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kelvarさん のコメント

寸指破?
いや、キマイラ相手じゃ鬼勁くらいじゃないと効かない気がする
No.1
135ヶ月前
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 それに、久鬼(くき)が反応した。  いや、反応したのは、久鬼ではなく、久鬼の内部にいる獣であったのかもしれない。  跳んだ。  久鬼の身体が、宙へ跳んだのだ。  幾つもある脚の筋力が使用されたのか、異形の翼が利用されたのか、その両方であったのか。  翼はただ一度、  ばさり、  と、打ち振られた。  そして、久鬼は、走り去ろうとする鹿の背に、後ろから飛び乗っていたのである。  幾つもの足の鉤爪が、鹿の背の肉を、背骨ごと掴んでいた。  その時には、もう、幾つもの頭部が、顎が、首や、頭や、背の肉に牙を立てていたのである。  ぴいいいいいっ!  鹿が、悲鳴をあげた。  だが、すぐにその声は止んでいた。  喉を噛まれ、気管が締められ、塞がって、声を発することができなくなっていたのである。  ぞぶり、  ごつん、  ぬちゃ、  ごぶり、  獣の牙が、肉を噛み、骨を噛み折って、血を啜りあげるおぞましい音が響く。  びりっ、  と、音をたてて、肉と皮がちぎれる。  久鬼の顔が変貌していた。  双眸が、吊りあがっていた。  口の両端が、裂けたようになって、耳の方へ持ちあがっている。  さっきまでそこにいた久鬼が、今はいない。  久鬼が、生きた鹿を食べている。  食べるそばから、それを消化し、吸収して、また、肉が増えはじめている。  めりっ、  めりっ、  と、久鬼の額が音をたてて割れ、そこから、ねじくれ、血をからみつかせた二本の角が生えはじめた。  左の角は、どうやら牛の角らしい。  右の角は、歪(いびつ)な鹿の角だ。  その二本の角が、みりみりと成長してゆく。  行ってしまう。  もどりかけていた久鬼が、また、むこうへ行ってしまう。 「久鬼!」  九十九(つくも)は、久鬼を呼びもどそうとした。  久鬼の吊りあがった双眸が動いて、九十九を見た。  さっきとは、その眸の放つ光が別ものであった。  襲われる!?  九十九は、そう思った。  逃げようとして、逃げられる距離ではなかった。  背を向けて、数歩も行かないうちに、背後から襲われ、今の鹿と同じように食われてしまうであろう。  ならば――  九十九は、瞬時に判断していた。  久鬼が動き出す前に――  九十九は、深く呼吸した。  急いでも、あわてない。  ひとつ深く吸って、ひとつ、深く吐く。  ふたつ目を、さらに深く吸って――  ここで、久鬼が、首を傾けた。  ぎいい……  久鬼が哭(な)いた。  九十九は、ふた呼吸で気を全身に溜めた。  足りない。  さらに溜める。  全身以上、身体の外側まで。  肉が、身体が、倍以上に膨れあがった感じだ。  温度をあげる。  粘度をあげる。  圧力をあげる。  ひとつずつの細胞の全てが、ぱんぱんに張りつめて、ちぎれそうになる。  ぶちぶちと細胞のはじけるその音が、こめかみあたりで聴こえてきそうだった。 初出 「一冊の本 2013年10月号」朝日新聞出版発行 ■電子書籍を配信中 ・ ニコニコ静画(書籍)/「キマイラ」 ・ Amazon ・ Kobo ・ iTunes Store ■キマイラ1~9巻(ソノラマノベルス版)も好評発売中   http://www.amazon.co.jp/dp/4022738308/
キマイラ鬼骨変
待望の新章「鬼骨変」がニコニコで連載開始!



⼰の内に「獣」を秘めた⼆⼈の⻘年を描いた、作家・夢枕獏の“⽣涯⼩説”。

1982 年に朝日ソノラマから第1巻「幻獣少年キマイラ」が刊⾏されてから 31 年、これまでに別巻を含めて 18 巻(ソノラマノベルス版〈朝日新聞出版刊〉は本編 9 巻、別巻1 巻)が発売されている。