では、久しぶりに【捨てられないTシャツ】やってみようと思います。
これですね。
鳥取県の境港にある水木しげるロードのお土産売り場で買った、ビチゴンTシャツです。
「THE CASE OF THE BICHIGON」
ビチゴン事件って書いてあります。
ビチゴンは漫画版の『悪魔くん』に出てくる『ビチゴン』という怪獣なんですよ。
あのね、大体の人がビチゴンを、まず知らない。
見たことあるって人も、「あれ?ペロリゴンじゃないの?」って言います。
TV版『悪魔くん』の実写特撮ドラマでは、この怪獣がペロリゴンとして出てきたんですよ。
じゃあなぜビチゴンって書いてあるのか。
色々と複雑な事情があるんですけど、それには水木しげる先生というキャラクターを知ってもらうしかないんですね。
水木しげる先生に関しては、いずれ僕は時間をとってたっぷりやるつもりなんですよ(笑)。
たっぷりやるつもりなんですけども、それのまあ「前哨戦」として聞いて下さい。
『悪魔くん』という漫画があります。
水木しげるは『悪魔くん』を、もう何シリーズも描いてます。
それはもう貸本屋時代からですから。
最初の単行本は、1964年位に発売されたんですけどね。
その時は 水木しげる は、本気100%で描いてるんですね。
後に 水木しげる が、また一から描き直したヤツがあります。
それは、本気80%くらい。
ただ、どっちも打ち切りみたいに終わってるんですよ。
1966年に水木しげるの『悪魔くん』が、少年マガジンで連載されます。
その作品の人気が出たので、テレビの特撮番組として放映されることになったんです。
その当時のテレビ業界は、『月光仮面』とか『仮面の忍者赤影』とか、そういうラインが流行った後だったのです。
だから、実写で毎週オンエアできる、子供が主人公で、ちょっと怖いホラーの要素もあるものっていうのを求めてたんですね。
だから、「水木しげるの『悪魔くん』がいいじゃないか」という事になったんでしょうけどね。
原作の『悪魔くん』は、そんな作品じゃないんですよ。
何千年に1人人類に生まれてくる天才児が、人間社会に革命を起こして、飢えも貧困もない世界を作ることを夢見る話なんです。
本当にもうマルクス革命なんです。
そのマルクス革命を夢見て、悪魔と手を結ぶことを決意し っていう、とんでもない話です(笑)。
で、自分の実の父親が、松下電気っていうか、パナソニックみたいな大会社の社長なんですよ。
その人と最後は対決するしかないという話になっていく、なかなかエグい話です。
子供向け特撮番組としてテレビ化できるような作品ではないんですよ。
それをテレビで放映するにあたって、水木しげる先生は、もう妥協に妥協を重ねるんですね。
まず少年マガジンに連載するにあたっても、水木しげる先生は、妥協に妥協を重ねているんですけどね。
普通、作家が妥協に妥協を重ねるっていうと、苦しい姿を連想するじゃないですか。
苦渋の選択っていうか。
でも、水木しげる先生は、戦争でニューギニアにいた時に片腕を失ったような男ですから、そんなことで苦しいとは思わないんですよ。
「あっ、妥協でっか。 なんぼでもやりまっせ」って、あっという間に、メチャクチャ妥協しちゃうんです(笑)。
だからTV版の『悪魔くん』では、主人公の悪魔くんは、魔法がちょっと使えるただの少年になっています。
悪魔メフィストも、いくらでも主人公の言うことを聞いてくれ、心配してくれる、いいおじさんみたいになっちゃってます。
悪魔くんが、「メフィスト行け!」って言うと、「魔力、なんとかーっ!」と叫んで怪獣の頭に火花が散るとか、そういう、すごくお気楽な作品にしちゃったんですよね。
悪魔メフィスト、原作ではかなり怖い存在と言うか、トリックスターみたいな存在だったんですけどね。
水木しげる先生は大喜びで妥協してるわけです。
考えてみれば、『ゲゲゲの鬼太郎』だって、ネズミ男が出てきたお陰で、もう本当にどんなに金を生み出すようになったか。
「自分が貸本屋時代に描いていた暗い漫画では全然売れなかったのに、ネズミ男というキャラが1人出てきたお陰で、もう『鬼太郎』から印税がガッポガッポ入るようになって、本当にネズミ男には助けられた」って、嬉しそうに嬉しそうに語っています。
だからと言って、水木しげる先生は、金の亡者じゃないんですよ。
こういう世の中の変わり方が、面白くてしょうがないんですね。
自分が本気で描いたものであろうと、妥協して描いたものであろうと、何が売れて何が売れないのかっていうのを、実験みたいな感じで、すごく楽しんでいます。
本当に、いたずらっ子がジイさんになったような人なんですよ。
次号に続きます