橋下徹大阪市長の政治生命を決するといって過言でない「大阪都構想」の住民投票を目前にして、朝日新聞・朝日放送の調査では同構想への反対が43%と賛成の33%をかなり大きく上回り、また共同通信の調査でも反対47・8%に対し賛成39・5%で、どうもあと数日でこれを引っ繰り返すのはむずかしそうな形勢である。公明党が住民投票に賛成したので、その分、賛成が増えると予想されたが、朝日調査では公明党支持層の7割以上が反対で、橋下としては完全にアテが外れた格好になった。

 橋下は、同構想を理解してもらうには「はしょってしゃべっても1時間かかる」とボヤいているそうだが、そもそも1時間も説明しないと分からないようなものは(安倍の安保法制も同じだが)政治家の提案として落第だ。しかも橋下は、「税金があがる」といった反対派の宣伝にだまされている市民が悪いかのような言い方をしているが、そうではなくて、この構想自体が彼個人のかなり衝動的な“思い付き”から始まっているために、整合性も普遍性も欠いていて、市民だけでなく部外者にとっても理解しにくいものになってしまうのである。

 府と市の二重行政を解消すると言うが、市を5つの特別区に分解しただけで、なぜそれが解消されるのか。今度は府と区の間の権限や権能についてのプロフェッショナルで精密な制度設計が必要になるはずだが、そこがよく見えてこないし、よく考えてみると、府と市の間でもそういう落ち着いた議論は可能だったのではないか。270万都市をたたき壊すというのは確かにドラマチックで、心理的ショック療法を狙ったのだろうが、それで大阪の人々が本当に幸せになるのかどうかの保証はない。

 普遍性というのは、大阪はそれでいいとしても、他の府県はどうすればいいのかということである。政令指定都市を抱える府県はみな似たような弊害を抱えている。では京都府は京都市を壊し、北海道は札幌市を壊して「都」になるのだろうか。これは広い意味での地方分権制度をどうすべきかという議論の一部であるはずで、仮に道州制が導入されて「関西州」などが誕生して、都道府県制は屋上屋を重ねることになるので廃止しようということになった場合には、都や府のほうがなくなって市が残ることになる。維新の党も「道州制」を政策に掲げているが、それとこれとはどう接合しているのか。分からないことだらけのまま、ともかくも住民投票は17日に行われる。(日刊ゲンダイ5月14日付から転載)