これは、マンハッタン計画の中で働いていた女の子達の話なんですね。
マンハッタン計画というのは、第二次大戦中のアメリカの原爆製造計画です。
実は世界で初めて核反応の発見をしたのはドイツなんです。
ドイツでウランの核分裂の実験が成功して、その後ポーランドを侵略しましたよね。
最初にポーランドを侵略して、その時にドイツはチェコスロバキアを併合した。
チェコにあるウラン鉱脈を独占したんです。
同時にウランを全面的に輸出禁止にした。
これが世界中の物理学者に大ショックを与えたんです。
ドイツでハイゼンベルク博士とかがまだ生きていた時代。
つまり世界最高の核物理学者がいて、おまけにチェコにある世界最大のウラン鉱脈のひとつを押さえて、輸出を禁止していた。
「ということは、確実に核兵器を作るつもりだ!」
そう世界中の核物理学者が、一瞬で気がついちゃったんですね。
ムッソリーニに追われた、エンリコ・フェルミという物理学者がいます。
この人自身はイタリア人なんですけど、奥さんがユダヤ人だったから、ムッソリーニ政権から逃げてアメリカに来たんです。
彼は大統領に手紙を書いた。
「アメリカもできるだけ早く原子爆弾を作らないとやばいよ!」
そういう事でスタートしたのがマンハッタン計画。
何故“マンハッタン計画”という名なのかというと、元々このプロジェクトがニューヨークのマンハッタンに本部が置かれていたから。
秘密計画、別名“マンハッタン計画” 。
墨田区計画とか、品川計画というのに似たようなものですね。
とにかく徹底的に秘密にしなきゃいけない。
それでテネシー州のオークリッジという所に、ウラン&プルトニウムを精製する為の街が作られた。
街を作ったんですよ。
1942年あたりに、何も無い所に。
いきなり人口7万5千人の街が作られて、それは当時の地図にも載っていなかった。
1950年くらいに、ようやく載ったのかな。
当時の地図には、いっさい載ってないし、そこで働いている人達は極秘で集められたんですね。
その時に女性が大量に雇われたんですよ。
事務仕事も膨大ですし、あと働ける男が第二次大戦でもう戦地に行っちゃってるんですね。
世界最初のサイクロトロンとかも、全部このテネシー州のオークリッジに作られたんです。
7万5千人の住人の内、半分くらいは女の人。
ニューヨークよりも多くの電力を消費していた。
でも、地図には全然表示されない。
タイトルの「アトミックシティ」とは、このテネシー州のオークリッジのことです。
これも前回に話した『ロケットガール』と同じように、「絶対にヒラリー・クリントンが勝つ!」と思ったから出来た本のひとつなんですね。
この本を出した人は「確実にアメリカ中に女性ブームが来る!」と思ったんですね。
「アメリカの原爆製造には、実は多くの女性が関わっていた」という本なんです。
何がおもしろいって、「男性が不在のアメリカ国内で新兵器を作る時、いかに多くの女性を雇用しなければいけないのか」という問題を描いている。
現場にいた大部分は、女の人ばっかりだった。
写真を見ると、ウェーブかかってる髪の女の人とか、ポニーテールでふわふわのスカートをはいている女の人達がいる。
チャンネル炉といわれる最も初期の原子炉とか、サイクロトロンと言われる原子加速機とかを作ってる。
『この世界の片隅に』で広島に落ちた原爆を作ったのは、アメリカの女の子達だったんです。
僕らはついついアメリカの科学者とか、アメリカの男達を考えるんだけども、実は作っていたのもアメリカの女達だった。
アメリカのごく普通の女の子達が、広島にいる女の子達を攻撃した。
すごい皮肉というか、悲しいというか、なんとも言えなくなるような気持ちだよね。
アメリカの何もないテネシー州の中に、本当に掘っ建て小屋みたいなのがひたすら並んでいて、7万5千人の人たちが閉じ込められて原子力兵器を作っていた。
彼女らは笑顔なんです。
その理由はオークリッジに連れて来られる時に、交わした契約にあるんです。
何を作ってるのか、何をやっているのか絶対に秘密にすること。
もうひとつ。
「お前が一生懸命働いてくれたら、確実にこの計画で、戦争が終わる」
「何を作っているかは一切言えないんだけども、絶対にこれで戦争が終わる。」
「だから国の為に何年間か、人里離れたところに行って働いてくれ」
そう言われたそうなんですね。
だから彼らの顔はすごい希望に満ちているし、明るい。
これも、やりきれなくなるところだよね。