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ジャン斉藤が語る「RIZIN大晦日」について(ニコ生配信したものを再編集した記事です) 【1記事から購入できるバックナンバー】 ・驚愕のMMA大革命、迫る/RIZIN大晦日あれこれ■シュウ・ヒラタのMMAマシンガントーク
・最強の格闘家ジョビンを現役復帰させる会■松澤チョロの脱線プロレス
・RIZIN離脱……高田延彦という後味の悪い男
元旦早々笹原さん取材をしてきたんですけど、事前の予想どおりPPV件数はRIZIN史上最高の勢いのようです! 前回のベラトール全面対抗戦の大晦日と比べてカード編成に不満の声はあったんですが、今回はPRIDE・K-1時代までさかのぼっても、ハードコアからポップなものまで過去イチでバランスがよかったからチケットもPPVも売れたんでしょうね。やっぱり1万人規模になると、コアファン以外の客層を呼び込まないと成立しないから、引き出しの多さが問われるってことなのかなと。
前回は対抗戦を柱に据えることでハードコア路線に火を付けて、今回はいつものRIZINらしいダイバーシティ感に加えて、SNSやYouTubeを通した「ざまあみろ大晦日」という打ち出しに成功したというか。どういうことかといえば、アンチからすれば負けた選手に「ざまあみろ!」ってクソリプを飛ばしたくなるマッチメイクばかりだったんですよ。大会コピーは「泣いて、笑って、格闘技。」ですけど、裏テーマは真逆。死語でいうと「メシウマ」ってやつです。「こいつが負けてくれて、本当にメシがうまい」――そのために銭を払って試合を見る。第1試合のYUSHIvs平本丈からして、どちらかに「負けてざまあみろ!」とアンチが吠えたくなる構図だったし、メインの堀口恭司vs神龍誠でさえ煽り合うことで染まっていった
コロナ禍でRIZINが盛り上がった理由のひとつには、外国人格闘家を招聘できないお国の事情から、日本人同士の潰し合いにシフトしたからなんです。結局日本人対外国人だと、よほどの常連じゃないかぎり外国人側の視点が持てないから、どうしても「日本人の勝ち負け」にしか興味がわかないところがある。ONEの日本人の試合がなかなか盛り上がらなかったのはそこが弱点でした。<まだまだ続く>
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日本人対決になれば、その選手を応援するファン同士の煽りあいになる。その象徴的な抗争が朝倉未来vs斎藤裕です。いまはそこからさらに過激化して、よくも悪くも……この「よくも悪くも」が重要ですよね。意図的に関心を誘って「あいつが負けるところを見てみたい」というメシウマ・エンターテインメントに仕立て上げていく。SNSは常に争いごとが求められるし、何かに怒りたいし、よくわからないけど、とりあえず何かに文句を言いたくなる装置です。そのほうが反響はあるから止められない。今回のRIZIN45はそんな時代性にハマったカード編成だったと見てたんですけど、その結末が意外なことに……。
「ざまあみろ大晦日」としては、たとえば矢地祐介選手の「おー❗️ただただレベルの低いMMA‼️‼️」というツイートもいい煽り。これは第1試合のYUSHIvs平本丈の感想なんですけど、矢地選手ぐらいのキャリアがある選手が、デビューして間もない選手を捕まえて「レベルが低い」と批判してしまう。唐突すぎて「川口春奈が書き込んだ説」を唱えたいほどですが、「なんでコイツら大晦日に試合ができて俺が上がれてないんだ」という嫉妬ですよね。アオシン(あだ名好きのDEEP佐伯社長夫人がつけた青木真也のあだ名だけど、誰も使っていない)が平本蓮vsYA-MANの2人に「俺とやっていることが違う」と吠えてるのは通常運転で「新年早々もやってますな!」と眼鏡を曇らせるだけなんですが、RIZINのスターだった矢地くんがこういう感情をさらけ出すのはすごく面白いです。
今回の大晦日はその「レベルの低い」MMAデビュー戦の選手から始まって、立ち技転向組の明暗、熟練したベテランたちの重さ、興行にはつきもののトラブルを跳ねかえす朝倉海vsアーチュレッタのドラマ、堀口恭司vs神龍誠の新旧世代闘争、ジャンルを牽引してきた山本美憂というレジェンドの引退……ひとりのMMAファイターがデビューから経験を重ね、時には挫折を繰り返しながらついには栄光を掴み、そしてリングを去っていくまでのダイジェストを1日で見られたかのような大晦日でした。矢地祐介の苦言は、彼にかぎらずこの舞台に立てなかった格闘家たちの悔しさを代弁していた。格闘家には不遇の時期は誰にでも訪れる。このツイートもRIZIN45という作品に収まったといえます。
SNSで煽りに煽りまくり「こいつが負けるところを見てみたい」と加速していくことはジャンルの消耗にも繋がる。SNSで煽ればいい、乱闘すればいい。それではあまりにもインスタントすぎるし、格闘技の未来を危惧すべき流れではありました。ところが――競技は憎しみを浄化する。試合となれば日々研鑽された技術の攻防で納得させるしかない。「負けてざあまみろ」とから「負けてもよくやった」と称えたくなる試合は多かった。格闘家が最も問われるのは「リング上で何を見せるか」というあたりまえのことを再確認させてくれました。格闘技という単語は最後は“技”で締めているわけで、技がないものは歯止めが効かずに刺激だけも求めて止まらなくなる。たとえばスダリオ剛vs安保瑠輝也の抗争が新たな局面を迎えてますが、ブレキングダウンの有名な人がこの争いを否定している理由がホントに面白くて。「素手じゃなくてブレキングダウンルールでやればいいのに」ってツッコミどころはそこじゃないですよ! もう麻痺している。
だからといって煽りを否定するわけではなく、いまの格闘技界はフジテレビが“逃走中”で地上波がなきクローズドな世界。踏み込んだプロモーションも必要です。大晦日のYahoo!ニュースのアカウントがポストしたRIZINの話題は「メイウェザーvsパッキャオの再戦」「山本美憂引退」「カズ・ジュニア、皇治に流血KO負け」「朝倉海、体重超過の相手にKO勝ち」「堀口恭司のプロポーズ」の5つです。純粋な競技の話題だけでは取り上げられない世間の厄介さ。それでも、1日で5つもピックアップされるのは恐るべしRIZINですよ。こんなスポーツは他にはありえないし、もし地上波があったらけっこう視聴率を取っていたんじゃないかと想像したら、オギちゃんvsジョン・ドッドソンをダイジェスト扱いされてブチ切れる格闘技ファンの姿が目に浮かびました……。
RIZIN全試合終了後、NHKの紅白歌合戦に画面を切り替えると、YOASOBIの『アイドル』が事実上のメインイベントでした。最も大衆的な番組だった紅白の主役がサブカルというねじれ現象。そういえば今回の紅白も格闘技もひじょうにメタ的ではあったんです。
『アイドル』の演出には賛否が分かれましたが、あんな歌詞なのに現役アイドルたちに踊らせるのは怖いとか、それに熱狂する国民は恐ろしい……という指摘は短絡すぎますよね。だってアイドル文化はそんなメタ的な構造を前提として見ているところは間違いなくて。さすがにあの歌詞の意味をわからないまま熱狂はしてないですよ。「アイドルを演じてくれている」ことの皮肉と覚悟のエンターテイメントとして受け止めている。 「そんな私の嘘がいつか本当になること(信じてる)」(『アイドル』より)
そこは格闘家にも当てはまりますよね。たとえばトラッシュトークだってウソかホントかわからない。堀口恭司のアイポーク発言はどこまで本気なのか。平本連の渋谷会見の朝倉未来へのメッセージは、対立構造の種明かし的なところはあるんですが、まったくのウソの煽りではない。彼らも「演じる/演じない」のボーダーラインにいるわけですし、YA-MANはそこに立ってしまったがゆえの苦しさをあらわにした。タガが外れたいまの格闘技界で格闘家という偶像を貫くプレッシャーは想像を絶するということでしょう。キャラクターを演じていくうちに、マクレガーのようにキャラに取り憑かれてしまうことも起こりえる。頭の中では「演じている」と理解しながらも、いずれ本気に憎んでしまうファンも現れて、信者はアンチに豹変する。そう、『アイドル』が主題歌の『推しの子』の序章は……。
かつて格闘技が打倒を目指した紅白歌合戦を眺めながら、格闘家が偶像を演じようとする重さ、深さに思いを馳せました。そこには人間らしさにあふれた欠点も見える。だから何か文句を言いたくなるし、フォロワーとアンチの質の異なる熱が生まれていくわけですが、人間の業に熱狂するだけでは我を見失いかねないし、逆に冷静に見つめるだけでは時代に乗り遅れる。見る側も真ん中に立つ術が求められるかもしれません。2024年のDropkickメルマガも、熱狂と冷静のあいだに立ちながら記事をお届けしていきます……そうそう、紅白の『アイドル』歌唱中、「お星様の引き立て役Bです」の歌詞のくだりで思い出したのは矢地祐介のツイートでした。矢地くんの次の試合は絶対に目が離せない!!<おしまい>
これが一番の嫉妬かな
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