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岡田斗司夫の毎日ブロマガ 2018/03/08
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今回は、ニコ生ゼミ2月25日(#219)から、ハイライトをお届けいたします。

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 『ノートルダムの鐘』解説 2・実は隠れた傑作


 『ノートルダムの鐘』は、“ディズニー・ルネサンス”というのをもたらしたジェフリー・カッツェンバーグの最後のディズニー作品であります。

 ジェフリー・カッツェンバーグというのは、80年代にディズニーに入って、まあ、ボスになって、『リトル・マーメイド』を成功させた人です。


 もう、とにかく、それまでのディズニー・アニメっていうのは、全然ヒットしなくて、「アニメ部門を解散しよう。ディズニーランドも売っぱらおう」という話が出ていたくらいの赤字路線だったんですよ。

 そんなディズニー社に、やっとヒット作をもたらした、本当に伝説の人物なんですね。


 『リトル・マーメイド』、『美女と野獣』、『アラジン』、『ライオン・キング』、『ポカホンタス』と連続で成功させたカッツェンバーグ。

 彼の「昔話をミュージカルで描く」という路線の最終作が、この『ノートルダムの鐘』です。
 まあ、公開された時は、もうカッツェンバーグはディズニーを辞めていたんですけどね。

 この作品以降、ウォルト・ディズニーのアニメというのは、基本的に「昔話をミュージカル形式で作る」という路線をちゃんと守るようになっていきました。

 この『ノートルダムの鐘』という作品の、原作からの最大の変更点は何かというと、1つ目「ハッピーエンド化」。

 もう1つが、「カジモドのイマジナリーフレンド」なんです。

 ポスターにも “ガーゴイル” という石像のキャラクターがいるんですけど、「この石像はカジモドの友達である」という設定が、原作とは違っているところです。

・・・

 この『ノートルダムの鐘』では、原作では軽薄なクソ野郎であるイケメンのフェビュス隊長というのを、ヒーロー役に配しているんですよ。

 なので、嫌なヤツではなくなっています。

 その代わり、フロロというノートルダムの司教補佐の男が完全な悪役になっています。

 フロロの役職は司教補佐というんですけど、この司教補佐というのは実際上、ノートルダム寺院のトップなんですよ。


 ノートルダム寺院という場所には、“司教座” という、カソリックの偉い人が派遣されてくるんですけど、この司教というのは、カソリックから派遣されてくる “大臣” のような存在なんですね。

 それに対して司教補佐というのは、現地で勉強して、下からのし上がって来た人が就く役職なんです。

 つまり、大臣と事務次官の関係みたいに考えてください。


 官僚のトップのことを “事務次官” と言うんですけども。

 次官と聞くと、よく知らない人は、「あんまり偉くないんだ」って思うところなんですけど、官僚の世界では事務次官がトップじゃないですか。

 同じように、司教補佐であるフロロは、現場トップの役職なんですね。

 司教というのは、とりあえず “祭祀(さいし)” と言うような、キリスト教の儀式を執り行うだけなんですけど。
 
 たとえば、「いろんなところから寄付をもらってくる」みたいな、現実的な運営は、全てフロロがやっているんです。


 このフロロというのは、実は原作では、理性の人であり、同時に錬金術師なんですね。

 この「理性の人であり錬金術師でありながら、ジプシー娘に恋をしてしまう」という矛盾点が、原作のフロロの面白さなんですけど、ここをバッサリ切って、単なる悪役にしちゃった。

 ここら辺が、ディズニーアニメの思い切ったところです。


 カジモドも、原作では耳が聞こえないんですよ。

 「せむしな上にひどいX脚」という身体的な奇形だけではなくて、「毎日、鐘を突いているせいで耳が聞こえない」んです。

 おまけに、原作ではハッキリと「性格は意地悪だ」って書いてあるんですよね。
 つまり、全然いいヤツじゃないんですよ。

 そんな、「見てくれも中味もダメなヤツが、アイドルであるエスメラルダに純粋に恋してしまった」というのが原作にある面白味なんですけど。

 ここら辺も、ディズニーアニメでは全て取っ払って “心の綺麗なモンスター” にしてるんですね(笑)。


 このディズニーアニメ版のラストでは、フロロという悪役が、カジモドとエスメラルダを塔の上からドーンと突き落とすわけですね。

 だけど、この突き落とすシーンも、原作では逆なんですよ。


 「カジモドが、自分がこれまで世話になってきた副司教様を突き落とす」という話なんです。

 全然 違うわけですね。

・・・

 変更点の2つ目は、カジモドにしか見えない3体のガーゴイルです。
 この石像達が喋って踊って歌ってカジモドに話しかけるということになっています。

 こういう描写は、ディズニーアニメではよくある光景なんですよ。

 たとえば『美女と野獣』だったら、野獣の城の中のティーポットとか時計とかが話したりするじゃないですか。

 だから、何も考えずに見ると、「ああ、よくあるディズニーのアレね」って思うところなんですけど、実は違うんです。

 このガーゴイルが動いているところは、カジモドにしか見えないんですね。


 実は、エスメラルダが来た時とか、その他の人が来た時には、このガーゴイル、一瞬にして “ただの石の塊” になってしまうんですよ。

 こんなこと、他のディズニーアニメでは一切やっていません。


 これ、何かというと、“カジモドの心の声” なんですよ。

 このガーゴイル達は、カジモドに対して「ノートルダムの外の世界に遊びに行こうぜ!」とか、「あの娘はお前が好きなんだよ」とか、そんなことをずっと囁いて、カジモドはそれ押されるようにして行動することになるんですけども。

 この声の主は、カジモド以外には見えない。

 この「カジモド以外の人の前では、ガーゴイル達はあっという間にただの石像になってしまう」という描写は、「彼らの言葉はカジモドの内面の声である」ということをハッキリ示しているんですね。


 『ノートルダムの鐘』の中で、このような描写がある理由はただ1つ。

 「カジモドに囁かれる言葉は、彼の内面の声である」と、わかる人には分かるようにしたかったからなんですね。


 表面上は「ガーゴイル達に励まされて~」みたいな綺麗事の体は取ってるんだけど、「あの美しいエスメラルダを自分のものにしたい」とか、「世話になった人を裏切る」とか、本人の中にはいろんな欲望があったということなんです。

 そして、彼の行動は、全部、そういった自分の中にあったいろんな声を元に自分で判断でした上で行ったということが、わかるように作っているんですよ。

 ここが、ディズニー・アニメとして面白いところですよね。


 もちろん、そういう視点で見なければ、ガーゴイル達が一瞬で石になってしまうのも、面白いコントみたいに見えちゃうんですけど。

 まあ、ここら辺は、ディズニースタッフがちゃんと二面性を持たせて作っているということなんですよ。


 わかる人にはわかる、わからない人には単なる楽しいアニメという作り方をしています。

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