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KKKさん のコメント

>吐月が外法曼荼羅図で見た、鬼骨の下にあるチャクラですね

なるほど!返答ありがとうございます。
No.7
135ヶ月前
このコメントは以下の記事についています
 それに、久鬼(くき)が反応した。  いや、反応したのは、久鬼ではなく、久鬼の内部にいる獣であったのかもしれない。  跳んだ。  久鬼の身体が、宙へ跳んだのだ。  幾つもある脚の筋力が使用されたのか、異形の翼が利用されたのか、その両方であったのか。  翼はただ一度、  ばさり、  と、打ち振られた。  そして、久鬼は、走り去ろうとする鹿の背に、後ろから飛び乗っていたのである。  幾つもの足の鉤爪が、鹿の背の肉を、背骨ごと掴んでいた。  その時には、もう、幾つもの頭部が、顎が、首や、頭や、背の肉に牙を立てていたのである。  ぴいいいいいっ!  鹿が、悲鳴をあげた。  だが、すぐにその声は止んでいた。  喉を噛まれ、気管が締められ、塞がって、声を発することができなくなっていたのである。  ぞぶり、  ごつん、  ぬちゃ、  ごぶり、  獣の牙が、肉を噛み、骨を噛み折って、血を啜りあげるおぞましい音が響く。  びりっ、  と、音をたてて、肉と皮がちぎれる。  久鬼の顔が変貌していた。  双眸が、吊りあがっていた。  口の両端が、裂けたようになって、耳の方へ持ちあがっている。  さっきまでそこにいた久鬼が、今はいない。  久鬼が、生きた鹿を食べている。  食べるそばから、それを消化し、吸収して、また、肉が増えはじめている。  めりっ、  めりっ、  と、久鬼の額が音をたてて割れ、そこから、ねじくれ、血をからみつかせた二本の角が生えはじめた。  左の角は、どうやら牛の角らしい。  右の角は、歪(いびつ)な鹿の角だ。  その二本の角が、みりみりと成長してゆく。  行ってしまう。  もどりかけていた久鬼が、また、むこうへ行ってしまう。 「久鬼!」  九十九(つくも)は、久鬼を呼びもどそうとした。  久鬼の吊りあがった双眸が動いて、九十九を見た。  さっきとは、その眸の放つ光が別ものであった。  襲われる!?  九十九は、そう思った。  逃げようとして、逃げられる距離ではなかった。  背を向けて、数歩も行かないうちに、背後から襲われ、今の鹿と同じように食われてしまうであろう。  ならば――  九十九は、瞬時に判断していた。  久鬼が動き出す前に――  九十九は、深く呼吸した。  急いでも、あわてない。  ひとつ深く吸って、ひとつ、深く吐く。  ふたつ目を、さらに深く吸って――  ここで、久鬼が、首を傾けた。  ぎいい……  久鬼が哭(な)いた。  九十九は、ふた呼吸で気を全身に溜めた。  足りない。  さらに溜める。  全身以上、身体の外側まで。  肉が、身体が、倍以上に膨れあがった感じだ。  温度をあげる。  粘度をあげる。  圧力をあげる。  ひとつずつの細胞の全てが、ぱんぱんに張りつめて、ちぎれそうになる。  ぶちぶちと細胞のはじけるその音が、こめかみあたりで聴こえてきそうだった。 初出 「一冊の本 2013年10月号」朝日新聞出版発行 ■電子書籍を配信中 ・ ニコニコ静画(書籍)/「キマイラ」 ・ Amazon ・ Kobo ・ iTunes Store ■キマイラ1~9巻(ソノラマノベルス版)も好評発売中   http://www.amazon.co.jp/dp/4022738308/
キマイラ鬼骨変
待望の新章「鬼骨変」がニコニコで連載開始!



⼰の内に「獣」を秘めた⼆⼈の⻘年を描いた、作家・夢枕獏の“⽣涯⼩説”。

1982 年に朝日ソノラマから第1巻「幻獣少年キマイラ」が刊⾏されてから 31 年、これまでに別巻を含めて 18 巻(ソノラマノベルス版〈朝日新聞出版刊〉は本編 9 巻、別巻1 巻)が発売されている。