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岡田斗司夫の毎日ブロマガ 2017/09/19
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今回の記事はニコ生ゼミ9/10(#195)よりハイライトでお送りします。


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「現代日本のクリエイティブの中心は『小説家になろう』だよ」


 僕が今ハマっている、“異世界転生モノ”のアニメの源流になってるのが、『小説家になろう』というサイトをはじめとする小説投稿サイトですね。

 これ、先週もちょっと話したんですけども、僕、このなろうサイトを最近よく見てるんですよ。
 もう、自分でも投稿しようかと思ってるくらい。

 ただね、僕が思いつくようなアイディアの小説は、すべて、すでに存在してるんですよ。

 たとえば、「異世界に転生したら、そこでは医療が遅れていて、自分はブラックジャックだったらどうなるだろうか?」って思って、「異世界 ブラックジャック」で検索したら、もういきなり『異世界医療は専門外です』っていう小説がヒットしました。

 「29歳の呼吸器内科医・渡瀬浩三は、救急当直中に病院ごと異世界に転移してしまう。そこはささいな怪我や軽い病気でも死に至りうる、医療が未だに未発達な世界だった。現代医療の知識と経験を駆使して、異世界に革命を起こす!?」っていうやつが。

 「あるんだ!」って思ったんですよね。

 
 「病院ごとwww」(コメント)
 
 そう、病院ごとなんですよ!(笑)

 もう、今、異世界モノって、一周まわって“なんでもアリ”なんですよ。
 「ごく普通のことを異世界でやったらメチャクチャ面白い」っていう感じになってるんです。

・・・

 もうちょっと細かく話していきますね。

 たとえば、僕が今、好きな、まだアニメになってないんですけども、『異世界居酒屋「のぶ」』っていう作品があります。

 「異世界で居酒屋を開く」という話なんですけど、これ、すごいです。

 すでに1巻から4巻まで出てるんですけど、いまだに「なぜ異世界に行ったのか?」という説明が全くないし、おそらく、これからもするつもりがないんですよ。


 だいたい、最低でも、まず神様が出てきて「間違って殺してしまった」とか、なぜ転生したのかの説明があるものなんですけど。

 これは、思い切ってそういう説明すらもなくしてしまって、異世界で純粋に“ただのグルメ漫画”をやってるだけなんですよ。

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 (パネルを出す。異世界居酒屋「のぶ」の1ページ)

 これは第1巻に出てくるナポリタンのシーンなんですけど。

 税金を取り立てる冷たいオッサンが、まかないのナポリタンを食べて感動して、「背伸びをしたすっぱさと切なさの味、ああ、美味しかったナポリタン……」と言うという。

 本当に、ただのグルメ漫画をドイツっぽい異世界で延々とやってるだけなんですけども、これがもう、今の異世界モノの傾向なんですよ。

・・・

 今までのグルメ漫画の中にも、異世界モノというか、こういうタイムスリップモノっていうのは、あったはあったんですけど。

 なんかね、もうちょっと“何か”があったんですよ。

 たとえば、僕が好きな『マリー・アントワネットの料理人』という漫画があるんですけど。

 「かつて田沼意次に仕えた磯部小次郎という料理人が、田沼の失脚によりその座を追われ、ヨーロッパへ逃げた。オーストリアへ落ち延びた磯辺は、マリー・アントワネットの料理人として雇われ、嫁いだ彼女と一緒にフランスまで行く」という話で。

 マリー・アントワネットの料理人として、政治的な問題を次々と料理で解決するというムチャクチャな話なんですね。

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 (パネルを見せる。『マリー・アントワネットの料理人』の1ページ)

 これは、スペインがメノルカ島の国境線を変える変えないという騒動にあたって、やっぱり料理で対決することになったというシーンなんですけども。

 スペイン側が「わがスペインが誇る“マオン・ネーズ”(マヨネーズの原型)という秘密のソースで戦ってみるか」と秘密兵器のマヨネーズを出したら、フランス側はそれに負けじと“タルタルソース”を作って返す。

 その美味さに感動したスペイン側は「フランスにしてやられたかあ!」とか言って、問題は解決。
 
 マリー・アントワネットは一安心。
 「私もルイ王様のお役に立てたわ」みたいな、そんな話です。


 これが、いわゆる異世界でグルメモノを描く時のかつての形だったんですよ。

 “プロの漫画家”がこういうものを描く時っていうのは、こういうふうに、「合間合間にウンチクを語る」という漫画だったんです。

 でも、もう『異世界居酒屋「のぶ」』に至っては、このマリー・アントワネットの料理人にすらあったようなウンチクみたいなものは全部 削って、「ナポリタンって美味しいよね」とか、「湯豆腐って美味しいよね」、「さんまの塩焼き、この季節だったら美味しくなったよね」と言うだけなんです。

 こういうのを見てたら「ああ、もう、本当に、一周まわって、異世界ものって何でもアリになったんだな」というふうに思いました。

・・・

 本当に「僕も“なろうサイト”に異世界モノの小説というのを書いてみようかな?」って考えたような話は、もうほとんど誰かが書いてるんですね。

 「“異世界テーマパーク”を書こうかな?」って思ったら、そんな話はすぐに見つかった。

 「じゃあ、“異世界書店”ないだろ?」と思ったら、異世界書店もちゃんとある。

 「だったら“異世界キャバクラ”は?」って思って探したら、やっぱりちゃんとあったんですよ。


 投稿サイトはすごいですよ。

 “異世界映画館”もちゃんとあるし。

 「まさか、“異世界コミケ”はないだろう」と思って探したら、pixivにちゃんと漫画があったんですよね。


 これ、どういうことかというと、“日本のクリエイティブの中心”というのが、昔は「コミケだ」とか言われてたりしたんですけど、もう間違いなく、小説家になろうサイトとか、pixivに移っているってことなんですね。

 これらのコンテンツ投稿系のサイトが日本のクリエイティブの最もベースになっているんです。


  もちろん、“最底辺”とも言えるんですけども、この底辺があまりに広くて、豊かで分厚いので、その上に積み上がっていくコンテンツっていうのは、たぶん5年後、10年後くらいには、ものすごいことになってるはず。


 「ものすごいこと」っていうのは、僕らみたいな“受け取る側”にとっては、「すごく良いものが、ほぼ無料で見れるようになる」ということなですけども。

 中途半端なプロの人……つまり、“95%のプロの人”にとっては、そうではない。

 pixivみたいな場所で毎日公開される、さっきみたいなゆるい絵で描いた漫画とか、なろうサイトに投稿される小説と戦わなければいけなくなるわけですね。


 さっきの『マリー・アントワネットの料理人』は、月刊か隔月かの雑誌に掲載されていたんですけども、プロというのは、“練り込んだ話”を、それくらいのペースで1話ずつ提供するんですけども。

 pixivにしても、なろうサイトにしても、その週、ある作品が盛り上がったら、あっという間に同じような話がワーッと出て来て、そのバリエーション作品みたいなものに埋め尽くされる。

 まるで、飢えたイナゴの群れが通った畑には何も残らないように、たとえば“ファンタジーモノ”みたいな流行りのジャンルが、あっという間に消費されつくしてしまう。

 そういうわけで、プロにとっては“本当にやりにくい時代”になるし、アマチュアにとっては“天国なのか地獄なのかわからない”んですけども。

 間違いなく言えるのは、僕ら受け取る側にとっては“すごい良い時代”になるはずなんですね。

・・・

 ただし、それは同時に「同じようなものが、ひたすらどんどん現れる」ということでもあります。

 たとえば、『異世界はスマートフォンとともに。』は……そんなに流行ってないと思うんですけども、もしこれが流行った場合、スマートフォンみたいなワンアイテムを持って異世界へ転生する作品が、ワーッと出てくることになる。

 今は“異世界チート”が流行りですけど、そういったブームが変わってしまうと、それと同じようなものばかりが偏って多く発表されるような時代になっちゃう。

 僕らはそれを「無料だから」見るようになって、有料のものは、だんだんと見なくなる。

 自分でそれを書こうと思ったら、ほんのちょっとアレンジしただけで、もうオリジナルだと言い張れるし、先生と言って貰えるんで、どんどん書く……という、すごい時代に来てるなと思います。


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