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kelvarさん のコメント

雲斎と大鳳は新宿で安室親子と会ってるんじゃなかったっけ?
No.15
136ヶ月前
このコメントは以下の記事についています
「九十九くん……」  吐月(とげつ)が、何ごとかを察したように、一歩、退がる。  吐月に声をかけてはいられない。  今やろうとしていることに、全神経、全細胞、それこそ髪の毛一本ずつまで、使って集中しなければならない。  肉体が、別のものに化してゆくようだ。  大地になる。  地球になる。  重力になる。 “石”をやっていてよかった。  雲斎(うんさい)に言われて、円空山で、石を割ろうとした。  巨大な石だ。  とても割れそうになかった。  かわりに、九十九は、石を見つめた。  石を見つめながら、大地と対話し、己れ自身と対話をした。  あの体験が、今、自分がやっているこのことを可能にしているのだ。  全身を、熱い、高温の気の塊(かたま)りと化すこと。  しかも、わずかな時間――ふた呼吸で。  寸指波(すんしは)を全身で打つ――その感覚だ。  両足を開く。  腰を落とす。  両手を拳に握って、腕を両脇にたたむ。  これが、どの程度、今の久鬼に効果があるのかわからない。  効果がなければ、その先にあるのは死であろう。  が、考えない。  死を考えない。  生を考えない。  ただ、今の自分にできることのみに集中する。  力で、敵うわけがない。  闘っても、暴風に巻き込まれた木の葉のように、あっという間に自分はもみくちゃにされてしまうであろう。  どういう武器も、今、身に帯びてはいないのだ。  持っているのは、ただ、自分自身だ。  ただ、自分の肉体だ。  大鳳(おおとり)の顔が浮かんだ。  織部深雪(おりべみゆき)の顔が浮かんだ。  いずれも、どれも、これも、それも、わずかな一瞬の間に脳裏に浮かんだ思考の断片だ。  動いた。  久鬼が。  あひいる!  叫んだ。  跳んだ。  なんと美しい。  眼のくらむような光景だ。  コオオオオオ……  息を吐く。  久鬼が迫って来る。  もう、眼の前だ。  いまだ。 「哈(は)ああっ!!」  溜めていた気を、放つ。  全身から。  両掌を、前に突き出す。  微細な、気の粒子――  それをひと粒も残さない。  気を当てる――これは、石などの無機物には、さしたる効果はない。  しかし、相手が、生体である場合は別だ。  生きたもの、さらに言えば、気について修行を積んだ者、気のわかるものには、効果が倍増する。  ありったけの精気が、全て出ていった。  自分の肉体が、消えた。  自分に向かって、疾(はし)ってきた久鬼が、大きく後方に飛んでいた。  地に転がった。  全身を、巨大な見えないバットのフルスイングで打たれたように、飛ばされたのだ。  両掌を突き出した格好のまま、九十九は、久鬼を見た。  むくり、  と、久鬼が、動く。  むくり、  むくり、  と、久鬼が起きあがってくる。  消えていた、自分の肉体の感覚が、九十九にもどってきた。  その途端に、九十九は、膝をついていた。  全身の肉が、細胞が、おそろしい疲労感に包まれていた。  もう、動けない。  呼吸もできない。  背が、激しく上下する。  胸を膨らませて、新しい空気を呼吸しようとしているのだが、肺が動かないのだ。  やっと、動いた。  ひゅう、  喉が鳴った。  息を吸い、  がひゅう、  息を吐いた。  せわしく呼吸をしている間に、久鬼が起きあがってきた。  その時――  九十九の前に、出てきた者がいた。  九十九の後ろにいた吐月が、九十九と久鬼の間に立ったのだ。 「九十九くん、逃げなさい……」  吐月は言った。 「吐月さん……」 「あれが、わたしを襲っている間に、きみは逃げるのだ」  静かな、落ちついた声であった。 「ここで、ふたりで死ぬことはないよ」 画/ 卜部ミチル 初出 「一冊の本 2013年10月号」朝日新聞出版発行 ■電子書籍を配信中 ・ ニコニコ静画(書籍)/「キマイラ」 ・ Amazon ・ Kobo ・ iTunes Store ■キマイラ1~9巻(ソノラマノベルス版)も好評発売中   http://www.amazon.co.jp/dp/4022738308/
キマイラ鬼骨変
待望の新章「鬼骨変」がニコニコで連載開始!



⼰の内に「獣」を秘めた⼆⼈の⻘年を描いた、作家・夢枕獏の“⽣涯⼩説”。

1982 年に朝日ソノラマから第1巻「幻獣少年キマイラ」が刊⾏されてから 31 年、これまでに別巻を含めて 18 巻(ソノラマノベルス版〈朝日新聞出版刊〉は本編 9 巻、別巻1 巻)が発売されている。