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岡田斗司夫の毎日ブロマガ「岡田斗司夫の一人マンガ夜話『空手バカ一代』の100点満点の第1話・前編」
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岡田斗司夫の毎日ブロマガ「岡田斗司夫の一人マンガ夜話『空手バカ一代』の100点満点の第1話・前編」

2017-11-28 06:00
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    岡田斗司夫の毎日ブロマガ 2017/11/28
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    今回の記事はニコ生ゼミ11/19(#205)よりハイライトでお送りします。


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     「岡田斗司夫の一人マンガ夜話『空手バカ一代』の100点満点の第1話・前編」


     僕は、『空手バカ一代』の第1話について「100点満点の第1話だ」と言ったんですけど。
     では、どんな第1話なのか?

     ちょっとパネルにしてみましたので、連続して見てみましょう。

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     (パネルを見せる)

     はい、これがマガジン連載時の1ページ目なんですけど。

     まず、「事実を事実のまま完全に再現することは、いかに面白おかしい架空の物語を生み出すよりも遥かに困難である。(アーネスト・ヘミングウェイ)」という引用から始まります。

     俺、アーネスト・ヘミングウェイのこの原文を、かれこれ30年間探してるんだけども、いまだに見つからないんですよね(笑)。

     まさか、嘘をついているとは思えないので、どこかで本当にそんなことを言ってたんだろうけども。

     じゃあ、一体どこでの発言なのか?

      スペイン戦争に行った頃の文章かなとも思うんですけど、いまだに見つかっていません。


     この絵は、“つのだじろう”っていう作者が描いたんですけども、それまでのつのだじろうというのは、どちらかというと『ドラえもん』に近いような児童漫画っぽい画風だったんですね。

     そこから、もう180度変えて、こんな写実的な絵を描いています。

     「突然、藤子Fから藤子Aに変わった」くらいの変化を見せています。

    ・・・

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     (パネルを見せる)

     そして、次の見開きです。
     もう、さっそく宣言します。

     「これは事実談であり、この男は実在する。この男の一代記を読者に伝えたいという一念やみがたいので、アメリカのノーベル賞作家ヘミングウェイのいう困難に、あえて挑戦するしかない。私たちは真剣かつ冷静にこの男を見つめ、そしてその価値を読者に問いたい。(極真会館空手三段・梶原一騎)」というのがドーンと来る。

     このページ全体の絵としては、「オッサンが、なんかわからないけど、どつかれてる絵」なんですよ。

     だから、もう、この時点では、どう見ればいいのかわからないんですよ。

     「実在する」という“この男”とは、今、どつかれてるヤツなのか、どついてるヤツなのかもわからない(笑)。


     『空手バカ一代』は、少年マガジン誌上で1971年の5月に連載を開始したんですけども、当時の梶原一騎は、つい何か月か前に『巨人の星』の最終回を描き切って連載を終了したところなんですよ。

     おまけに、別のペンネームで描いていた『あしたのジョー』は、力石が死んだちょっと後くらいの頑張らなきゃいけない時期。

     にも関わらず、こんな新連載を開始した。
     それも、これまでの少年マガジンの作風と全く違う絵柄の漫画を持ってきたんですね。

     そして、いきなり「実話である」と宣言した。

     それも、「いわゆる『巨人の星』とか『あしたのジョー』っていうのは、所詮、架空のヒーローである。しかし諸君、ついに本当の事を語る時がやってきた!」というような形で、ですね。

    ・・・

     じゃあ、そこから何が始まるかというと。

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     (パネルを見せる)

     「男の太い首には左右からピタリとジャックナイフが突きつけられていた。正面のテーブルの向こうには3丁の拳銃が。1953年6月のある夜更け、ここはニューヨークの下町スパニッシュ・ハーレム街の一角、ある古びた地下室であった」

     そんなナレーションとともに、薄暗い地下室が見開きいっぱいに描かれます。

     このページ、全体を見てもらえればわかるんですけども、地下室 全体の照明として、手前にロウソク、奥に裸電球を描き込むことによって、薄暗い雰囲気を出しているんですよね。

     冒頭から3ページ連続で真っ黒に塗りつぶしたページから始まって、次のシーンでは、徐々に何かが見えてくるように、ようやく僅かな灯りだけで照らされた薄暗い地下室が描かれるんです。

     何が見えるかというと、マフィアに脅されている男の描写です。
     ここで、ようやっと「実在するこの男」、つまり、主人公が出てくるんですね。

    ・・・

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    (パネルを見せる)

     そして、この次のページでやっとキャラクターのセリフが出て来ます。

     「マス・オオヤマ、あんたはスーパーマンと聞くがね、こうなったら絶体絶命。手も足も出まいよ」と、マフィアの親分のような男が言う。

     このページの両側には、ページの破れ目の間からニューヨークの夜景みたいなものが覗いているように描き込んでいます。

     これによって、「この地下室の外には、きらびやかなニューヨークの夜景が広がっている」というのを表現しているんですね。


     さっきも言ったように、それまでのつのだじろうというのは、藤子F不二雄みたいな、わりとわかりやすい子供漫画を描く人だった。

     なので、こういったトリッキーなエフェクトをあまり使わない人だったんですね。なので、この第1話は、

     本当に考えて考えて描いているのがわかります。


     そして、マフィアからの「マス・オオヤマ」という呼びかけで、読者はやっと主人公の名前がわかります。

     もちろん、その後のセリフも同様です。

     この明らかに悪役然とした男に、「あんたはスーパーマンと聞くが、この状況から脱出できるはずはないだろう?」と言わせることで、読者に「ここから先、主人公のマス・オオヤマが、この窮地をカッコよく脱出するはずだ」と期待させるようになっています。


     「ニューヨークの暗黒街に楯突くとは、うぬぼれが過ぎるってもんだ。だいたい単身でノコノコ乗り込んでくるっていうのが思い上がりよ。生きて帰れるとでも思ったのかね? それとも、東洋のカラテには、この絶体絶命をなんとか出来る力があるとでもいうのかね?」と、わかりやすい悪者ゼリフが並んでますね。

     もうここまで来たら反撃するしかないというところに来ます。

    ・・・
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     (パネルを見せる)

     そして、次のページ。
     開始直後から、ページ見開きの構成で迫力を見せていたところから、ようやっと1ページ単位のコマ構成になります。

     マフィアのボスが怒って、「テレビドラマじゃねえんだ! 奇跡は絶対に起こらねえ!」と言います。

     これについては、庵野秀明作品を見ているみなさんはご存知の通り。誰かが「奇跡は絶対に起こらない」と言えば、その5秒後くらいに奇跡が起こるという、この業界のお約束の流れですね(笑)。


     「どてっぱらに3発の風穴があき、首の両側を刺された死体が、明日、ハドソン川に浮かぶっていうことだ! さあ、首を切ってやれ!」というふうに言われると、マス・オオヤマは「では、どうしてもトミーと女を渡してくれるとは言わぬのか?」と答えます。

     この端のコマで、裸に剥かれているのが、トミーとその女ですね。

     彼らについては、このカットにしか出てこないキャラだから気にしなくてもいいです。


     要するに、「このマス・オオヤマという男は、誰かを助けるために、単身ギャングの元に乗り込んでいった」ということがここで説明されています。


     ただ、このコマのマス・オオヤマの顔のアップでもわかるように、あんまり子供が好むようなヒーローの顔じゃないんですね。

     もともと、つのだじろうというのは、そういうのを描ける作家ではないし、それ以上に、実際の大山倍達という人は、お世辞にも美男子とは言えない顔だった。

     なので、こうやって、思い切った、漫画のヒーローっぽくないリアルな画風にしてみたということですね。

    ・・・

     ということで、ここからマス・オオヤマの反撃です。いきなり、この見開きになります。

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     (パネルを見せる)

     「うわっ!」というセリフとともに、ここで突然、何かが起こります。

     実は、この左のページの大ゴマと、次の右のページの大ゴマというのは、ほぼ同じ瞬間を、視点を変えて前後から見せているんですね。


     まあ、ここまでだったら、いわゆる普通のアクション漫画なんですけど、この『空手バカ一代』が他の漫画と違い、1つの時代を創れた理由というのが、次のページにあるんですね。

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     (パネルを見せる)

     ここで、「この瞬間に何が起きたのか?」というのを、当時の少年マガジンによく載っていた、ページ中央のみに絵があって左右両サイドは説明文章になっているという、図解記事風に解説しているんですね。


     まず、両側でナイフを突きつけていた二人のマフィアについては、「男は椅子ごと真後ろに倒れながら、両サイドの男を“狐拳”で倒した。空手でいう狐拳、すなわち手首の突起した部分を使っての一撃である。これを顔部に当てると、食らった相手は後ろに仰け反るが、腹に当てると前のめりになる」と書かれています。

     そして、なんで大山がそんなことをしたのかという理由が、「狐拳を腹に見舞われた2人が手前にうずくまることで、一瞬、テーブル正面の男の視界を遮った」と、左のページに書いてあるんですね。

     こうやって、前のページの一瞬のアクションの中で、実は何があったのかを詳細に説明しているんですね。

    ・・・

     で、このあとは、やられたマフィアが「お助けくださいー!」というわかりやすいセリフを言って、1人残って立ち上がったヤツも「チェストー!」という掛け声とともに嘘みたいな飛び蹴りを食らって、銃を落とされる。

     そして、最後に残った、テーブルの下に挟まってたヤツを、テーブルごとバキッと、肋骨を折るような感じで倒して、もうこれで戦闘終了なんですね。

     そして、「さあ、引き上げよう。服はとりあえずヤツらのもので間に合わせなさい」と。

     そして、「この間、時間にしてわずか数秒」というナレーションが入る。

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     この中央のコマに、この時に大山が使った空手の腕の動きの分解写真みたいなものを載せています。
     この辺が『空手バカ一代』の第1話のリアリティをすごく上げているところなんですね。

     まず、明らかに写真から起こしたであろう写実的なカットを何枚も冒頭で見せる。

     次に、「1953年6月、スパニッシュ・ハーレム」と時期と場所を特定することで、実際にあったエピソード感というのを出している。

     そして、ここでのマス・オオヤマの活躍は、決して架空の漫画ヒーローのそれではなく、実際の人間にもできることだと、「顎に当てればのけぞる、しかし、腹に当てればうずくまる」と詳細に説明することによって見せている。

     「スーパーヒーローの必殺技のように見える動きも、人間がやった技なんだ。訓練によってなした技なんだ」というふうに、分解写真みたいなものを見せることによって、はっきり伝えようとしているんですね。


     ということで、もう一度、ニューヨークの夜景を見せたあと、次のページでは、いきなり、真っ黒く塗りつぶしたコマと人物のシルエットに変わるんです。

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    (次号に続く)


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