「小飼弾の論弾」で進行を務める、編集者の山路達也です。
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 今回は、2019年5月21日(火)配信その1をお届けします。

 次回は、2019年7月9日(火)20:00の配信です。

 お楽しみに!

2019/05/21配信のハイライト(その1)

  • カール・レーフラーから幻冬舎問題、嘘を検証するコスト
  • 大学無償化法案のしょぼさ、学問の平等と大学の不平等
  • 終身雇用の「努力義務」と日経の就活マナー
  • 白紙通知とHuawei問題

カール・レーフラーから幻冬舎問題、嘘を検証するコスト

山路:今日はまあ、今日もHuaweiの話とかちょっと取り上げようと思ってたんですけど、昨日でしたっけ? いきなりでかいのぶち込んで来ましたよね。Googleさんとか。

小飼:でかいのぶち込んできたというのか、でも他にも似たような事例というのはなかったか、まぁ相手がHuaweiというのがデカかったんだけれども。
 今回の特徴というのは、アメリカがHuaweiから買うなって言ってるだけではなくって、Huaweiに売るな、もあるっていうことですよね。

山路:じゃあこれのインパクトとかもうちょっと後半のほうで、ガッツリとHuaweiネタ、これってたぶん通信機器云々ということだけじゃなくて、じつは関税の問題よりももっと大きいことになるのかもしれないなという気がしてて、その辺りもちょっと弾さんと。
 まあそれよりちょっと気楽というとこれも、いろいろ語弊があるんですれども。

小飼:緩い。

山路:緩い話からいきましょうか。私がかなり大好きなネタ。カール・レーフラーの話ですね。

小飼:ああ。ずいぶん手が込んでるなあという。

山路:皆さん、カール・レーフラーさんというのはご存知でしょうか。というか知っている人は絶対に、今までいなかったと思いますが。

小飼:偽物だというのがバレたとたんに、有名になったという。
 それまでは関係者しか知らなかったけれども。そう非実在というのがわかったとたんに(笑)

山路:この事件が出た途端に、カール・レーフラーのTwitterアカウントとかも出来ましたからね。

小飼:そうそう。

山路:概略を言っておくと、そういうキリスト教関係の、まあ神学関係の研究をされてる、研究者の、東洋英和女学院大学の院長と言えばですね、いいんですかね。

小飼:そうですね。

山路:大学教授の深井智朗さんといえばいいのかな、この方が書かれた本の中でカール・レーフラーという神学者の論文を引用していたんだけども、このカール・レーフラーさんというのはいなかったという。

小飼:いなかったという。

山路:なんかそれは勘違いだったのかなと思いきや、どうも。

小飼:なんかこれで上手くいくんであれば、あれだよね。民明書房の本から(笑)

山路:『魁!!男塾』で有名な(笑)

小飼:そうそう、そういうお話だよねという。

山路:これ凄いですよね。架空の神学者っていうのを創作して、その人がこれこれこういう論文を書いたということにして、そこを引用しながら自説を展開するっていう。

小飼:凄いよね。

山路:なんでこんな七面倒臭いことするの? この人は。

小飼:でもそのお蔭でそう簡単にバレなかったという見方も出来るのかもしれないね。

山路:でもそれって、たとえば自説を展開したいんだったら、これは仮説っていうふうに断った上で、ある程度自説をもう述べりゃあいい話じゃないですかっていう。

小飼:ええとそれだとそこの部分も自説になっちゃうじゃないですか。なんのために引用するかっていったら、俺の単なる思いつきじゃないよ、っていうのを担保するためでしょう?

山路:まあそうですけども。

小飼:だからそれは自分のものであってはいけない。そうだから自説の担保というのは、だから自説であってはいけないわけね。

山路:他の人がちゃんとした権威のある者が言ってるよっていう。

小飼:そうそう。

山路:ことがあって初めて補強されるっていう。

小飼:そう、これが物理学であったら、実際のものがそういうふうに振る舞わなければいけないわけね。

山路:それはそうにしても、この人ってべつにポッと出の研究者とかじゃぜんぜんないわけじゃないですか。こういう神学関係ではけっこう知られた方で、今年頭なんかには佐藤優さんとかの対談本とかも出されていたりとか(笑)、けっこう売れっ子だと思うんですけど、そういうのって検証されるとは思わなかったのだろうか? こういうなんか凄い難しげなタイトルのついた書籍、何だっけ、ヴァイマール…、ちょっとすみません、本のタイトルがスッと出てこないんですけども、そういうものってもうちゃんと読まれないというふうに思って書いてるのかなというふうにも思っちゃったんですけど。

小飼:まあ何と言えばいいのか、だから自分の立場を強化するために偽情報を持ってくるというのは、これは文系理系を問わず、ありとあらゆるところで見られる現象ではありますよね。

山路:捏造とか、そういったものには事欠かない。

小飼:だから、それに対してどういうふうに対応するのかというので、少なくともこの東洋英和女学院というのは正しく、それはいかんことをしたわけだからクビという、非常に正しい対処をしてますよね。

山路:懲戒解雇ですもんね、最終的に。

小飼:うんうん、なんだけれども、たとえばYahoo!からパクってきても。

山路:咎められたりはしない。

小飼:咎められないどころか、それを咎めた人を咎めるみたいなこともあるわけですよね。

山路:それ、ごく最近に起こったやつですか。

小飼:そうですね。

山路:幻冬舎のほうでいろいろ揉めてるというか、炎上してましたよね。でもそういうふうなことが許されるっていうのは、エンターテインメントの、結局それってアカデミアの世界の話じゃないから。

小飼:でもエンターテインメントだというふうに見做しているのかなあ? それを買っている人たちっていうのは。

山路:アカデミックなものだと思って読んでいるかもしれないという。

小飼:あるいは、だから少なくとも、何というかアカデミックな情報をもとに、それを一般向けに書き直したものというふうに。

山路:いやあ、しかし幻冬舎の話で繋げるなら、あれって、あんなことしてありなんですか? っていう(笑)。その出版社の社長がそこで書いている作家に対して圧力をかけるなんていうことがあっていいんですか?

小飼:まあ実際に発生したわけですよね、そういう状況は。

山路:それで、でも作家が離れないという自信があるんだろうか? みたいな。売れるからやっぱり離れない、そういうことをやっても……。

小飼:いや、でも今回はだから、流石に本人もこれはヤバいっていうんで、引っ込んじゃいましたけどね。でもこれは覆水盆に返らずなんじゃなかな。けっこう影響大きいと思うよ。

山路:たとえばそれは作家が書かなくなったりとか。

小飼:うん、幻冬舎だけはやめるという人たちがだいぶ出てくると思います。

「もう幻冬舎出さないという作家そこそこいそう」(コメント)
「どうせ変名で再開や」(コメント)

山路:いやそこ変名で再開したら、この場合意味はないんじゃないですかね?

「売れる本があるから、売れない本も出せるよねでよいのに」(コメント)

山路:出版社ってなんというか一部のベストセラーがその他の売れない本のやつをカバーして、ほんでその中から何冊かに1回大ヒットが出ればいいっていうビジネスだと思うんですけどね。そこんとこで売れないからといって、それを晒してやるのは、いかがなものかと。

小飼:うん、だからそうすると、売れるやつまで逃げちゃいかねないんだよね。あるいは売れたら売れたらでいいというふうには、ならないんだよね。だから、あとで突っ込まれる例もあるわけですよ。

山路:後で突っ込まれる?

小飼:例の何だったっけ? ノストラ……ノストラダムスだったっけ?

山路:『ノストラダムスの大予言』

小飼:うん、だからそれは1999年は無事終わっちゃったわけじゃないですか。はい。だから現実に否定されちゃったわけじゃないですか。だから、本当の歴史に否定されちゃったわけじゃないですか。今それを出していた出版社ってどうなってんだ?

山路:ああ、あれってなんでしたっけ? 新書でしたよね、あの新書は、ああちょっと間違ったとこ言うとマズイから、あれなんですけど……。

「作者謝罪してX」(コメント)
「あれって本だったの?」(コメント)

山路:めちゃめちゃ日本中で売れた本ですよ。

小飼:1つ、本のベストセラーと他のベストセラーとの違いというのは。要は文芸作品のベストセラーというのと、たとえばスマートフォンですとかそういったもののベストセラーとかの1番の違いというのは、本の場合は普段、本を読まない人が買ってくれるものがベストセラーになるわけですよね。

山路:とりあえず買って家で積読しとくみたいな人もいたりもするし。

小飼:そうそう、売れないのがデフォルトなんですよ。それがたとえば食べ物とかとの違いですよね。食べ物とかのベストセラーというのは、売れてるのがデフォルトですからね。たとえばカップヌードルの元祖カップヌードルとかね。

山路:ああ、なんか電子書籍なんかもある意味、積読、電子書籍って積読する必要がないというか、欲しいものリストにいれて、読みたい時に金を払うみたいなことになってるから、あれなんかもかなり実際に読んでいるのに近いということなんでしょうね。

小飼:ある意味ベストセラーになっちゃうというのは、ロークオリティの保証みたいになっちゃってるところはあるんだよね。

山路:ああなるほどね。

小飼:もちろんベストセラーだから、これは低品質だとは言い切れないのはありますよ。たとえば『バカの壁』とかっていうのは、あれはまっとうなことを書いてあるんだけれども、でも同じ内容だったら『唯脳論』を読んだ方がいいんじゃないかというふうに思うけれども、まぁまぁそれはともかくとして。同じベストセラーでも、フィクションとかのベストセラーというのはもう本に留まらないじゃないですか。。

山路:映画化とかするっていう意味?

小飼:そうそう、コミック化され、映画化されということで。だから良くも悪くもみんな知っているものになっていきがちなんだけども、そうじゃなくってノンフィクションのベストセラーというのは、けっこう後で気がついてみたらぜんぜんそんなことはなかったよっていうのは、多いよね。
 ノンフィクションに関しては、売れたから、皆が読んでいるからというのは、何の品質保証にはならないというのは確かでしょうね。

山路:ちょっと最初のカール・レーフラーというか、このそういうほうに話を戻すと、けっこうこういうアカデミズムの世界って、捏造いろいろあるじゃないですか。それこそちょっと前なんかだと、ゴッドハンドと言われた石器のやつとかありましたよね。

小飼:はいはい。

山路:あと本当にたぶん皆さんも、まだぜんぜん覚えていると思うんですけど、STAP細胞の「STAP細胞ありまーす」というのもありましたよね。

小飼:はいはい。

山路:あと、これはわりと最近知ったんですけど、アニリール・セルカンさんというのご存知ですか? 弾さん。

小飼:あーー、あれはそもそも宇宙エレベーターといっても、これ宇宙エレベーターじゃないよねって、僕が見てもわかるような。

山路:なんというか、こういう看板使って、けっこういい加減なことを言う、そういう研究者の人とかって大きな事件になって、一般紙なんかでも取り上げたりしたわけなんですけど。これってたまたま注目され過ぎただけで、うまく話題にならない程度に、職を失わない程度に捏造してる奴って他にもいっぱいいるんじゃないかなっていう気がしてきちゃうんですけど。

小飼:そうですね、あと入り口は偽造でも、やっているうちに本当に出来るようになったというのも、ちょくちょく出るじゃないですか。偽医者。本当に治療ができてたり、偽医者というのは、ちょくちょくニュースで出てくるじゃないですか。

山路:なんか凄い患者さんたちからの評判もいい、みたいなやつですよね。

小飼:そうそう評判もいい、実際に病気も治っているという。でも医師免許を探したら、あれ? おかしいどこにもない、みたいなの。

山路:これ真面目にやってる人、ちゃんと学位取ったりとか、業績論文書いている人からするとたまった話じゃないと思うんですけど、けっこうじつは私達が思っている以上にアカデミアの世界って、こういうの横行してるんじゃねえのかと。

小飼:とても、なんと言えばいいですかね、生物的ですよね。

山路:生物的。

小飼:生物的というのは、偽情報を使って生存競争をリードするというのは。

山路:擬態というかそういう。

小飼:はい。

山路:でもこれは、それはもう言ってみたら、防ぎようがないことなんだってことですか? つまりは。ある意味生物としての生存の本能に従って、そういうアカデミズムの世界で生きていこうとする人の割合は。

小飼:そう、騙したいというのも本能であれば、騙されないぞと身構えるのもまた本能ですからね。だから、あまりに騙される機会が多くなると、疑い深くもなるでしょうし。その辺のバランスでしょうね。前にも言った通り、完全に性悪説でもうどんな奴もギチギチに検証するというのは、それだけのコストは我々は払えないんですよね。

山路:結局、同じ研究を倍、3倍の手間かけてやるっていうことになるわけですもんね。言ってしまえば。

小飼:そういうことです。そういうことです。

山路:どこかで本当に悪い奴みたいな奴を、見つかったらそれを罰するくらいの仕組みにしておかないと、なんかあらゆるとこに警察官配置してなんか、結局の街の経済活動が回らないみたいなことになっちゃうわけですもんね。

小飼:でも人物を偽造するっていうのは、これかなり高コストな偽造テクニックなので。

山路:ちょっと真似できないですよね。

小飼:いや、だから、要はなんで偽造するかっていったら、本当に作るよりも低コストで。

山路:メリットが得られる。

小飼:高リターンだからそうするんですよね。でもこれ、カール・レーフラーを作るというのは、かなり高コストですよね。だから普通に業績を築き上げたほうがコスト安くねえ? っていう(笑)

山路:うん、なんかこの人、それなりに評価されて、そういう学長とかっていうポジションまで上がっていったわけですけど、そんな、言ってしまえばアカデミズムの世界ではもうなんかそういう業績は完全にないことになっちゃうわけじゃないですか。

小飼:いや、だけれども、架空の人物や架空の組織をあたかも本当に存在するみたいに創り上げちゃう欲っていうのも、我々にはあるんでしょうね。というのも、これ悪い例ではなくて、たとえば数学の世界では、ブルバキという有名な「人物」がいます。

山路:ブルバキ?

小飼:はい。非実在です。非実在なんですけども、本物の数学者たちがある意味でっち上げた人物なんですね。ブルバキという数学者はいないんですけども、本物の数学者たちがブルバキ名義で論文を書いて。ちゃんとプロファイルも作られて、始めはブルバキという姓だけが流通してたんですけども、ちゃんとニコラというファーストネームを貰って。出身大学もこれもまた非実在の大学が作られて、でもそのブルバキ名義で書かれてた論文というのは本物の数学の論文。

山路:へえ手が込んでるなあ。なんか凄い同人文化みたいな気がしますよね。しかし、このカール・レーフラー作った人なんかも別に、小説家になってりゃよかったのになとか、『ネクロノミコン』とか書いてりゃ良かったんじゃないですかみたいな。

小飼:いやそれで売れるかどうかというのは、うん。まあアカデミアの場合は、少なくとも給料はくれるわけですからね。だからいったん職を得てしまえば。ましてや、この人の場合は、学長というからにはテニュアなわけですよね。

山路:けっこうなお金は貰ってたでしょうしね。

小飼:けっこうなお金というよりも、今回みたいな偽造がバレなければ、ずっとそこにいられるという。でもフィクションの世界に出てたらね、本当にもうクトゥルフを発明した人みたいに信仰を集めてたかもしれないですよね。しかもカール・レーフラーもそんな普通に真名(しんな)を読んじゃ駄目で、もう旧支配者とか(笑)。