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Dropkickチャンネル連載コラムでおなじみの大沢ケンジ選手が、DEEP後楽園ホール大会のDEEPバンタム級王座決定戦で大塚隆史選手に判定で敗れ、試合終了後のリング上で現役引退を発表した。毎回コラムでは選手でしか知り得ない格闘技の魅力をわかりやすく伝えてくれる大沢選手だが、その激闘から2日後、「38歳のベテランファイターが挑んだ精神と体力の勝負」を率直に振り返っていただいた。



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――
大沢選手、先日のDEEPタイトルマッチは素晴らしい内容でした。そして現役生活おつかれさまです……。
大沢 ありがとうございます。負けちゃいましたねぇ。チャンピオンになりたかったんですけどねぇ……(くやしそうに)。最後にやった引退表明マイクもまったく考えてなかったんですよ。勝ってチャンピオンになるつもりでしたからね。でもまあ即興のマイクのわりにはうまく気持ちを伝えられて弁が立つなって(笑)。
――あのマイクも素晴らしかったです。
大沢 ハイライトですよ、格闘家人生のハイライト(笑)。まあ大塚(隆史)は格闘技好きだから。最後の試合が格闘技を好きな奴でよかったですよ。
――格闘技が好きじゃない格闘家っているんですかね?(笑)。
大沢 MMAにはフラフラしてる選手ってけっこういるんですよ。たまたま勝ってるけど酒飲むのが大好きとか。ボクって格闘技純血主義だから、これは言い方が難しいんですけど、MMA以外に趣味を持ってる奴のことはあまり好きじゃないんですよ。MMAにすべてを注いでいればいいんですけど、「才能があるけど練習してませ~ん」みたい奴は認めたくない。だから負けたのが大塚でよかったですよね。
――大沢選手にとって今回は「チャンピオンになるか、引退するか」の試合でした。
大沢 ここのコラムで「日本に帰ってきてから負けたら引退する」と言ってきましたよね。ただ、試合中にその考えが浮かぶことはなかったんですけど、今回の大塚戦は「このままでは終わっちゃうな……」「なんとかしないと!!」とかいろいろと考えちゃって。そこは試合に集中しきれてなかったんですよね。
――1ラウンドのインターバルのときはどんな精神状態だったんですか。
大沢 あのときはまだ“勝ち”を考えてましたね。2ラウンドが終わったときに「ヤバイな。これは引退かもしれないな」って。なんで集中しきれなかったといえば、日本に帰ってきてからUFCを目指して闘ってきたけど、年齢的にもその道がないなとわかったとたんに練習で追い込めなくなったんですよね。練習はちゃんとやってるんですけど、心のどこかで妥協してしまってるというか。
――目標がなくなったことで追い込めなくなったんですか?
大沢 風船みたいなもんですよね、現役生活って。ずっと風船を膨らませてるんですよね。まだ膨らむなら引退はしませんよ。今回負けましたけど、まだまだ風船が膨らますことができるなら続けます。だけど、ボクの風船はしぼむ一方で。強くなるための気持ちがもう持てないんですよね。これは引退の話からそれるんですけど、スポーツ選手って歳を取るとみんな成績が落ちたりするじゃないですか。でも、練習すればスタミナもパワーもそんなに落ちないですよ。瞬発力の低下もなんだかんだ言われますけど、総合格闘技でいえば、相手との読み合いだったりするから瞬間的なスピードってそこまで関係なかったりするんです。だからボクの年齢では体の機能はそこまでは落ちないと思うし。あと、こないだ話した山田(武士)さんの話で言うと……。
――山田武士トレーナー最強説ですね(笑)。41歳という年齢で毎日、多くの格闘家のトレーニングに付き合って。
大沢 山田さんは40歳を超えてるのに落ちてない。それは毎日の練習で追い込んでるからですよ。だからよく世間の人は、できるスポーツ選手を評して「あの人は特別だから」と言いますよね。それはボクに対しても「大沢さんだからできるんじゃないですか」と。いやいや、それは五体満足であれば誰にでもできることなんですよ、ちゃんと練習で追い込んでいれば。
――そこは身体能力だけの世界ではないんですね。
大沢 みんなと同じ車を乗ってるし、ボクの場合は、もしかしたらみんなよりしょうもない車に乗ってるかもしれない(笑)。歳を取っても活躍する人たちはみんな驚くくらい練習してるんですよ。努力の量が凄い。それなのに「乗ってる車が違う」みたいに言われるのはちょっと腹が立つんですよね。で、ボクは試合前から追い込むタイプじゃなくてずっと同じペースで練習するんです。UFCを目指していたときは同じ練習量でも気持ちが入ってるんですよね。言ってみればマラソンでデットヒートしてるときにいつも一歩先に出るようにしてたんです。でも、UFCの道がなくなってから気持ちのどこかで楽をするようになって。練習はやってるんですけどねぇ……。
――何かが違う、と。
大沢 こないだの試合でも、大塚がタックルが入ってきたときになるべく疲れないように対処してたんですよ。もっとスピードを出してパワーを使って逃げれば、タックルを外せるかもしれないのにそんな無理をしない。よぶんなパワーを使わないようにしちゃうんですよねぇ。逃げることが最優先だから多少エネルギーを使うのはあたりまえだし、昔は600円で済むところを1000円払って逃げていたんですよ。
――いまはその400円が惜しい(笑)。
大沢 そうそう(笑)。いまはなるべく600円で済ませたいんですよね。以前は財布にお金がいくら入ってるとか考えてなかったし、1000円で話がつくんだったら「はい1000円!これでこのタックルは示談示談!」だったんですよ。ハハハハハハ!
――タックル示談(笑)。