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岡田斗司夫の毎日ブロマガ「岡田斗司夫の一人マンガ夜話『空手バカ一代』の100点満点の第1話・中編」
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岡田斗司夫の毎日ブロマガ「岡田斗司夫の一人マンガ夜話『空手バカ一代』の100点満点の第1話・中編」

2017-11-29 06:00
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    岡田斗司夫の毎日ブロマガ 2017/11/29
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    今回の記事はニコ生ゼミ11/19(#205)よりハイライトでお送りします。


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     「岡田斗司夫の一人マンガ夜話『空手バカ一代』の100点満点の第1話・中編」


     (前編より続き)


     ということで、もう一度、ニューヨークの夜景を見せたあと、次のページでは、いきなり、真っ黒く塗りつぶしたコマと人物のシルエットに変わるんです。

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    (パネルを見せる)

     バーンと明るい太陽みたいなものが映って、「太陽は中天に高くギラギラと輝いていた。1954年7月21日。ここはシカゴの野外競技場コミスキー・パークである」というナレーションが入ります。


     このコミスキー・パークというのは、後に、シカゴのホワイトソックスのホーム球場になった場所なんですけども。ここでこれから何かが起こる、と。


     やっぱり、上手いのが、この見せ方。

     真夜中のニューヨークの薄暗い部屋から、急に太陽が中天高く輝く野外競技場に移る。

     他に誰も見てないような密室から、視界全体びっちりとアメリカ人の観客に埋め尽くされた場所に舞台が移るという、この場面転換の鮮やかさですね。

     こういうふうに、ポンと画面を転換します。

    ・・・

     そして、さっきの地下室での第一声として「マス・オオヤマ、あんたはスーパーマンと聞くがね」と言わせることで読者に「ああ彼はスーパーマンなんだ」と思わせたのと同じように、ここでも決めゼリフみたいなものから入ります。

     「マス・オオヤマ・クレイジー! マス・オオヤマ・クレイジー!」という、観客の人々の叫びですね。

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     もう、こんな言葉、本当に放送していいのかわからないんですけど、「お前は本当にクレイジーだぞ。人間が素手で猛牛と戦うなんて、お前は日本の病院を脱走して、アメリカへ来たのか!?」と言われています。

     ここら辺のなんだか不自然なセリフ運びというのは、連載当時はもちろん「日本の精神病院」とか「キチガイ病院」と書いてあったのを、写植を貼り換えて修正しているからですね。

     さっきは「奇跡なんて起きないんだ!」っていう決めつけに対して、主人公が自らの行動を持って反論するところを見せました。

     つまり、ここでも「マス・オオヤマ・クレイジー!」に自らの行動を持って反論するという流れですね。


     でも、この「マス・オオヤマ・クレイジー!」って大歓声、実はね、不自然なんですよ。

     だって、こんな東洋から来た1人の空手使いのことを、普通のアメリカ人が知ってるはずがないんです。
     
     だけども、みんなが「クレイジー! クレイジー!」と非難していることによって、このマス・オオヤマっていう名前を観客全員が知っているような幻想を読者に匂わせてるんですね。

    ・・・

     「闘牛士は剣を持ってさえ命を懸けるんだ! アメリカでそんなに有名になりたいか!」ということで観客は煽るんですけども。

     「むっ、来た!」ということで、いよいよ勝負が始まります。

     「出た! 牛だ! 猛牛だ!」ということで、ちゃんとセリフで何が起こっているかを説明してくれるんですね。

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     (パネルを見せる) 
     
     ここからの牛との対決シーンで流れるナレーションも、やっぱり図解の説明口調っぽいんですよ。
     
     「牛は男を見つけるや猛然と砂煙をあげて襲いかかった……と、ただの漫画なら迫力のある展開になるだろう。しかし、本物の牛はそんな行動には出ない。闘技場に入ると、一度立ち止まり、まずゆっくりと顔を巡らし、周囲を見まわす。そして、敵の位置を見定めるや、ゆっくり弧を描くように大股で駆けながら、距離をつめるのだ」みたいに。
     
     そして、「ヒャー! あれは500Kg級の大物だ! 警察は何してるんだ!?」と、さっきまで「マス・オオヤマ・クレイジー!」と囃し立ててたヤツが、急に心配してくれるんですね(笑)。

     「牛は再び立ち止まる。もっとも恐ろしいのが次の瞬間なのだ」ということで、牛がガッガッと来ます。

     もう、説明ゼリフの山なんですけども、ここでは、ただ状況を説明するだけじゃなく、「警察は何してる!?」とか、それを見つめる観客たちの感情表現こみで乗っけているから、あまり嫌な説明っぽくならないんですね。

     見ている人間のワクワクドキドキ感だけが高まるという。
     僕はこれ、なかなか良いシーンだと思っているんですけど。


     「男塾っぽい」(コメント)


     そうですね。『男塾』とか、あそこらへんの漫画の原点は、全てここにあるんですよ。

    ・・・
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     (パネルを見せる)

     ということで、牛が突進して来て、逃げる大山。

     「あの猛進をかわしたぞ! クレイジー!」と、相変わらず観客が言っている中、マス・オオヤマは「チェストー!」という叫び声とともに、変な跳ね方をします。

     ここらへんは、古典的な漫画っぽい表現なんですけど。

     牛を飛び越したと思ったら、今度は角に襲われて、「危ない、やられた!」「角をつかんだぞ!」「角だ、角だ!」「あのクレイジーは牛と力比べをするつもりか!?」と続く。

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     この後で、「牛の角を空手の手刀で折る」という見せ場があるんですね。
     そのクライマックスを見せるために、読者の注意を牛の角に集めたいんです。

     だから、まず“角を掴む”という絵を見せて、次に「角を掴んだぞ!」というセリフを言わせている。
     
     そして、角を掴んだマス・オオヤマが牛とにらみ合うシーンを入れているんですね。

     上手いでしょ?
     この見せ方。

     本当に、「この漫画は、これまでの漫画とは違うんだから!」って編集者からダメを出されて、何回も何回もリテイクしないと、こんな完成度の高い第1話って描けないんですよ。

    ・・・

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     (パネルを見せる)

     一生懸命、牛の角を掴むマス・オオヤマ。しかし、ここで転んでしまう。

     「死んだ!?」っていうセリフの後で、牛が大山の上を通り抜けて「いや、すり抜けたんだ! しかし、また牛が来る!」と言うと、ここでマス・オオヤマが空手チョップを繰り出すために手を上げます。

     この掲げられた手が、太陽と重なります。
     このシーンの最初に見せた中天高く上った太陽です。

     そして、ぬんと上がった手は、「ドリャー!」という掛け声と共に牛の頭に叩きつけられます。
     
     すごいね。第1話から怒涛の展開だよね。

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     「ドリャー!」とやると、牛の角がポーンと折れる。これをページの縦を丸々使った縦ゴマで見せているんですよ。

     さっきのシーンでも縦ゴマがあったでしょ?

     パンチ振り下ろすときも、空手チョップを振り下ろすときも縦ゴマだし、折れた角が宙を舞うのも縦ゴマで。

     読者の視点誘導が、もう本当にムチャクチャなんですよ。

     「まず、縦に読ませて、次のページめくったらまた縦ゴマ」なんて、漫画のセオリーには絶対にないんですけど。

     
     ここはもう、このシーンを描きたいからやってるんですね。

    ・・・

     マス・オオヤマの手刀によって折られ、空高く舞い上がった角を、みんなはいつの間にか目で追っている。

     そして、ドンという音とともに牛が倒れる。「ミラクルだ! 牛を! 500Kgの猛牛を素手で!」という言わなくてもいいセリフを言いながら観客たちが騒ぎ出し、一転、絶賛ムードになる。

     その絶賛のクライマックスで出てくるのがこれです。

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     (パネルを見せる)

     僕、本当にこのコマがすごいと思うんですけど、また縦ゴマなんですよ。
     「ゴッドハンド(神の手)!」というふうに、観客の一人が称えるんですね。

     このコマの手前にあるのは、「俺は無事だ」と観客に手を振ってアピールしているマス・オオヤマの掌。

     それを見て、「ゴッドハンド!」と称えたのは、東洋人と同じように、アメリカでは差別されていて、自分たちの実力でのし上るしかない黒人。

     まず、彼が真っ正直にマス・オオヤマを絶賛するんですね。

     つまり、アメリカという白人社会の中での差別構造というのをちょっと匂わせながら、まず真っ先に絶賛してくれたのが黒人であり、黒い肌の中でも唯一白い掌の部分を見せて、「ゴッドハンド!」って言っている。

     こんなコマを入れることによって、このシーンの“本当くささ”っていうのがガーッと増しているんですよ。

    ・・・

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     (パネルを見せる)

     この後、「マス・オオヤマ、君を連行する! 危険だということで禁止命令を出したのに、それを無視した!」ということで、警察に連れて行かれます。

     マス・オオヤマによる、「いや、私なりのビジョンがあったんですけども」という言い訳を挟んで、そして次のページですね。
     
     「ニューヨークギャングとの対決はアメリカで発行されている空手柔道などの東洋武術の専門雑誌『ブラックベルト』で、猛牛殺しの記事は同じく『ブラックベルト』および世界的有名な権威を持つ『LIFE』誌でそれぞれ報じられていた」と。

     梶原一騎って、本当に権威が好きですよね。
     なにかというと「権威ある~」「権威ある~」と言うんですけど(笑)。

     とにかく、「これは実話なんだ!」ということのダメ押しに、雑誌名まで出して、ちゃんと説明しているんです。


    (後編に続く)


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