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gomasioさん のコメント

話がどんどん進んでいくが、大丈夫か?
あまり、焦らず、じっくりやってほしい気もするが。
No.3
136ヶ月前
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6   (わたしの名は、ツオギェル)  その声はそう言った。  中国語である。  巫炎 ( ふ えん)の言葉のイントネーションから、中国語を母国語とする人間であると考えたのであろう。  ツオギェル!?  あの、ツオギェルか。  巫炎は、その名を心の中で繰り返した。 (あの狂仏 ( ニヨンパ)修行僧のツオギェルか)  巫炎もまた中国語で言った。 (それを知るあなたは?) (おれの名は、巫炎。わかるか?) (わかります。まさか、巫炎、あなたが何故ここに?)  高音域でのふたりの会話は、保冷車の運転手である池畑 辰 男 ( いけ はた たつ お)の耳には届いていない。  声の主、ツオギェルが、保冷車にかなり近づいてきているのは、巫炎にはその声でわかった。 (ツオギェル、今、久鬼 麗 一 ( く き れい いち)が、おれの息子が撃たれた) (承知しています) (細かい話は後だ。おれは、檻の中だ。ここから出してくれ、ツオギェル。保冷車と檻の鍵は、運転手が持っているはずだ) (わかっています。急ぎたいのはわたしも同じです) (頼む) (はい)  と、ツオギェルの声は答えた。  それきり、ツオギェルからの声は聴こえなくなった。  時間が過ぎた。  一分か、二分か。  三分、五分は過ぎたか。  やがて――  かちゃり、という、鍵の開けられる音が響いてきた。  続いて、ごとりという保冷車の荷台のロックのはずれる音。  きい、  きい、  音をたてて、保冷車の二枚の扉が、後方に開かれた。  これまで、闇の中にいた巫炎にとっては、明るい――と、そう表現してもいいような月光が、開いた扉から中に入り込んできた。  保冷車の中に、ツオギェルが入ってきた。 (ツオギェルか!?) (はい)  ツオギェルは、うなずいて近づいてきた。 (今、その檻を開きます)  ツオギェルは、手にもった鍵を、檻の錠 ( じょう)の鍵穴に差し込んだ。 (運転手は?)  巫炎が問う。 (今、脳震 盪 ( のう しん とう)を起こして、眠っています。死んではいません。しばらくすれば、息を吹き返すでしょう)  カチャッ、  という音がした。  錠が解かれ、檻の扉が開かれた。 「ありがたい」  巫炎は、声を通常の音域にもどして言った。  巫炎は、立ちあがり、檻の扉から外へ出た。 「九鬼麗一が撃たれ、むこうの森へ落ちました。助けにゆかねばなりません」 「おれもゆこう」 「では、急ぎましょう。話はその道々に――」 「わかった」  ツオギェルと巫炎は、保冷車の荷台から、月光の中へ出ていた。 初出 「一冊の本 2013年9月号」朝日新聞出版発行 ■夢枕獏トークショウを生放送(9月4日) http://live.nicovideo.jp/watch/lv150788173 ■電子書籍を配信中 ・ ニコニコ静画(書籍)/「キマイラ」 ・ Amazon ・ Kobo ・ iTunes Store ■キマイラ1~9巻(ソノラマノベルス版)も好評発売中   http://www.amazon.co.jp/dp/4022738308/
キマイラ鬼骨変
待望の新章「鬼骨変」がニコニコで連載開始!



⼰の内に「獣」を秘めた⼆⼈の⻘年を描いた、作家・夢枕獏の“⽣涯⼩説”。

1982 年に朝日ソノラマから第1巻「幻獣少年キマイラ」が刊⾏されてから 31 年、これまでに別巻を含めて 18 巻(ソノラマノベルス版〈朝日新聞出版刊〉は本編 9 巻、別巻1 巻)が発売されている。