僕は考えている。結果的に、日経平均株価は一挙に1万7000円を突破したが、あくまでもこれは金融緩和というカンフル剤による、一時的な好景気にすぎない。はっきりいえば、安倍首相はいまの好状況のうちに解散し、選挙に踏み切りたかったのだ。「いまのうち」解散というわけだ。

もうひとつの理由は、野党が準備不足であるということだろう。衆議院議員の任期は4年だ。解散しなければ次の選挙まで、まだあと2年あるはずだった。前回の総選挙で大勝した自民党は、衆議院で294議席をもつ。しかし大勝して得た議席だけに、次の総選挙で現有議席を上回ることは難しい。だから野党は、自民党が任期前に解散することはない、と考えていた。だから、まだまったく選挙準備が整っていないのだ。

どのタイミングで解散しても、次の総選挙で現有議席を上回ることは難しいとなれば、経済状況が一時的によくなっていて、野党の準備が整っていないいまのうちに解散しようと安倍首相は考えたのだ。議席は減るだろうが、それでもいまなら減る議席数は少なくて済むだろう、という思惑だ。

こう考えると、今回の解散、総選挙は、非常に消極的な意味しかない。しかも、どれも自民党、安倍政権の都合でしかない。国民にとっては何が何やらわからない。「大義なき」解散といわれるゆえんだ。では、どうやって国民を納得させるのか。僕は18日の安倍首相の会見に、すべてがかかっていると思っていた。安倍首相の言葉で、「解散はやむを得ない」と国民が納得できれば、自民党の議席は20議席減以内で抑えることができるかもしれない、と。

さて、18日の安倍首相の会見だが、非常に「気負った」会見だった。消費税増税の先延ばしを、「重い重い決断」だとして、だからこそ「信を問うべき」だと訴えたのだ。「信なくば立たず」「この道しかない」とも強調した。自民党は過半数の議席を得られなければ、自分は退陣するとも宣言したのだ。

気負ってはいたが、迫力があった、と僕は感じた。だが、国民を説得できたかというと、「ノー」だろう。翌19、20日に「朝日新聞」が行った世論調査でも、解散に「納得しない」が65%だった。安倍内閣の支持率は39%で、不支持率の40%を下回っている。同じく19、20日の共同通信の調査でも厳しい結果が出ている。解散に「理解できない」が63.1%になっていたのだ。

国民は冷静に見ている。安倍首相は迫力ある会見をした。だが、解散の「大義」を国民に納得させることは、できなかった。自民党にとって厳しい選挙になりそうだ。

国民は冷静に見ている。安倍首相は迫力ある会見をした。だが、解散の「大義」を国民に納得させることは、できなかった。自民党にとって厳しい選挙になりそうだ。


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〈田原総一朗(たはら・そういちろう )プロフィール〉
1934年、滋賀県生まれ。60年、岩波映画製作所入社、64年、東京12チャンネル(現テレビ東京)に開局とともに入社。77年にフリーに。テレビ朝日系『朝まで生テレビ!』『サンデープロジェクト』でテレビジャーナリズムの新しい地平を拓く。98年、戦後の放送ジャーナリスト1人を選ぶ城戸又一賞を受賞。現在、早稲田大学特命教授として大学院で講義をするほか、「大隈塾」塾頭も務める。『朝まで生テレビ!』(テレビ朝日系)、『激論!クロスファイア』(BS朝日)の司会をはじめ、テレビ・ラジオの出演多数。また、『日本の戦争』(小学