「小飼弾の論弾」で進行を務める、編集者の山路達也です。
今回は、4月17日(月)に配信した phaさんとの対談テキストを3回に分けてお届けします。

phaさんの著書は、こちら。

なお、次回のニコ生配信は、いつもと曜日が変わって5月9日(火)20:00からになります。

ユーザーインターフェイスの研究者、増井俊之氏をゲストにお招きしています。
増井氏は、iPhoneに搭載されている日本語予測変換機能や、知識共有サービスScrapboxなど、これまでにない仕組みを生み出し続けているユーザーインターフェイス研究の第一人者です。

といった内容を予定しています。お楽しみに!

■2017/04/17配信のハイライト(その1)

  • ユナイテッド航空でオーバーブッキング
  • 競争激しい航空産業の軋轢
  • 問題の本質は暴力で解決しようとしたこと
  • 果たされなかったCEOの役割
  • 北朝鮮ミサイル失敗
  • トランプ政権の対北朝鮮外交ってどうよ?
  • 千葉県ベトナム国籍女児殺害事件
  • 実名がすぐバレる時代に必要なのは誤報対策
  • 注目を集めるマストドン弾さんの見方
  • 普及の壁はフレームワークの処理の重さ
  • 技術に新しさはないが忘れかけていたものを思い出させてくれたことを評価
  • 最低賃金1500円に上げろデモ
  • phaさん登場
  • ニートなのに忙しい? 何やってるの?
  • 迫る民法改正はけっこう重要です

ユナイテッド航空でオーバーブッキング

山路:今日は、ゲスト対談ということで、元ニートのphaさんをお呼びして―――。

小飼:“元”なの?

山路:就職したそうなんですけどね。今、どんな肩書きになっているのかも、後でお伺いしましょう。8時半くらいにご登場いただくことになっていますので、しばらくお待ち下さい。

山路:まず、最近のニュースから。まずはユナイテッド航空の事件、すごかったですよね。

小飼:「ひどいけども、驚かないな」という感じですかね。

山路:簡単に説明しますと、ユナイテッド航空でオーバーブッキング、しかもそれが―――。

小飼:いや、あれはオーバーブッキングじゃないんですよ。満席状態の飛行機に従業員を乗せるために、4つ席を空けないといけなくなった。

山路:席を空けるために乗客に「別の便に移ってくれないか?」と募ったんだけども、誰も降りる人がいないから、たしか、コンピューターで4人をランダムに選び出して、乗り込みを拒否した。

小飼:本当にコンピューターでやったのか、すげえ怪しいんだけどね(笑)。

山路:結局、選ばれた4人の内、3人は降りたんだけども、1人がどうしても降りなくて、そうしたらシカゴの空港警察の方が、その人を無理矢理ひっぱって行った。

小飼:「前歯が折れてる」って言ったから、相当なもんですよね。

山路:僕は日本人的感覚で「そんなことあるんかい!?」って思ったんですけど、弾さんはどうですか?

小飼:昔っから、米国系のエアラインというのはクソでしたからね。これはユナイテッドの話じゃなくて、僕たぶん初めて飛行機に乗った、今はなきノースウェスト航空だったと思うんですけど。今はデルタ航空に吸収されちゃったけど、デルタはそれよりはかなりマシですね。そこでの、初めての会話が、僕が「Excuse me?」って言ったら「No!」て言われた。

山路:マジですか(笑)。

小飼:「Excuse me?」への返答として、「No!」というのがあり得るんだと。もう、いきなりですよ。

山路:それって、あの――。

小飼:はい。“人種差別”の経験とかはありました。
 アメリカに留学していた頃、僕が主に滞在していたのは、カリフォルニア州で、しかもバークレーというのは、その中でもリベラル中のリベラルなので、むしろ人種差別というよりも、「人種差別をしなさすぎ」というのが当時でも問題になりつつありました。
 例えば、教員が英語を話してくれない。

山路:スペイン語とかってこと?

小飼:あるいは中国語とか。要は、英語で授業を進められない教員がけっこういたんですよ。

山路:“公用語”の基準を満たしてなかったりするのは、問題じゃないんですか?

小飼:そもそも公用語というのは、ある時期まで当たり前過ぎるものだったから、わざわざ公式に“公用語”とは定めなかったし、それは米国でも日本でもそうなんですよ。実は、公用語なんてものはないんです。
 公用語を定めようという人もいました。日系人のハヤカワ上議院議員という方なんですけども。それでも、結局、今でもなお、みんな英語を話すけれども、公式には公用語としては扱われてないんです。まあ、その話は置いといて(笑)。

競争激しい航空産業の軋轢

山路:でも、あの事件って、「スマートフォンがあったから、まだマシだったかな」みたいなところもありますよね。

小飼:それはありますね。異議申し立てをするときに、一番難しいのは証拠集めなんですよね。

山路:あれ、他人の口から聞いただけだったら、とても信じなかったような事件だったと思うんですよね。結局、とりあえずギリギリまで、乗客の予約取るみたいな仕組みが悪いんですかね?

小飼:でも、それをしないと儲からないところまで来てるんですよ。「いかに座席をいっぱいにして飛ばすか?」というビジネスなので。

山路:ただ、2、3年くらい前までは、こんなにギリギリまでやらなかった気がするんですけど、最近、特にそれが目につくようになりましたね。

小飼:エアラインの数が減りましたからね。統合合併で。

山路:だけど、例えば、そういうオーバーブッキングとかがあった場合に、乗客に降りてもらうために、それこそ“協力金”みたいな形でお金を払うこともあるわけじゃないですか。

小飼:でも、そこで払われるのはお金じゃなくて“バウチャー”なんですよね。しかも、いろんな制限があるんですよ。1

山路:有効期限だったり。

小飼:みなさんは商品の返金に“Tポイント”を受け付けますか? そういう話なんですよ。
 今、すごいトンチンカンなコメントを見たんでツッコむんですけど、「日本みたいに現金が空港にたくさんあるわけではないからね」って、バカ! お前は小切手も知らんのか? こういう場合、もし現金で払い戻しをするのだとしたら、小切手を渡せば済むんです、アメリカの場合は。

山路:協力金については、それこそ報道によっては「ユナイテッドじゃない別の航空会社は1000ドルくらいまで払う権限を従業員に与えた」みたいなことを言われてますよね。

小飼:正しくは「1350ドルまでは連邦法で用意しておかなければいけない」んですよ。

山路:その協力金の支払いというのは、バウチャーとはいっても、けっこうな負担なんじゃないんですか?

小飼:でも、それを払ってでも予約をいっぱいにした方がいいんですよ。

山路:結局、統計的にというか、航空会社の利益を最大化するための方策としては。

小飼:まあ、航空会社の利益を最大化するといっても、じゃあ儲けてるかといったら、あんまり儲かってないですからね。

山路:航空会社の利益率はめっちゃ低いっていいますからね。

小飼:めっちゃ低いですけども、めっちゃクオリティーが低いことも原因なんじゃないかとは思います。
 まあ、米国のエアラインみんなひどいってわけではないんですけど。「会社というのは従業員をどう扱うべきなのか?」っていうことのお手本になっているサウスウェスト航空という会社は本当にサービスがいいです。僕も米国内で動くときは、なるべくサウスウェストにしています。ですが、あそこは国際便を持ってないんですよね。だから、日本とは、実は一番縁のないところが、アメリカで一番いいエアラインなんですよ。
 ちなみに今のアメリカ大統領もエアライン作って潰したことがあります。トランプ航空というのがありました。はい(笑)。

問題の本質は暴力で解決しようとしたこと

山路:結局、今みたいな形で利益を上げようとする限り、ここまでひどくないにしても、こういうトラブルは起こらざるをえないですかね?

小飼:今回の事件の問題は、オーバーブッキングでも従業員を後からつっこんだということでもなくて、「要請を拒否した乗客を暴力で排除した」というのが一番の問題ですから。そこにつきますよ。
 あとは、「乗客との交渉がオープンではなかった」というのも問題ですね。せっかく機内放送とか、機内スクリーンとか、あと、最近ではこのスクリーンを取り除く代わりにWi-Fiを行き渡らせるというのもありますけど、とにかくそういうものがあるんだから、オープンな場で手を挙げさせていればよかったんですよ。「降りていただければいくら払います」っていうのを機内でね。そこでちゃんとオークションをやればいい。

山路:相当、吊り上げられそうですけどね。

小飼:本来は、オークションでやるべきところを、なぜか上限が800ドルで止まっちゃったっていうのが問題でしょ?

山路:1350ドルも出されたら、私だったら、特に急ぎの用じゃなければ乗り換えたかな。
 15万円くらいになるじゃないですか。 

小飼:僕も、オーバーブッキングで降ろされたことはないんですけど、天候不順で乗り継ぎが出来なくてホテルに行かされたってことは何度もあります。それは全然珍しいことではなくて、そういったことを全部織り込んだ上での経営なので、本当に航空会社って大変だなと思います。

果たされなかったCEOの役割

山路:それにしてもユナイテッド航空のCEOはアホだなと思いますけどね。

小飼:暴力事件が発生しちゃったところで、あのコメントはないよな。あれは本当に慇懃無礼というものがいかに高くつくのかという実例で。
 コメントがとにかく慇懃だったんですよ。「座席の変更でご迷惑をおかけして、すみませんでした」と。暴力に関しては何も言っていないですよ。

山路:最悪ですな。

小飼:本来、こういう時の為にCEOみたいな人というのがいるわけなのに。

山路:責任を取るためですか?

小飼:もし「無事故無違反で、何の問題も起きませんでした」ってことならば、率直に言って、CEOみたいな仕事というのは要らんのですよ。
 そこは言っておきましょう。偉い人というのは、エライことが起こった時になんとかするためにいるわけで、逆に、エライことが何も起きないのであればどんなアホでも良いわけです。
 トランプみたいなアホでも今のところ上手く行ってるのは、世界が比較的平和だから。まあ、シリアの皆さんとかソマリアの皆さんとかには、申し訳ないけれども。