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岡田斗司夫の毎日ブロマガ 2018/01/16
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今回は、ニコ生ゼミ1月7日(#212)から、ハイライトをお届けいたします。

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 「『天空の城ラピュタ』の不思議なエロス・前編」


 では、「『天空の城ラピュタ』の不思議なエロス」という話を語って行こうと思います。

 みなさん、「『ラピュタ』にエロいシーンなんか、あっただろうか?」って思ってるでしょうけど、実は、あるにはあるんです。

 このシーン、覚えてますか?

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 これはドーラ一味の飛行船である“タイガーモス号”から切り離されたパズーとシータが乗った凧が、なんとかラピュタにたどり着いて、二人で「やったー!」と言って抱き合って、ゴロゴロと芝生を転がっているシーンです。

 このシーンについて、『Cut』というオシャレ雑誌の本当に長いインタビューの中で、インタビュアーの人が、宮﨑駿に対して「私は『ラピュタ』の中で1シーンだけ、納得できない部分があります」というふうに言っている部分があるんです。

 今日は、その引用部分を持ってきました。
 これです。

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 (以下、『風の帰る場所 ナウシカから千尋までの軌跡』より引用)

 ――実は僕は『ラピュタ』に不満が一つあって。主人公二人がラピュタに着いて、「ここはラピュタだ!」って喜ぶじゃないですか。
 
 で、そのときに紐でつながれてるわけですけど、二人で転げ回って、普通ならこれはキスするだろうっていうところまでいきますよね。

 顔を見合わせて抱き合って。


 「いや、僕はそういうことはしなくても、十分あの映画はやってると思ってるからいいんです、もう(笑)」


 ――やってるって(笑)、なにをやってるんですか。


 「だって、凧に乗ってるところでね――いや、そういうことを口に出して言うの辞めなさいって言われたことがあるんですけど――アニメーターが描いてきた絵を見たらね、揺れてる中でシータがパズーに後ろからかじりついてる場面なんですけど、かじりついてないんですよ。ちゃんとね、娘の胸の膨らみをこの少年は感じてるんだって、だから毅然としているんだって。そういうことを考えないで描いてるだろうって言ったら『あっ、そうっすね』って言うから(笑)、『そう思い込んで描け』って言ったら、一生懸命描いてましたけど」


 ――そんなエロティックな映画なんですか、あれは。


 「いや、僕はそういう箇所をわざと忍び込ませたいんじゃなくて、やっぱりそういう気分を持ってなければ映画って描けないはずですから。やっぱりファッションとして描くとね、『宇宙戦艦ヤマト』のように、抱き合ってるんだけど、二人ともこっち向いてカメラ目線になって、お互いに顔を背けてんのかなって言うようなね(笑)」

 (引用 終わり)

 はい。

 というように、何かを説明するときには、必ず他所の作品の悪口を言いながらするのが宮﨑駿なんですけども(笑)。

・・・

 このシーンについて、インタビュアーの人は、「なぜ、ここで二人はキスをしないんですか?」と宮﨑駿に聞きました。

 すると宮﨑駿は、「そんなこと、いちいち描かなくても、ちゃんとこの映画の中では表現してる」というふうに答えるんです。「やってることはやってます」というふうに。


 じゃあ、それは何かというと。

 パズーとシータが、海賊ドーラの飛行船であるタイガーモス号に取り付けられているハンググライダーみたいな観測用の凧に二人で乗って、空に上がった時、突風が吹いて、グワーンと吹き飛ばされるんですよ。

 この時、怯えたシータは、パズーに強く抱きついている。それを受けて、パズーが彼女を安心させるように振り返るんですけど。

 アニメーターから上がってきた、振り返った時の絵のパズーの表情が弱かったそうなんですね。
 
 で、宮﨑駿は、さっそくそのカットを担当したアニメーターを呼んで、説教します。
 「お前、わかってるのかっ!? 」
 「仮に、お前の後ろから、大好きな女の子が怖がりながら小さいおっぱいをくっつけて来ているとして、その膨らみを背中に感じている」
 「そういう時に、お前はこんな顔をするのかっ!?」

 「違います!」

 「じゃあ、それを意識して描き直せっ!」

 そういうことで、このカットは完成したそうです(笑)。

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 これ、どういうことかというと、男というのは、女の子に頼りにされているということを“肉体的に”感じるからこそ、頼り甲斐というものを発揮できるのであり、それを描くのがアニメなんだと言っているわけです。

 つまり、宮﨑駿っていうのは、エロいんですよ。

 ただ、そのエロさというのは、僕らが知っているような“安直なエロさ”ではないんです。

・・・

 これは、宮﨑駿を語る際に最初に言っておかなきゃいけなかった事なんですけど、宮﨑駿というのは、安直なことを何よりも嫌う人なんです。

 僕、この1週間くらい延々と宮﨑駿関係の過去のインタビューを読んできた中で発見したんですけども、宮﨑駿には「そんなのは手塚治虫だ!」というのキメ台詞があるんですね。
 
 これはもう、手塚治虫を仮想敵と定めていた宮﨑駿だから出て来る台詞なんですけども。

 誰かに「そこの展開はこうしないんですか?」というふうに言われたら、すかさず「そんなのは手塚治虫が考えそうなことだから、やらないっ!」というふうに答えるんですよ。

 いや別に、手塚治虫も、そんなこと考えないんですけどね(笑)。


 たとえば僕が一番好きな話に「『風の谷のナウシカ』のラストシーンをどうするか?」という問答があるんです。

 僕らが知っているラストシーンというのは、「ナウシカが立っている場所に王蟲が走ってきて、ナウシカがドーンと跳ねられて死んじゃって、『その者、青き衣を纏いて金色の野に降り立つ~』って、復活する」というものですけど。

 宮﨑駿には、これ以外にもいくつものアイデアがあったんです。

 じゃあ、それがどんなものなのかというと、たとえば「ナウシカが跳ねられて死んでしまった後、王蟲はナウシカだけを連れて腐海に帰っていく。その後、ナウシカは王蟲の力によって生き返るかもしれない。でも、もう人間の世界には帰らない。そして、王蟲達も人間を見捨てて、森の中に帰ってしまった」というアイデアもあったそうです。

 つまり、人間達は王蟲さえ来なければ希望があると思っていたんだけど、本当の希望はナウシカだった。

 では、希望を失ってしまった残された人間たちはどうなるんだろうという、苦味のあるラストシーンですね。そんな話も考えたそうなんです。

 ところが、その話を聞いた高畑勲が「それでいいじゃないか」と言うと、宮﨑駿は、「いや、それをすると手塚治虫になります!」というふうに答えるんですね。

 いや、このラストも、わりと良いと思うんだけど。

 なぜか宮﨑駿の中では「最初に思いついたアイデアは、手塚治虫っぽいからダメ」となるみたいなんです(笑)。


 もう1つ、宮﨑駿が思いついたアイデアというのが「王蟲が成虫になる」というラストなんですね。

 つまり王蟲というのは、実は幼虫だったと。
 まあ、芋虫ですからね。

 あれは巨大な幼虫で、ナウシカとのラストシーンの後、王蟲の背中がバキバキッと割れたら、巨大な羽が生えてきて、そのまま宇宙へ飛び立ってしまう。

 人類は王蟲に滅ぼされなかったんだけども、王蟲は地球を見捨てて他所の星へ旅立ってしまった。

 地球は今、神様がいない世界も同じ。
 まあ、つまり『ゴドーを待ちながら』ですよね。

 そんな、神がいない世界としての地球が、見捨てられた土地・エデンの東として残されるという話。


 このアイディアについては、この『Cut』のインタビューの中でも語ってるんですよ。

 しかし、インタビュアーが「それ、いいじゃないですか!」と言ったら、「そんなのは宮﨑駿がやることじゃない。それは手塚治虫だから、ダメに決まってます!」っていうふうに言うんです(笑)。


 ここで重要なのは、「そんなのは手塚治虫だ!」という部分ではなくて、「宮﨑駿は、そんじょそこらのアイデアでは納得しない」というところなんですね。

 本当に、自分の中でアイデアを50も60も出して、その99%ボツにして、「これしかない!」というものを絞り込む。

 そして、その過程で「絵的にカッコいい」とか、「その方がウケる」というものを、徹底的に排除する人なんですね。

 つまり、宮﨑駿というのは、安直というのを何よりも嫌う人なんですよ。

・・・

 話を戻しますけども、安直さを嫌うからこそ、エロスというのをわかりやすいエロシーンとしては絶対に描かないんですね。

 だからといって、「エロを描かない」なんていう、くだらないこともしないんです。

 つまり、この「映画の中で、ちゃんとやることはやってるんですよ」という発言は、「それをエロいとわからないのは、もう、お前らの責任であって、俺はちゃんとやっている」ということなんですね。

 「エロを、そのまんまやるようなバカな真似は俺はしない」というのが、宮﨑駿の主張なんですよ。

 なので、かなりヒネった形でやるんです。


 今回、一番 話したかったのは何かというと、『ラピュタ』のテーマについて、よく「自然に還れ」とか「人は土を離れて生きていけない」ということが言われるんですけど、それは登場人物の台詞であって、映画のテーマではないんですよ。

 そんな“手塚治虫がやりそうなこと”を、宮﨑駿はやらないんです。

 「人間には、本当にテクノロジーというのが必要なのか?」とか、「自然に還るべきだ」とか、「人の温もりが伝わるテクノロジーだったらいいんだけど、デジタルはダメ」とか、そういうのは全部、宮﨑駿にとっては手塚治虫が考えそうなことなんです。

 「仮想敵である手塚治虫が考えそうなことだからダメ」という、それが宮﨑駿です。

 だから、「宮﨑駿というのは、何を表現するにしても、ひねる人だ」と思っててください。


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