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岡田斗司夫の毎日ブロマガ 2018/03/07
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今回は、ニコ生ゼミ2月25日(#219)から、ハイライトをお届けいたします。

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 途絶えてしまった 責任感のある科学 “錬金術”


 今回、『ノートルダムの鐘』というディズニーアニメを語るんですけども。

 その原作はこれです。

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(本を見せる)

 これは岩波文庫から出ている『ノートル=ダム・ド・パリ』の単行本なんですけど、こんなに分厚いんですね。

 しかも、これはあくまでも上巻で、この後には、さらに分厚い下巻が続いているんですよ(笑)。


 そんな、「いい加減にしろ!」っていうくらいメチャクチャ分厚い文庫本が2冊もあるんですけど、この原作本は、まあ読めないんですよ。

 この「読めない」というのは、「難しいから」というよりも、はっきり言って「現代の僕らにとってはわりと退屈だから」なんですね。


 この原作である『ノートルダム・ド・パリ』というのは、セルバンテスの『ドン・キホーテ』に並ぶ、“タイトルは有名だけど、ほとんど読まれていない作品” だと思います。

 でも、読めなくて当たり前なんですね。

 やっぱり、この作品は、当時のフランス人でしか面白くないような話なんですよ。

・・・

 これについては、NHKが発行している『100分de名著』という本の中で、わかりやすく解説されています。

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(本を見せる。『100分de名著』の番組本)

 この中で、『ノートルダム・ド・パリ』の解説を行った、フランス文学研究家の鹿島茂さんは、「これは半分ポエムみたいなものであり、詩というのは、文章を読むだけではわからなくて、原語の声で聞かないと入ってこない」と言っています。

 『ノートルダム・ド・パリ』の作者であるヴィクトル・ユーゴーの時代というのは、小説というものを音読していた時代から、目だけで読む黙読の時代への変換点だったそうです。

 そして、ユーゴーの後の作品である『レ・ミゼラブル』は黙読のために書かれた小説なのに対して、この『ノートルダム・ド・パリ』というのは、どちらかというと音読の小説なんだそうです。


 だから、フランス語の音感の通りに発声したものを聞かないと、あまり面白くない作品であると、鹿島さんは言ってます。

 まあ、フランス語を読めないし発音できない僕には、それが本当かどうかわからないわけなんですけれどね(笑)。


 この『100分de名著』の『ノートルダム・ド・パリ』の回の本は、わりと頼りになるアンチョコです。

 あとは、なぜ原作を読まなくてもいいのかというと、この作品は、そんなに理屈だった話ではないからなんです。

 実は、僕が思うに、おそらく、これは『雨月物語』とか『宇治拾遺集』とかに出てくる怪談に近いものなんですよ。

 不合理で、気味が悪くて、ちょっとした人間の黒い部分が出て来る不思議な話。
 そして、やたらと長い。

 そういう意味で、どちらかと言うと、日本の古来からある怪談に似たようなものと考えた方が掴みやすいと思います。

 とりあえず原作を読んだ上での僕の全体の印象は、もう本当に「『雨月物語』の中に入ってても不思議じゃない」というものでした。

・・・

 今回、扱う『ノートルダム・ド・パリ』の原作本というのは、もう本当に読みにくいんですよ。

 これを読まないで済ませるための本の1つが、さっき紹介した鹿島先生が解説を行っている『100分de名著』の本なんですけども。みなさんが、『ノートルダム・ド・パリ』を理解する上で、この本以上にAmazonで買うべき本はこれです。

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(本を見せる)

 『トキメキ夢文庫 ノートルダム・ド・パリ』という、漫画とイラストで読める、子供向けの解説本ですね。

 帯にもに書いてある通り、この本は小学校6年生までに習う漢字で読めるという子供向けの解説本なんです。

 おまけに、全ての漢字にルビが振ってあるんですね。


 僕ね、実は正直、この本のことをバカにしてたんです。
 けども、買って読んでみたら、これがメチャクチャ役に立つんです。

 『ノートルダム・ド・パリ』を本格的に知りたい場合は、実は『100分de名著』の鹿島茂さんの解説をガイドブックにして、この『トキメキ夢文庫』を読むのが最も正しいです。

 その方が、絶対にわかりやすいんですね。

 なので、まずは、ここから読み始めるのが良いと思います。

 というのも、この『ノートルダム・ド・パリ』が、『ノートルダムのせむし男』というタイトルの映画になった時に、原作の話はメチャクチャに組み替えられているからです。

 さらに、それがディズニーの『ノートルダムの鐘』になった時にも、またメチャクチャにお話が変えられるんですね。

 でも、変えられる前のお話というのは、映画化するにあたって変えざるを得ないようなものなんですよ。

 さっきも言ったように、これは『雨月物語』のような、もう本当に、読むのがシンドい話ですから。


 「じゃあ、どの部分を変えたのか?」というのを知るために一番良い文献が、このラノベ風の表紙の『トキメキ夢文庫 ノートルダム・ド・パリ』だと思います。

・・・

 この本、何が良いのかというと、登場人物のシンプルな関係図が出てくるところなんですよ。

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(パネルを見せる。主要4人物の相関図)

 左上から、愛の象徴であるエスメラルダ。

 そして、その下が“フロロ”という、ノートルダム寺院の司教補佐のオジサンです。

 右下が、カジモドというせむし男ですね。

 で、右上にいるのが、わりと知られていない、イケメンでリア充の“フェビュス”隊長なんですけど。

 このフェビュス隊長の紹介イラストには、吹き出しで「僕も君を愛してるよ。(婚約者がいるけどね)」というのが書かれているんです。

 もう、この台詞には、この本の作者の「とにかく、これを言わなければ気が済まない!」という悪意のような、正義感のような感情が入っているんですね(笑)。

 
 フェビュス隊長のこういった部分というのは、他の映画版やディズニー版では全部 省かれてるんです。

 だけど、『ノートルダム・ド・パリ』を解説する上では、エスメラルダが純粋に愛を捧げるフェビュスという男のクソ男っぷりというのを、本当は書かなきゃいけないんです。

 でも、それを書くとアニメにならない。

 だから、ディズニー・アニメをモチーフにしている劇団四季のミュージカルでも、全部 飛ばしてるんですけど、この『トキメキ夢文庫』では、こういった部分もちゃんと表現しているわけなんですよ。

 こういった関係図が冒頭に描かれているんですけども、これがあるだけで、物語がメチャクチャわかりやすくなるんですよね。

・・・

 で、もう1つのガイドブックがこれです。

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 (本を見せる)

 はい、『100分de名著』ですね。

 この『ノートルダム・ド・パリ』の鹿島さんの解説は、ハッキリ言って、ヴィクトル・ユーゴーの小説に関する分析という意味では、まあ浅いです。

 ただ、当時のパリの情景とか、「なぜこの作品が書かれたのか?」という背景はメチャクチャ深いので、とりあえず副読本として、これは読んでおいた方がいいと思います。


 この解説の中で面白いのが、鹿島さんは「これは、アイドルに恋をした2人のオタク青年という、現代の物語である」と言い切っているところなんですね。

 確かに、この作品の中心にあるテーマは、鹿島さんが言ってるように、「モテない男の愛は報われない」ということなんですよ。

 これが、今回、僕が『ノートルダムの鐘』を取り上げようと思った理由です。

 そう聞いて、「これはもう、ニコ生ゼミで取り上げる価値がある!」と思っちゃったわけなんですけど(笑)。


 「モテない男の愛は報われない」というのはどういう意味かというと。

 原作の『ノートルダム・ド・パリ』では、フロロ司教補佐もカジモドも、エスメラルダを激しく愛しているんですけど、この2人の愛は全く報われないんです。

 エスメラルダは、ただ単に「見た目がいい」というだけの理由で、クズ男のフェビュス隊長を好きになってしまって、物語の最後まで、これは1ミリたりとも変わらないんですよね。

 つまり、「怪物が美女に恋愛しても、悲劇しか生まないよ」という話なんです。

・・・

 こういった話をわかりやすく映画にしたら『ノートルダムのせむし男』というハリウッド映画になるし、更にそれを翻案すると『キングコング』になるんです。

 『ノートルダム・ド・パリ』では、「カジモドがエスメラルダを拐って、ノートルダムの塔の上にどんどん登る」というシーンがあるんですけども。

 「キングコングがヒロインを拐ってエンパイアステートビルに登る」っていうのは、完全にそれの翻案なんですよね。

 つまり、名作映画というのは、決してゼロから生まれてくるものではなくて、過去の作品からの引用で作られるんです。


 今、「オペラ座の怪人みたい」ってコメントが流れたけど、『オペラ座の怪人』だったらまだいいんですよ!

 ヒロインとの心の繋がりはあるから。

 『美女と野獣』だったらいいんですよ!

 野獣は最後にはイケメンの王子様になるから。

 だけど、『ノートルダム・ド・パリ』というのは、そういった救いが一切ない世界なんです。

 そして、だからこそ、ディズニーのスタッフはこの作品を選んだんですね。


 ただ、ハッピーエンドにするために、大幅な改造をしてるんです。

 してるんだけども、「モテない男の愛は報われない」という部分だけは、これを原作にしたどの作品でも再現しようとしているんです。

 この辺が、面白い所であります。

・・・

 この『ノートルダム・ド・パリ』は、これまで何度も映画化されています。

 まあ、代表作はこれでしょうね。
 わりと古い作品です。

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 (パネルを見せる。古い映画のポスター)

 1923年、第2次大戦前に作られたアメリカ映画です。
 このポスターは人口着色してありますけども、当然、モノクロのサイレント映画です。
 
 ディズニー版とは全然違いますよね(笑)。

 ディズニー版では、せむし男のカジモドが、ただ単に“ガタイのいい男”になってるんですよ。

 よく『シュレック』を見る時、劇中では「怪物だ! 化物だ!」って言われるけど、「別に怪物じゃないじゃん」と思うじゃないですか。

 あれと同じで、カジモドも、別に絵的にグロテスクな怪物としては描かれていないんですけど。

 この映画のカジモドは、かなり醜い顔です。

 でも、“ノートルダムのせむし男”って言うのなら、この映画くらいやらなきゃダメなんですね。


 この1923年版の映画の裏のテーマは「フランス革命の真実を暴く」なんです。

 フランス革命の真実とは、「市民が民主主義のために立ち上がる」では全くなくて、「下層階級が面白半分に武装蜂起して上流階級を倒す」というものなのだと、この映画の中では描いてるんですね。

 だから、やたらと革命シーンみたいな描写が多いです。

 まあ、1923年というのは、サイレント映画がかなり進化してきた段階であって、ただ単に怖い話とか昔話をやる時にも、現代の問題というのをテーマに盛り込むように、徐々になってきた時代だったんですね。

 だから、こういう映画になったんだと思います。

・・・

 この1923年の映画の他にも、フランスでも映画化されています。


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 (パネルを見せる。映画のポスター)

 『ノートルダムの せむし男』というカラー映画ですね。
 この作品は1956年公開だから、もう、僕が生まれる前ですね。

 ジーナ・ロロブリジーダという女優を前面に押し出した映画です。

 まあ、このジーナという女優は、『紅の豚』のジーナの名前のモデルにもなったんでしょうけれども。


 この映画の場合は、エスメラルダというヒロインの“ヒロイン性”に焦点を当てています。
 どういうことかというと、実は、このエスメラルダ、原作とは全然違うんですよ。

 原作の『ノートルダム・ド・パリ』のエスメラルダは「16歳のジプシーの女の子で、男性経験が全くなくて、歌と踊りが純粋に好き」っていう、本当にアイドルみたいな設定なんですね。

 そのアイドルに、メチャクチャ入れ込んでしまったオッサンとブ男が、両者報われないという、「俺達の話だ!」みたいになってるわけなんですよ(笑)。


 だけど、この映画では、ジーナ・ロロブリジーダという明らかに20歳を過ぎている。

 30手前くらいの峰不二子みたいな女が、「醜いカジモドみたいなのにも愛を注ぎますよ」という人間愛がテーマになっています。

 この頃から、『ノートルダム・ド・パリ』の描かれ方も、人間愛というテーマの方にズレて行くわけですね。

・・・

 で、この後、やっと出てきたのが、ディズニーアニメの『ノートルダムの鐘』です。

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 (パネルを見せる。映画のポスター)

 劇団四季の『ノートルダムの鐘』も、もちろん、これがベースになっています。

 だから、劇団四季のミュージカルを見て、ヴィクトル・ユーゴーの『ノートルダム・ド・パリ』がわかった気持ちになっては、いけないわけですね。


「どれくらい違うの?」(コメント)


 どれくらい違うのかなあ? 

 「漫画の『デビルマン』と実写の『デビルマン』ぐらい違う」と言えば、わかりやすいですかね?
 まあ、ちょっとネガティブな言い方になっちゃうんですけど(笑)。

 それくらい違うと思っておいてください。


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