アントンさん のコメント
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―― 今回は小佐野さんが選ぶ「平成のプロレス名勝負5選」をおうかがいします! ……が、その前に。豊田真奈美さんの発言で話題になっている「オリジナルの技を使っていいか否か」論争についてもぜひご意見をうかがいたいな、と。
小佐野 ああ、豊田真奈美のジャパニーズ・サイクロン・オーシャンの件ね。
―― 豊田さんはあのオリジナル技を藤本つかさ選手と日高郁人選手に継承したということですが、スターダムに参戦中のビー・プレストリーという外国人レスラーがとくに所縁のない試合でフィニッシュホールドとして使って、決まり手に載ってしまったと。それで豊田さんが「いかがなものか」ということで声を挙げたということですが、技によっては使用を控えたほうがいいという考えは昔からありますよね。
小佐野 まあ、「あの人の技だから使わない」というのは、マナーとしてあるよね。でも、結局スタン・ハンセンのウエスタンラリアットから、長州力のリキ・ラリアットやジャンボ鶴田のジャンボ・ラリアットが生まれ、そこからみんながあたりまえのようにラリアットを使うようになって定着したでしょ。使うんだったら大事に使っていけば、それでいいと思うんだよね。
―― 古い話でいえば、80年代の全日本プロレスで天龍(源一郎)さんが延髄斬りや卍固めを使っているのを見て、子供ながらに「猪木さんの必殺技なのに、大丈夫なのかな??」ってドキドキしてました(笑)。
小佐野 ましてや、全日本の人間がアントニオ猪木の必殺技を使うわけだからね。でも、天龍さんは結局「全日本のくせに猪木のマネをするヤツ」ということで存在感が出てきたわけだから。
―― フックになったわけですね。
小佐野 そういう意味では天龍さんも掟破りな人だったんだけど。いまだと、やっぱりみんなレインメーカーは使いづらいんだけど、いま大日本プロレスの『一騎当千』に来ているジミー・ハボックという外国人レスラーが、アシッド・レインメーカーという名前で、レインメーカーに似せた技を使っていたりする。まるっきりレインメーカーではないんだけど、ムーブ的にはレインメーカー。
―― 外国人の場合は、たぶんそんなに気にしてないんでしょうね。
小佐野 結局プロレスの技なんて限られているから。そこからバリエーションをつけてみんな工夫して使っているけど、モノは考えようで、たとえば誰かが使うことによってその技は継承されていくわけだから、むしろへんな名前をつけて使われるよりは、元祖の名前で使ったほうがオレはいいと思うよ。今回の件で豊田真奈美が気分を害したというのは理解できる。でも、それだけ。
―― つまり、いいとか悪いの問題じゃないと。
小佐野 誰かが使うことによって10年、20年と技が残っていく中で「これって最初は誰が使ってたの?」と。そうすると「豊田真奈美」という名前がずっと残っていくわけだから。オレはそういう解釈ですよ。
―― となると、今回議論になったことはある意味でよかったかもしれませんね。豊田真奈美のオリジナル技を日高選手と藤本選手が継承していた、ということすら知らなかったファンもいたりしますから。
小佐野 技を編み出したのはその人かもしれないけど、その先もその人のものであるということではないから。ただ、作った本人が「大切に使ってほしい」という気持ちはわかる。ラリアットを使いだした小橋健太をハンセンが呼びつけて「使ってもかまわないけど、フィニッシュの一発だけにしろよ」と伝えた真意はまさにそこだからね。
―― 軽く使うんじゃないぞ!と。
小佐野 ちょっと細かいフレーズは忘れたけど、アメリカのことわざに「その人を模倣するというのは、その人への最大のおべっかである」という言葉があるみたいなんですよ。だから、ハンセンだって長州がマネをしようが、小橋がマネをしようが、それは自分に対する尊敬だと捉えているから。
―― 90年代・新日本の若手レスラーがみんな長州さんのスタイルになっていったのと同じなのかも。
小佐野 だから、とくに技を使うことに問題はないんだよ。たとえば同じ大会のメインイベンターの必殺技を使っちゃいけない真意は、同じような試合が続いちゃうという理由もあったと思うんだよ。だって、一つの大会で同じフィニッシュが続いたら、やっぱりファンとしては物足りないもんね。
―― 昔のFMWもデスマッチ系はメインだけというかたちでしたもんね。
小佐野 豊田真奈美がそういうことを気にするのは、彼女は誰の技もパクらないからだよ。だって、彼女は女子の試合を観ない人だもん。
―― だからこそ許せない感覚があった。
小佐野 まあ一番早いのは技を伝授してもらうということだけど。たとえば、バックドロップをルー・テーズに教わったとかね。
―― 「ジャンボ鶴田のバックドロップはテーズ式だ」と言われると凄みを感じますよね。
小佐野 実際にあのテーズ式のバックドロップを食らったハーリー・レイスが激怒したからね(笑)。レイスが「もう一回やってみろ!」ってジャンボの控え室に殴り込んできたらしくて。
―― ガハハハハハハハ! たしかに鶴田さんのバックドロップは本当に危険でした。
小佐野 誰かの技をやるんだったら、完璧に自分のものにして使ってほしいということですよね。たとえば、いまみんなが使っているノーザンライト・スープレックスだって、あれは本来の馳浩のノーザンライトじゃないから。本当は両腕をフックして投げてワン・ツー・スリー。あれは両腕をロックしているところに馳のオリジナルがあるわけだけど、いま両方固めて投げる人いないもん。脇と片腕だけ固めて「ノーザンライトだ」と言っているけど、あれは違う技だから。
―― つまり、継承するのが一番ベストけど、そうじゃない場合はその選手が今後どうやってその技を使っていくのかが問われるということですね。
小佐野 だと思う。やっぱり技を独占することは誰にもできないわけだから。
―― いよいよ本題に入りたいと思いますが、平成が終わるということで、小佐野さんが選ぶ平成の名勝負ベスト5をお願いします!
小佐野 今回は「平成のプロレスを変えた5つの勝負」という視点で選びました。名勝負かどうかは見た人によるし、格闘技戦とか総合格闘技は入れず、純粋にプロレスの試合のみということで選んでいます。
―― まず1つ目はなんでしょう?
小佐野 最初の試合は、1995年10月9日東京ドームの武藤敬司vs高田延彦です。
―― おお~、新日本プロレスvsUインターの団体対抗戦!
小佐野 そうです。団体対抗戦で最大規模だったと思うし、長州力の「Uを消す」発言どおりになってしまったわけですからね。
―― たしかにUは消えましたねぇ。
小佐野 UWFというのは昭和の終わりから平成にかけて、プロレス界にいろんなものを投げかけた運動体であり、スタイルであり、思想だった。結局、武藤vs高田を境に、UWFというのはプロレスの一つのスタイルなんだという方向に落ち着いていっちゃったと思うんですよ。UWFをとりまく論争に、この武藤vs高田で決着がついた歴史的な試合だと思いますね。
―― 非常に納得です。ちなみに当時第一線で取材をされていた小佐野さんからすると、Uという運動体の扱い方は難しくなかったですか? プロレスとしてなのか、格闘技として扱うのか。
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