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Sfilnaさん のコメント

中立・・・ってのはないのかね。
No.4
131ヶ月前
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 どれだけ時間が過ぎたであろうか。  その時、銃声が聴こえた。  たあん……  という音。  近くはない。  しかし、それほど遠くというわけでもない。  だが、銃声とわかる。  間違いない。  そしてまた、  たあん、  たあん、  と、合わせて三発の銃声を、龍王院弘は聴いた。  どこかで、何かあったのか。  あの獣が、どこかで誰かを襲い、銃で撃たれたのか。  こんなところで、しかも夜に銃を持って歩く人間などいるであろうか。  これは、つまり、その銃の持ち主は、偶然に銃を所持していたのではないことになる。  銃を必要とするものの存在を意識していたからこそ、銃を持ってきたのであろう。  仮に、その人間が、あの獣に襲われて銃を発射したというのなら、一発ではしとめられなかったことになる。  三発――  その三発で、あの獣がしとめられたのか。  まさか――  銃で撃つといったって、あの獣のどこをねらって撃てばよいのか。  頭は、幾つもあった。  胴だってそうだ。  心臓が幾つあるのか、数えたわけではないが、仮に、頭の数だけ、あれに心臓があったとしても、驚かない。  また、時間が過ぎてゆく。  風と、木の葉のさやぐ音を聴いている。  そして――  龍王院弘は、背で、しでの幹を押して、湿った土の上に二本の足で立った。  もう、本能と言ってもいい。  近づいてくるものがあったのだ。  何ものかが、こちらへ向かって近づいてくるのだ。  あの獣か!?  いいや、そうではない。  何故なら、その気配は、ひとつではないからだ。  ひとつ……  ふたつ……  少なくとも、三つ以上の気配が、こちらに向かって、森の中を近づいてくるのである。  獣ならば、気配はひとつだ。  敵か、味方か。  敵だ。  そう思う。  何故なら、自分には中間がないからだ。  敵と味方の二種類しか、この世に人間はいない。味方が、こんな場所にいるわけはないから、自然に、近づいてくるものは敵ということになる。  だから、立った。  呼吸を繰り返す。  まだ、どれだけ、自分の中に力が残っているか。  枯れた泉に、体力が、ひとしずくずつ溜まってきている。  しかし、この肉体が、今、どれほど機能するのか。  音が、近づいてくる。  落葉を踏む音。  下生えを分ける音。  そして、森の中から、姿を現したものがあった。  月光の中に、そいつが立った。  知った人間であった。  その後ろから、もうひとり、ずんぐりした漢(おとこ)が姿を現し、そいつの横に並んだ。  そいつは、ひとつ息を吸い込み、そして言った。 「ひろし、なんで、てめえがこんなところにいやがる……」  宇名月典善であった。 画/だろめおん 初出 「一冊の本 2013年7月号」朝日新聞出版発行 ■電子書籍を配信中 ・ ニコニコ静画(書籍)/「キマイラ」 ・ Amazon ・ Kobo ・ iTunes Store ■キマイラ1~9巻(ソノラマノベルス版)も好評発売中   http://www.amazon.co.jp/dp/4022738308/
キマイラ鬼骨変
待望の新章「鬼骨変」がニコニコで連載開始!



⼰の内に「獣」を秘めた⼆⼈の⻘年を描いた、作家・夢枕獏の“⽣涯⼩説”。

1982 年に朝日ソノラマから第1巻「幻獣少年キマイラ」が刊⾏されてから 31 年、これまでに別巻を含めて 18 巻(ソノラマノベルス版〈朝日新聞出版刊〉は本編 9 巻、別巻1 巻)が発売されている。