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岡田斗司夫の毎日ブロマガ「『天空の城ラピュタ』の不思議なエロス・後編」
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岡田斗司夫の毎日ブロマガ「『天空の城ラピュタ』の不思議なエロス・後編」

2018-01-17 06:00
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    岡田斗司夫の毎日ブロマガ 2018/01/17
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    今回は、ニコ生ゼミ1月7日(#212)から、ハイライトをお届けいたします。

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     「『天空の城ラピュタ』の不思議なエロス・後編」

     
     『ラピュタ』というのは、かなりエロいことを描こうとしている作品だ、という話なんですけども。

     たとえば映画の冒頭、パズーが空から落ちてくるシータを受け取めるシーン。

     これですね。

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     かなり地味な服を着ているシータが、フワッと浮いていたところから、パズーに受け止められて重みを取り戻して、ズシッと重くなる。

     つまり、肉体化されるわけですね。

     この時のシータの胸、おっぱいというのは、わりとつるペタに近い。

     かなり小さい感じで描かれています。
     “服のシワ”と言われても分からないような感じ。

     あるように見えるけど、ないかもわからないというような感じになってるんですね。

     だからといって、じゃあ「宮﨑駿はそういうのが好きなのか?」というと、別にそうじゃないんですね。


     その後に、パズーに「もうラピュタのことは忘れて」と言って帰らせた後、シータが絶望するシーンがあります。

     ここで、シータが「我を助けよ」という、お母さんから習ったおまじないを唱えた直後、胸の飛行石がガーッと輝き出すんです。

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     この輝く時、胸の合間で飛行石が輝くわけだから、胸の中心部にハイライトがあるまではいいんですけど、胸の膨らみの両外側に影が落ちる様子を、わざわざ作画しているんですね。

     こんなことをわざわざ作画するというのは「そこを見せたいから」なんですよ。

     だけど、やっぱり上手いんです。

     どこがというと、エロいシーンとして描かないところなんですよ。

     むしろ、「エロいことを考えたこっちの方が悪い」という罪悪感を感じさせるというのが、宮﨑駿の手口なんですよね。

    ・・・

     このラピュタの光が復活するというシーンで、シータが着ているかなりダブダブな服です。
     
     これは、ワザとこういう服を着せているんですよ。

     このダブダブな服というのが、光の輝きによってガーッとはためくんですけど、この時、よく見ると、シータの着ている服の下が二の腕あたりまでが透けて見えるんです。

     つまり、もしかすると下着を着ていないのかもしれない裸の肩の辺りまでがチラチラ見えるんですよね。

     もちろん、見ている人に対しては「服がはためくのは、ラピュタの光がブワーッと出てるからです」って言うんでしょうけど。

     でも、本当にそうなんだったら、こんなフワフワの袖が開いた服を着せなきゃいいだけの話なんですよ(笑)。

     なぜ、こんなのを着せてるのかっていうと、「この裸の上にまとった服がビラビラと はためいているところを見せたいけれども、エロいシーンだと見て欲しくはない。でも、見てる人にドキドキさせたい」と思うからです。


     だから、こういったエロい描写は、必ずゾクゾクするような怖いシーンでやるんですよ。

     たとえば冒頭の、上空を飛んでいる飛行船をドーラ一味が襲うシーン。

     船の中に侵入してきたドーラ一味に気が付いたシータは窓から逃げるんだけど、その時、風がブワーッと吹いて、スカートが思いっきりめくれ上がって太ももの辺りまで見えるんですけど。

     これも、女の子が生きるか死ぬかのシーンだから、エロいようには見えないんです。

     宮﨑アニメには、こういうふうに、太ももが見えるくらい女の子のスカートが はためくシーンというのは必ず入っているんですけども。

     こういった緊迫感のある場面にそれを描かれると、見ている人間としては、「あ、パンツが見えそう」だなんて思った こっちが悪い。

     そんな恥ずかしいことを考えてしまう自分のほうがエロいんだ。

     そういうふうに思ってしまうんです。

     これこそが、「罪悪感がエロい」という考え方ですね。

    ・・・

     僕、これと似ていると思うのが、スティーブン・スピルバーグです。

     スティーブン・スピルバーグは、『ジョーズ』という映画の中で、何回も何回も人間の脚がジョーズに食われるシーンを見せた。
     
     脚から血を吹き出していたり、脚がなくなっていたり、そういうシーンをいっぱい描くことで、「ジョーズに襲われたかどうか」というのは脚を見ればわかるというように作ったんです。

     さて、映画の中盤で、主人公のブレディー所長の幼い息子が海岸で遊んでいるところにジョーズが現れます。

     ブレディー所長がバーっと走っていくと、息子が海岸で気絶してるんですね。

     気絶した息子が砂の上を引きずられているんですけども、もうエゲツないことに、脚を映さないんですよ。

     ブレディー所長の小さい子供の顔だけを映して、それが引きずられていくにつれて、おへそが見てて、太ももが見えて、そして、最後に無事な脚が見えるというこの順番。


     これ、何かというと、見ている人間に期待させるためなんですね。

     そして、期待させることで恐怖させているんです。

     「この子供には脚があるのだろうか? ないのだろうか?」
     「なんでこの子は気絶してるんだろう?」
     「なんでブレディー所長は青ざめているんだろう?」
     「なんで周りの人間は突っ立っているんだろう?」と。

     息子がズルズルと引きずられている間に、観客のたちの中に「どうか脚が無事であってくれ」という心と、「脚まで食われてしまっていればすごいのに」という本の少しの黒い思いを湧き起こさせる。

     なぜかというと、罪悪感というものが恐怖を作るとわかっているからなんですね。


     僕らが恐怖映画を見る時、一番いいのは何かというと、怖いことが起こること。
     つまり、怖い目に遭いそうな人が、本当に怖い目に遭うことを無意識に望んでいるんですよ。

     なぜなら、そこで怖いことが起きないと、僕らはその後ホッとしちゃって、恐怖を感じられないから。

     だから、本当に怖いことが起きることを望んでしまう。


     そういった「劇中の登場人物には怖い目に遭ってほしいと期待してしまう」ところに罪悪感が生まれて、それが『ジョーズ』という作品の恐怖感を作っているんです。

     それと同じように、宮﨑駿も「これはエロいシーンではありません」というバリアを強く張ることによって、それをかい潜ってまでエロく見てしまう僕らの心というのを利用して、エロいシーンというのを作っているんですね。

     だから、エロい描写というのは、必ずサスペンスフルなシーンの中で出していきます。

    ・・・

     あとは、さっき、コメントでも指摘していた人がいたんですけど、ラピュタに到着した直後のシータは、一番 最初にパズーと出会った時と比べると、もう言い訳のしようがないくらい胸が大きくなっているということがあります。

     『天空の城ラピュタ』というのは、わずか2,3日の出来事のはずだから、この彼女の胸の急成長は「女の子の成長は早いよね」では片付けられないんですよ。

     では、なぜ、こんなにもおっぱいが大きくなったのかというと、もう、こういうふうに描かないと気が済まなかったからなんです。


     この時点でのシータは、女であるということを利用し始めている。
     だから、その象徴として胸が急に大きくなっているんですね。

     これは、別にエロの話というだけではないんです。

     宮﨑駿というのは、エロだけじゃなく、“女性のすごさ”というのもちゃんと描く作家だということを言いたいんです。


     これは、タイガーモス号の厨房でシータが料理しているシーンです。

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     これ、覚えてますか?

     タイガーモス号の中で、シータが厨房で働かされることになる。

     すると、そこに、シータを一目 見て「かわいい」と思ったドーラの息子達が「何か手伝うことない?」って次々と言いに来て、その結果、全員こき使われるというシーンなんですね。


     ここで重要なのは、「ついに息子 全員と他の雑魚キャラたちが台所の手伝いを始めた この時に、シータはどう思っているのか?」ということなんですよ。
     
     宮﨑駿は、ここでのシータの表情を見せていないんですよね。


     これがもし、今時の普通のアニメだったら、どんなふうに描いているかを考えてみてください。

     絶対に、ちゃんと女の子の表情を描いた上で、「みんなが手伝ってくれるっていうから、お願いしちゃった、テヘッ☆」みたいな感情を見せる。

     もしくは、「この女の子は、本当にそんなことなんて全く考えていない天然キャラなんです」みたいな台詞のやり取りをさせるはずなんですよ。

     それが、普通のアニメの作り方なんです。

     だけど、宮﨑駿は、“テヘペロ”も“天然なんです”というのも、どちらもやらない。
     それでは“手塚治虫がやりそうなこと”になってしまうからですね(笑)。

     「そんなのは普通だ」と。
     「そんなのは当たり前だ」と。
     「違うだろ」と。

     なので、ここではシータの後姿しか見せないんです。

     すると、「このシータという女の子は、船の中で自分がモテているのがわかっている。だからこそ、他の男に次々と仕事を頼んでいるんだ」ということが暗に示されるんですよ。

     でも、だからといってパズーを呼んだりはしない。
     なぜかというと、自分が惚れた男だから。

     つまり、ここでシータは「自分が惚れている男はこき使わずに、自分のことを勝手に好きになったどうでもいい男はこき使う」ということをやってるんですね(笑)。

    ・・・

     その辺の宮﨑さんの本音というのは、『カリオストロの城』にも表れています。

     クラリスがカリオストロ伯爵と対決する時に、伯爵はクラリスの顎をガッと掴んで、「さすが、血は争えんな。もう男を操ることを覚えたか」というふうに言うんです。

     それを聞いた僕らは、ついつい「いや、それはカリオストロ伯爵の読み過ぎだろ! クラリスはそんな子じゃないよ!」というふうに思っちゃうんですけども。

     でも、その言葉を全く否定しないクラリスを含めて、「これ、何回目にあったことなのか?」というふうに、ついつい考えちゃうんですね。


     というのも、劇中の冒頭で自動車を盗んでガーッと走って来るあのたくましさと、中盤以降のルパンの前で泣いてるだけのクラリスっていうのの辻褄が合わないんですよ。

     つまり、クラリスはルパンが来たから弱い女の子になった。裏を返せば、ルパンが来る前は強い女の子だったはずなんですね。

     他にも、ルパンが去る時に、「泥棒をやめて私と一緒に暮らしましょう」ではなく、「私もあなたと一緒に行って泥棒をします」と言いますよね。

     その意味では、クラリスというのは、わりと“したたかな女”という部分もあるんですよ。


     もちろん、「タイガーモスの厨房でシータは男どもを利用していた」と断言はしないんですけども。

     宮﨑駿は、この後ろ姿だけを見せて表情を読ませないことを通じて、明らかに「女ってすごいよね」ということを表現しています。

     『ラピュタ』について、ドーラのしたたかさはよく語られるんですけども。

     じゃあ、そのドーラから「あの子は将来、私みたいになるよ」と言われたシータが本当はどんな女の子なのか?

     それは、劇中におけるシータは、あくまでも観客の男の子たちがドキドキして、胸を焦がして憧れるような存在だから、はっきりとは描かない。

     でも、「その後ろ姿だけはちゃんと描く」という意地悪さは持ってるんですね(笑)。

    ・・・

     これが、“宮﨑駿の作劇法”というのかな?
     エロスに対する考え方なんですよ。

     エロス自体は描きたい。

     パンチラも描きければ、女の子のおっぱいや太ももも描きたい。

     しかし、だからといって、エッチなシーンとして描きたくない。

     昨今のアニメーターがやっているような、「こういうの、好きでしょ? 僕も好きなんですよ!」っていうやり方が一番下品だ、と。


     宮﨑駿というのは“自分が好きなもの”は描かないんですよ。

     「『風立ちぬ』を見ろ! 俺はあんなにゼロ戦が好きなのに、ゼロ戦の戦闘シーンが1カットもない! なぜなら、そこでゼロ戦を描いてしまうと、手塚治虫になってしまうではないかっ!」っていうのが宮﨑駿なんですね(笑)。


     今回、僕がこうして連続して宮﨑駿の作品を取り上げるのはなぜかというと、もう、本当にね、みんなにもっと宮﨑駿を好きになって欲しいからなんですよ。

     「なんであんなに作画スタッフの消耗が激しい現場なのに、誰も離れて行かないのか?」とか。
     「宮さんはすごいと言いながら、ジブリを逃げていくような演出家がわりと多いのはなぜか?」とか。

     ここら辺も、宮﨑駿が持ってる魔力なんですね。

     そういうところもあるので、そこら辺をもう少し理解していきたいなと思います。

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